何から話せばよいだろう。とんでもなく真っ黒で、とんでもなく複雑で、もしかしたら大事(おおごと)なんじゃないか? ってくらい、気持ちの悪い世界を私は見ていた。

まだすべての答えは出ていないが、先に伝えておいた方が良いこともあるので、今わかっていることを書き残しておきたい。

・「いいね」を付ける闇バイトに潜入

私が潜り込んでいたのは、インスタ(Instagram)の裏側とも言える世界である。単刀直入に言うと「闇バイト」。

「いいね」を付ける代わりに「報酬(カネ)」を得る、「いいねの労働者」になりすましていた。

極秘の潜入調査につき、身バレの危険性もあるため画像等はお見せできない。なので文章だけの記事になるが、どうか、最後まで読んでほしい。


・闇の入り口

どのようにこの世界に入り込んだのかは、迷惑メール評論家である私の過去記事を読んでもらえたら、だいたいお分かりいただけるだろう。

簡単に言えば「儲け話がありますよ」とインスタのDMで誘いが来る。興味があるならLINEに連絡セヨと書いてある。もちろん突撃。「こんにちは」と。


出てくるのは「日本名を名乗っているが、どう考えても日本語が少し怪しい異国の人物」であり、ほぼ100%女性の写真。もしかしたら “中の人” は男性かもしれないが、女性として近づいてくる。

そして、「メンター」を自称し、いきなり「簡単な仕事」を振ってくる。インスタで「だれだれ」を検索し、写真を「いいね」してスクショを送れと。そしたら報酬100円ですよと。

なお、この時の金額はまちまちで、50円の時もあれば300円の時もある。


恐ろしいのは、しっかりと振り込まれるということ。「いいね」がカネを生み出した。つまり、「いいね」が「カネ」になっている。仮想通貨のように「いいね」が通貨になっていると考えても良いと思う。

もちろん、いいねを押して報酬を得るということは、カネの出どころ、すなわち「いいねを買う人たち」が確実にいるわけだが、どんな人たちが買っているのかは後述したい。



・研修期間

で、どのように報酬が振り込まれるかだが、PayPayを使って振り込まれる時もあれば、「怪しいサイト」に誘導され、ユーザー登録し、銀行口座の情報なども送った後、その怪しいサイト内において「残高2000円以上で出金可能(振り込まれる)」というパターンもある。

最初がPayPayだろうが、最初から怪しいサイトだろうが、どのみち結果的には「怪しいサイト」に誘導されることになる。おそらく “彼ら” が労働者たちを管理しやすいからだろう。

ここまでが、“いいね仕事” の「第1ステップ」。研修期間中と言い換えても差し支えない。

その後、彼らは、さらに恐ろしい世界へと「小遣い稼ぎをしたい人たち」を導いていくのだが、その話もまたのちほど。


・どんな人たちが買っているのか

おそらくここまでの話を聞いて、みなさんが思うのは「どんな人が いいね を買っているのか?」という疑問だろう。

今のところ、私は100人以上(100アカウント以上)に「いいね」を押してきたが、「まじで!?」とビックリしてしまう大物もいれば、「あー、そうなるよね」と納得の人物もいる。

特定されない程度に羅列すると、


・女優(当然多い)
・女性タレント(めちゃ多い)
・女子アナウンサー(なにげに多い)
・女性モデル(まあまあ多い)
・男性タレント
・紅白に出たほどの大物タレント
・ものまねタレント
・超有名男性ミュージシャン
・役者(有名、無名問わず多い)
・歌舞伎俳優
・某有名劇団の俳優
・料理人
・料理研究家
・キャラ弁アカウント
・写真家・フォトグラファー(死ぬほど多い)
・TikToker(めちゃ多い)
・YouTuber(めちゃ多い)
・超大物グループ系YouTuberのメンバー
・誰もが知ってるお笑い芸人
・誰もが知ってるお笑い芸人パート2
・誰もが知ってるお笑い芸人パート3
・ビックリするほどの超大物お笑い芸人
・アパレルブランドCEO
・ファッション界の有名人
・女性アパレルブランド
・起業家
・音楽家・ミュージシャン
・美容師
・ブロガー
・エッセイスト
・金儲け系のインフルエンサー
・アウトドア系アカウント(なぜかメチャ多い)
・ダイエット系YouTuber
・パーソナルトレーナー
・Jリーグの某チーム
・サッカー元日本代表選手
・プロ野球の某チーム
・現役プロ野球選手
・元メジャーリーガー
・海外野球系アカウント
・某WEBメディア
・グルメ紹介系(めちゃ多い)
・某デリバリーサービス
・某テレビ局の某番組
・映画製作会社
・某映画作品公式(多数)
・動物系アカウント


