今から約20年前。諸々の事情により、私は「JR新宿駅の東口を出て歌舞伎町を通過するルート」を毎日歩かなくてはいけなかった。当時の歌舞伎町は今より混沌としていた気もするが、若さのためか「怖い」と感じることはほぼ無かった。

ただし「ウザい」と感じることは1日に50回くらいあったように思う。理由は “見知らぬ若い男が次から次へと声をかけてくる” から。私は無視を決め込み足速に通り過ぎるので、多くの場合において、彼らの正体は不明のまま。

しかし赤信号につかまったタイミングなど、時に彼らは勝手に喋り出すこともあった。

・ヤツらの正体

ここまでの話を聞いて「ナンパでは?」と思われた読者も多いだろうが、その割合は全体の1%にも満たなかったはずだ。時間帯にもよるのだが、実は彼らの約半数はキャバクラなどのスカウトマンなのである。そして残りの半数は……


ホストだった。


新宿駅東口の改札を出た瞬間から、ヤツらは目を光らせている。笑顔とトークスキルでたくみに女性の心をつかみ、自分の店へ連れて行くのが目的だ。そして最終的には……私はついて行ったことがないので不明だが、 “女の修羅の道” が待っている場合もあるかもしれない。

地上へ出たあたりにも相当数の男たちが潜んでいた。突破できる気力がない時は、遠回りして地下の『サブナード』へ避難していたっけな。

アルタ横の小道は女の子の間で通称「スカウト通り」と呼ばれる魔の通り。道を1本外れればビックリするほど平和になるので、できれば西武新宿駅方向の道を歩いてくれ……と、当時の自分に伝えたい。

さて駅周辺はスカウトマンの割合が高い印象だが、スカウト通りを過ぎたあたりから形勢が逆転。ホストたちが幅を利かせはじめる。

特にドン・キホーテ周辺は本当に大変だった。なんたってホストというのは24時間365日、いつでも歌舞伎町に生息しているのだ。目的地へ到達するころにはヘトヘト……そんな平成の歌舞伎町メモリーなのであった。


ところが……だ。


・ブチギレである

あれから月日は流れ、30歳を過ぎた私は通勤のため、再び歌舞伎町を毎日通るようになった。歌舞伎町の街並みも約20年でずいぶん変わったものである。中でも一番大きな変化は……


ホストが全く声をかけてこなくなったこと!!!!!


ちなみに私が普段、歌舞伎町を歩く時の格好はだいたいこんな感じだ。それほど小汚くはしていないつもりだし、たまに「20代に見える」って言われることもあるぞ。そりゃ20年前より多少は大人びたかもしれないが……それにしたって完全無視はあんまりではないのか!!!!?

今回たまたまホストクラブを取材する機会に恵まれた私。溜まり切った怒りを、直接ホストにぶつけてみることにした。対応してくれたのは歌舞伎町にあるホストクラブ『AWAKE』のプロデューサー、NARUSE(なるせ)さん。おい、一体どうなっとんねん!!!!


NARUSEさん「はじめまして、NARUSEです」



キャッ! すごいイケメンが来ちゃった!!!


・ホスト、真実を語る

世界で一番単純な奴が言い出しそうなことをあえて言うが……かつて私が忌み嫌っていた “街のホスト” と “目の前のNARUSEさん” とでは、同じホストでも完全な別モノだった。なんかもう、レベルが全然違うのだ! 絶対的に!!!

売れっ子ホストになる過程で蓄積された経験値の差か、あるいは電磁波か何かが出ているのだろうか? もし20年前にNARUSEさんが声をかけてくれていたら、私は迷わず店へ行ったことだろう。

……おっと、いかん! うっかり忘れかけていたが、私は文句を言いに来たんだった。このイケメンに直接の恨みはないけれど、ホストが私を無視する件は断じて許すワケにいかない。ちょっとくらい声、かけてこいやコノヤロー!!!

NARUSEさん「ご説明しましょう。もともとホストクラブは定義が曖昧な業種だったのですが、あるとき風営法の管轄として整理され、深夜営業もキャッチも出来なくなりました。

それでも線引きが曖昧だったため、当初は居酒屋などに紛れてキャッチを行なう店も多かったです。しかし平成26年、東京都の『迷惑防止条例』が施行され、ついに居酒屋に紛れてキャッチすることも出来なくなった……というワケなのです」


え!?!?!? つまり…………


「見た目が劣化したから声をかけられなくなった」んじゃないってコト!?


NARUSEさん「もちろんですよ。現在、新規のお客様の来店は案内所やSNS経由が主流でして、僕たちホストは基本的に街に立つことをしないんです。亀沢さんはお綺麗ですから、状況が許せばホストはみんな放っておかないでしょうね。僕が断言します」


なるほど、そういうことだったんですかッ (*´∀`*) !!!!!!!


今回の調査の結果、歌舞伎町のホストたちは決して私を無視しているワケではないことがわかった。ホストを志す若手のタイプも20年前とはかなり違ってきたらしく、時代に合わせてホストクラブはその在り方を変化させているのだそうな。ンモ〜、そういうことなら早く言ってよォ〜!

残念ながらNARUSEさんはすでに偉い人であり、私の力で支援できるレベルを超えてしまわれている。しかし若手ホストの中には今も、将来的にNARUSEさんを超える実力を秘めた逸材が潜んでいるのだろう。

そう考えると20年前、もっとホストたちの話、聞いてあげてもよかったなぁ〜!

取材協力:Smappa!Group
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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