~ 第二章 灰色の闇へ ~
歌舞伎町ダイカンプラザ星座館。なんともハイカラな名前の建物だな……、ここにNARUSEがいるのか。
NARUSEはたしか、19歳から歌舞伎町で生きてきたホストだったな。約20年もの間、このきらびやかな街で活躍を続けるホストだ。2002~2022年までの間に、何度も景気を揺さぶる波が起きている。その波を乗り越えてきたとは……。
この扉の向こうにNARUSEがいる。準備はいいか? よし、スタミナンXXはもう1本あるから大丈夫だ。
佐藤「NARUSEはいるか?」
スタッフ「え? 何ですか、あなたは?」
佐藤「NARUSEに用がある。待たせてもらうぞ」
スタッフ「え? ちょっと困るんですよ」
スタッフ「何なんですか?」
●●「まあ、いいじゃないか。僕に用があるんでしょ?」
スタッフ「で、でも……」
NARUSE「お話はうかがってます。佐藤さん? ですよね」
ドンドン!
ホストクラブ「AWAKE」 プロデューサー NARUSE
NARUSE「春香ママから聞いてます。僕とお話したいんですよね?」
佐藤「ああ、歌舞伎町について教えてくれ」
NARUSE「何をどこからお話したら良いんですかね? 歌舞伎町についてと言われても」
佐藤「そうだな、昔のことを教えてほしい。きっと昔の歌舞伎町は今よりもずっと危険な場所だったはずだ」
NARUSE「そうですね。僕らの仕事についてお話すると、僕がこの仕事に就いた頃はもっとホストもイケイケでしたね。酒を飲んでなんぼみたいなところありましたし、ホストのケンカも絶えなかった気がします」
佐藤「なにッ! ホスト同士でケンカだと!? 客の取り合いか?」
NARUSE「ええ、昔はガラの悪いヤツばっかりでしたからね。店同士の揉めごとはしょっちゅうだったし、売掛でもめることも多かったんですよ」
佐藤「売掛というのは何だ?」
NARUSE「売掛とは、お客さんの持ち合わせが足りなかった時に、担当したホストが立て替える仕組みです。後日お支払い頂くことになるんですけど、その売掛を残したままほかのお店にお客さんが行ったりした場合に店同士、というかホスト同士で揉めるんですよね」
佐藤「なるほど、売掛を支払わないまま他のホストにお金を使われたら、その担当ホストは気が悪いな」
NARUSE「そうです。外でお客さんとバッタリ会ってその時に別のホストを連れてたりしたら、ケンカになりますよね。金払えって。この例はお客さんに非があるパターンですけどね。最近はケンカするようなホストはほとんどいませんね」
佐藤「昔は時代も荒かったしな」
NARUSE「時代といえば、昔はホスト自ら客引きしてましたね」(※「新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例」の施行前)
佐藤「あ、そうだ。ドン・キホーテの前あたりにたくさんホストがいた覚えがある。カラスなんて呼ばれたりして」
NARUSE「そう、ドンキの前は激戦区で、一応テリトリーがあったんですよ。それをはみ出して声をかけるとケンカになったり、怖い人がわざとに自分の連れの女を歩かせて、声をかけてきたホストに「俺の女に何してんだ」って脅されたりね」
佐藤「怖すぎ……、昔の歌舞伎町は修羅場だ。……ってことは、今は安全になったんじゃないのか?」
NARUSE「う~ん、そうですね。以前は怖いものは目についたんですよ。怖いけど、わかりやすかった気がします。厳しいルールはみたいなものはあったけど、それを守ってる限りは安全だったと思うんです。一応ケンカにも筋はあったし、男気みたいな理屈が通っていた時代だったと思います」
佐藤「じゃあ、今は……」
NARUSE「怖さが見えづらくなりましたよね。たとえば不意打ちで殴られたって話を聞いたり、イタズラでSNSに晒されたり。怖い人がほとんどいないから、ムチャクチャなことをするヤツが出てきた気がしますね」
佐藤「闇の部分がはっきりとした黒ではなく、灰色に変化したみたいだ」
NARUSE「そんな気がしますね」
佐藤「何でもかんでも取り締まれば、街はクリーンになるとは限らないと……」
NARUSE「そうだ、そういうワイルドな話を聞きたければ、「FERSEN(フェルセン)」の副店長の斎藤さんがよくご存じですよ。彼も20年以上歌舞伎町にいますから」
佐藤「ありがとう。さっそく行ってみるよ」
斎藤は次のページで待ち構えているぞ!
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