ざっとこんな感じである。

上記の人物たちが実際に「いいね」を買っているのかどうかは定かではないし、別に私は「いいね」を買うことを悪だとは思わない。法をおかしているわけでもないし。ネタとして買ったこともあるし。


ただ、もし万が一、「いいね」を買っていたとしたら、正直、みっともないなとは思う。


悲しいとも思うし、醜いとも思う。おそらくのところ、麻薬の中毒者みたいなもんで。



・中毒になっているのではないか

一度でも「いいね」を買ってしまったら、グワー!っと「いいね」が付いてしまう。そして、何も知らない人たちは、その「いいね」の数を見て「ああ、人気者なんだな」と思う。


ところがだ。


仮に「いいね」を買い続けていたアカウントが、突如「いいね」を買わなくなる。そしたら、とたんに「いいね」が付かなくなる。だって、人気ないんだもん。そしたら何も知らない人たちは「あれ?」となる。人気を買っていたのがバレる。

なので、バレないために買い続ける……みたいなサイクルになっているのかなと。一度でもヅラを被ってしまったら、もう脱ぐことはできないというか。

そう思うと、なんか、悲しい。麻薬中毒者ならぬ「いいね中毒者」みたいな。


・虚像だらけの世界

もうひとつ悲しいのは、そんな「いいね」を見て、「あ、この人は人気者なんだ(数字を持っているんだ)な……」と判断して、メディア界隈がテレビ出演や書籍の執筆をオファーしてしまうパターンもあるだろうな……と思ったり。

また、別のパターンもある。「いいね」が集まったことで、インスタグラムの「オススメ」的なところに自動的に表示され、プロフィールに行って、リンクに飛ばして……みたいなことを狙っている人もいるだろうなと。

あらためて書くが、もちろん、上に挙げたアカウントたちが、「自分からいいねを買っている」わけではないかもしれない。所属事務所や、マネージメント会社が勝手に……みたいなケースもあるだろうし、勝手に巻き込まれている可能性もある。


ただ、いずれにしても、私が言いたいのは、我々が見ているもの(数字)の一部は「虚像の世界」だということ。


その「いいね」は「本当のいいね」ではなく「何の心も込められていないいいね」かもしれないということ。

最終的には金を稼ぐため、あるいは、見栄を張るため、承認欲求を満たすために「カネで作られたいいね」かもしれないということ。

その「いいね」は「いいね」じゃない「いいね」かもしれないということ。なんだかバカバカしい世界だなと私は思ったのである。


誰もが納得する実力者のアカウントには、勝手に「いいね」が集まってくる。

でも、実はそうではない、己の実力以上に「いいね」が付いているアカウントが入り混じる、虚実混交の世界になっているのが、今現在のインスタである。

もしかしたら、他のSNSも、そしてYouTubeやTikTokなんかも同じことになっているのかもしれない。



・私のスマホは彼らのもの

ここで、話を「仕事」のほうに戻したい。ある程度の研修期間が終わると、メンターたちは「さらに儲かる高収入ステージ」の世界へと誘ってくる。

たとえば、今までの報酬が300円だとしたら、一気に倍以上の700円になる……といった感じ。

その世界に入るためには、とあるアプリをインストールしなければならない。しかし、そのアプリというのは、簡単に言えば「乗っ取りアプリ」なのである。


少しだけ具体的に書くと、そのアプリはヤバすぎるため、通常のApp Storeなどでは流通していないオリジナルアプリ。

LINEみたいな連絡ツールと、「怪しいサイト」へのアクセスと、向こうの世界での「残高管理」と、仮想通貨の購入が同時に行える、地獄の幕の内弁当みたいなアプリである。


そのアプリをインストールするためには、まず「構成プロファイル」というファイルをスマホ本体にインストールさせ、さらに、アプリの提供者にスマホ自体を遠隔管理させる「リモート管理」をも許可せねばならない。

