建築家・黒川紀章が設計したメタボリズム思想の代表建築、中銀カプセルタワービル。竣工50周年を迎えた今年、残念ながら4月に解体がはじまり10月頭に更地になってしまった。取り外したカプセルは今後、美術館へ寄贈されたり「泊まれるカプセル」になったりと、未来へのカプセル再生計画が進んでいる。

筆者は昨年7ヶ月間ひょんなご縁でここに住んでいたのだが、私が借りていたカプセルのオーナーこそ今回の「中銀カプセルタワービルの中の人」第3弾で紹介する中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表の前田達之さんである。実は前田さん、ここ10年近い人生を中銀カプセルタワービルに捧げている稀有な人物なのだ。

前田さんは1967年東京都に生まれ、埼玉県で幼少時代を過ごす。広告関連の仕事をしていた父親の影響で、中学時代よりメディア系の仕事に興味を持ち、大学では広告研究会やイベント企画サークルに所属した。卒業後は新聞社系列の広告会社に勤務し、系列会社への出向や海外駐在も経験した。


・カプセルとの出会い

中銀カプセルタワービルとの出会いは小学生の頃。親戚の見送りで羽田空港へ向かう首都高の車から見てびっくり。「ウルトラマンやウルトラマンセブンに出てくるような建物だなぁ」と子供心に不思議に思った。

社会人になり、勤務先への通勤路がたまたま中銀カプセルタワービルの前で、昔見たあの建物だと合致。中を見る機会はなかったものの、当時はピロティにモデルルームカプセルがあり覗くことができた。

所属移動もありその後はしばし遠のいていたが、勤務先が銀座7丁目に移転したことで、ふたたび中銀カプセルタワーの近くに舞い戻る。


・電柱に「売りカプセル」の手書き看板

2007年には建て替えが決まっていたのだが、ある日、中銀カプセルタワービル横の電柱に「売りカプセル」という手書き看板をふと発見。

普段だったらスルーしてしまうところだが、その看板に惹かれ不動産会社に電話をすると、「建て替えは決まったけど権利が複雑なため、退去まで時間かかりますよ」ということで「じゃあ購入します」と400万キャッシュで購入。めでたくカプセルオーナーになる。

はじめて購入したのはB1105。施工当初の壁面収納やユニットバス、オーディオなどはなかったが、とにかく丸窓が素敵だった。中はボロボロだったので、ノコギリやトンカチを持ってリノベーションに挑戦。


・カプセルコミュニティと管理組合

他のカプセル住人との交流もはじまり、それぞれのカプセルを巡ることにより「こんな部屋もあるんだ」と、どんどんカプセルの魅力にはまっていく。「中銀カプセル応援団」というブログを運営していた住人たちとも懇意になり、楽しいカプセルライフを過ごしていた。

また管理組合が開催する説明会に頻繁に参加していたこともあり、オーナー1年目にして管理組合の役員に。そこで内部の実状に触れたことにより、カプセルを保存していきたいという思いが芽生え、建物の保存活動について調べたり、マンション管理組合のルールなどを学んでいった。


・気づけば15カプセルのオーナーに

一度は建て替えが決まったが、なかなか話が進まない。こんなに住人に愛されていて、面白い建物なのに、建て替えが前提なのは納得できない、保存する方法はないかなということで、カプセルを複数購入して、管理組合内の議決権を増やしていくことにした。

カプセルバンクなるものを設立し、売りたいオーナーさんと買いたい人をマッチング。ただタイミングが合わない場合は自ら購入し、気づけば15カプセルを所有することになっていた。

最初のカプセル購入時もそうだったが、奥さんにはそのことを伝えられずにいた。しかし取材記事などで所有数が増えていくことを突っ込まれ、その度に「メディアは面白おかしく盛るから」とごまかしていたという。


・保存・再生プロジェクト発足

建物本来のコンセプトである、カプセル交換によるメタボリズム思想の実現のために、2014年に中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト(以下「再生PJ」)を発足。オーナーや住人が中心メンバーとなった。

2015年には再生PJはじめての書籍『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟(NAKAGIN CAPSULE TOWER BUILDING)』(青月社)を出版。これをきっかけにメディアから建物が再注目され、中銀カプセルタワービルはまだ解体されていないという認識が広まっていき、Webのアクセス数が増え、問い合わせも増えていった。


・見学ツアー&マンスリーカプセル

建物内部を見たいという要望に応え、2016年に見学ツアーを開始。月に100人以上を案内することもあり、口コミで話題に。また一時期、民泊を運営される方がいて、Airbnbが発表した世界の宿泊先トップ40にアジアで唯一、中銀カプセルタワービルがトレンドインすることも。

見るだけじゃなく、住んでみたい、泊まってみたいという声が増え、1ヶ月間限定の「マンスリーカプセル」という企画を開始。最初は1カプセルのみだったが、SNSで話題になり最大9カプセルを提供していた。

建物だけではなく、カプセル内と住人の魅力をきちんと形にしたいと、2020年には再生PJ3冊目の書籍『中銀カプセルスタイル: 20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー(Nakagin Capsule Style)』(草思社)を出版。


・解体、そして再生へ

他にもアーティストに作品作りや展示をしてもらうカプセルアートプロジェクトや、メディアの取材や撮影を仲介する役割も担ったりと活動していたが、2020年にコロナが広まってきた時期から、カプセルを売却するオーナーが増え、保存への道のりが遠のいてしまった。そして2021年に解体が決定し、2022年10月頭に更地となる。

140あったカプセルのうち23カプセルを再生PJが譲り受け、今後は国内外の美術館や商業施設で展示、また泊まれるカプセルとして再生していく。現在は工場にて、一度外した棚やユニットバスをふたたび取り付け、50年前の仕様に戻す作業が進んでいる。

前田さん「中銀カプセルタワービルは解体されましたが、取り外した23カプセルは現在、再生工場で修復中です。国内外美術館での展示や泊まれる「カプセルヴィレッジ」の運営、モバイル化、商業施設での展示など様々な用途で活用されます。これからもカプセルファンを増やしていくことが私たちの使命と考えています」

最初はとにかく中を見たくて衝動買いしたカプセル。中の丸窓からはどんな眺めなのだろうと胸をワクワクさせていた。気づくとあれよあれよとカプセルの沼にはまり、途中で会社もやめ、再生PJに全力を注ぎカプセルに人生を捧げてきた。前田さんが手がけるこれからのカプセルの未来が何より楽しみである。

参考リンク:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト 
執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

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▼ロケハンでカプセルを訪れたキアヌリーブスと

▼ロビーで筆者と一緒に記念撮影

▼外から取材撮影中。ちなみにビールを飲んでたのは私です

▼渡り廊下部分でのピクニック。カプセル仲間のaiboが撮ってくれました

▼最後のマンスリーカプセルメンバー退去時のオーナー卒業式

▼カプセルでついたお餅を鏡開き

▼空飛ぶカプセル! 保存カプセルを外す作業中

▼工場へと運ばれていくカプセル。公道を走る!

▼再生工場にて中銀カプセル住人たちと

▼新たに生まれ変わるカプセル

▼50年前竣工当時の仕様に

▼丸窓から。ピカピカ〜!

▼竣工50周年を記念した BEAMSとのコラボ。大人気で即完売するグッズが続出

▼2022年2月に出版された『中銀カプセルタワービル 最後の記録』(草思社)

▼この10年、カプセルに人生を捧げている前田さん