「それ、クセがあるから食べにくいよ」──声をかけられたのは、北海道の某土産物店で会計をしていた時のこと。買おうとしていたのはアザラシとトドの肉の缶詰。店主はトドの方を指さしていた。

へそ曲がりな筆者は、そういうことを聞くと逆に食べたくなる。やってやろうじゃないか、食べてやろうじゃないか、と思ってしまうのだ。

店主は続ける。「独特な臭いがあるんだよね」……なるほど。それならこっちにも考えがある。このトドの肉、一番美味しくなる方法で食べてやろうじゃないか!

・アウトドアは調味料

やってきたのはとある山の奥。街中からは2時間以上離れた、スマホの電波も届かないような正真正銘の田舎だ。

なんでこんな場所にやって来たかって……ほら、アウトドアで食べれば何でも旨いっていうじゃないか。

実際の味より美味しく感じられたら儲けもんだし、万が一臭いが強烈過ぎても、部屋や家具に臭いが染みつく心配もない。


筆者が購入した店では、アザラシもトドも価格は760円(税込)だった。

缶詰にしては少し高級だが、これが妥当な値段なのかどうかはイマイチわからない。

驚くべきは、どちらも北海道産ということだろうか。これまで水族館でしか海獣を見たことがない筆者としては、北海道に野生で生息しているということにカルチャーショックを受けるしかなかった。


開封してみると、意外なことに両方とも何の変哲もない肉である。

強いて言うなら牛肉っぽい。アザラシもトドも結局のところ哺乳類なんだな、なんて妙に納得してしまった。


湯煎して温めたら、さっそく食べてみるぜ!

ドキドキしてくると同時に、温まった缶詰からほんのり獣臭さがただよってきた。幸先が悪いな……。


・アザラシの肉を食べてみた

まずはジャブとして、アザラシからいただいてみよう。土産物の店主曰く「アザラシはまぁ、旨いよ」とのこと。

「まぁ」ってなんだろう? 一抹の不安を覚えつつもひとかけら口に入れてみたところ、


まぁ、旨い……のか?

めちゃめちゃ美味しいわけでも、激烈にマズいわけでもない。正直なんともコメントに困る微妙な感じだ。

肉の繊維はしっかりしていて硬く、良く言えば食べ応えがある。しかしマグロと牛肉の真ん中ぐらいの臭みがあり、黙って渡されたら「なんだこの変な肉は?」と訝(いぶか)しむことだろう。

アイヌやイヌイットの方々にアザラシを食べる文化があるそうで、昔見たアニメでもそういうシーンがあったことを覚えている。

当時の描写からもうちょっと柔らかい肉だろうと思っていたけど、考えてみればアザラシって運動量が多そうだし、全身ムキムキの筋肉でもおかしくないよな。


・トドの肉を食べてみた

アザラシであれだけ臭かったのだ、あまり気が進まない。実際に、トドからはなんだかクセのある脂っぽい臭いがして気持ち悪いんだよな。

しかし筆者も体当たり系ライターの端くれ。ここまできて食べないわけにはいかない。


えぇい、ままよ! 勢いで口に放り込んだところ……

なんということでしょう!


トドの肉、旨いやん!!!!

はじめは「クサッ」と思った。しかし噛むごとに「そうでもないな」という気がしてきて、最終的にはなんだか美味しい気がしてきたのである。

第一印象の悪さは、店主のコメントとアザラシの味からの思い込みだったのかもしれない。

ほどよい脂身とその甘み、しっかりしつつも柔らかめの肉質。後味に魚っぽさはあるんだけど、脂のおかげで肉を食べている感は強い。アザラシよりも、ダントツでトドのほうが好きだ!


しかしながら、帰宅後に口コミを調べてみると「トドは本当に臭い」「二度と買わない」といった酷評が多く、万人ウケしないということが判明した。

──ということは。筆者がトドを美味しく食べることができた一番の理由は、やはり “最強の調味料 アウトドア” だったのかもしれない。

それを検証するためにはもう1回トドを買い、自宅で食べる必要があるのだが……もういいじゃないか。

今日食べたトドは、間違いなく美味しかった。これ以上掘り下げる必要はない。臭いものにフタをしてしまうことを決めたのであった。

執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.

▼アザラシの缶詰めの原材料と成分表

▼トドの缶詰めの原材料と成分表