早い話、自ら「乗っ取られ」に行くのである。己のスマホをメンターに捧げるのである。

これを家に例えるなら、相手に家のカギを渡すどころの話ではなく、家のドアノブごと相手指定の商品に交換するようなもの。

その結果、位置情報の把握や、盗撮、盗聴、連絡先やメールの確認あたりは余裕で可能だと私は思う。

ちなみにリモート管理について調べたところ、私のスマホを遠隔的に「ロックする(使えなくする)」ことも可能らしい。

もう私のiPhoneは、メンターにキ●タマを握られているも同然。いつ核ボタンを押されてもおかしくない状態にあった。


・私は大丈夫なのか?

なお、私が潜入用に使っているスマホ(iPhone)は、バトル用に用意した専用機なので、私生活につながる情報は一切入っていない。

なので安心……と思いきや、これを書いている最中、iPhoneが突然「ウチのネットワーク上にあるデバイスの検索および接続できるよう許可しろ」との申請をしてきた。もちろん拒否したが、そのくらい自由自在に操作できるのであろう。


本当の本当に危険なので、この記事を書き終えたらすみやかに私は撤収するつもりであるが……心配なのは私以外の「いいねの労働者」である。

しっかりと配られる小金で飼い慣らされた「小遣いが欲しい人たち」は、そんな危険性なんて1ミリも想像せず、怪しいアプリをインストールしてしまっていると思われる。


なお、恐ろしいことに、報酬に関しては本当にもらえる。ただし、「高額報酬のため、運転免許証か健康保険証の画像を送ってください」とくる。

送らなければ、お金はもらえない。送ったら、もらえる。

とにかく、自らを捧げれば、カネがもらえるのだ。



・いまだかつてない危機感

迷惑メール評論家として活動し始めてから、もう10年以上が経つ。いま、もっとも危険性の高い状態にあると、私は肌で感じている。

最近なぜ、積極的に “これ系” の記事を書いているのかといえば、“過去最高レベルにヤバめなのが続々と海外から攻めてきてるぞ” ということを知ってほしかったからである。

あまり強く言うと「陰謀論者」のように思われるかもしれないので控えめに書くが、私はこれ、単なる「いいねの売り買い」を超えた何かがあると睨んでいる。


事実として、偽りの人気のために「いいね」をカネで買う人がいる。カネが欲しいから「いいね」を付ける人がいる。

カネをもらうために、スマホの心臓を相手に渡す。銀行口座も、本名も、運転免許証も保険証も、位置情報も、スマホに入っている何から何までを相手に渡す。

カネのために。ほんのわずかな “小遣い” のために。


その結果、情報ダダ漏れ、もう、何から何まで筒抜けなのだ。真の狙いはそっちなのではないかと私は思う。

なぜなら、さまざまな「いいね販売屋」の価格と比べても、どうも収支が釣り合わない。とにかく、なんか変なのだ。


お金で日本人の情報を買っている……的な肌感があるのだ。


本当に長くなってしまったので今回はこのへんにしておくが、笑い事では済まされない何かが着々と進行しているような気がしてならない。私の考えすぎ……だったら良いのだが。


・終わらない春

その日もメンターから指示されたアカウントを検索し、投稿写真に「いいね」を付けた。

写真の中にいる人物は、決まって満面の笑みを浮かべている。手や指でハートマークを作っている人もいる。

裏側を見ている私は、そんな彼らを直視できない。笑顔の向こうに “虚(きょ)” が見える。

人間の「欲」というものは、おぞましい。


フォトグラファーさんたちは、さかんに桜の写真を撮っていた。ピンク色した映え写真に、我々はロボットのように「いいね」を押す。

そんな心無い「いいね」に釣られ、「すごい写真なんだなぁ〜」と眺めながら、無邪気に「いいね」を押す人もいるかもしれない。


──まるで造花の桜でお花見をしているようだった。


その写真の桜の色はピンクだが、いいねのハートは真っ黒だ。


2023年4月、東京の桜は、ほぼ散った。


でも私は毎日サクラの様子を眺めていた。


【完】


執筆:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
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▼私には、このレベルで「儲け話」のDMが舞い込んでくる。その勢いは日に日に増すばかり。彼女らの真の狙いは何なのか。