突然だが、あなたは20代に戻りたいだろうか? 私(中澤)は戻りたくない。プロギタリストになりたくて上京してきた当時の私。夢を追ってと言うとキラキラして見えるが、実際は、すぐやめるメンバーと客0人のライブハウス、爪に火を灯すような生活との闘いだった。

そんな現実を忘れさせてくれたのが子供の頃から慣れ親しんだアニメである。小学校時代、『スレイヤーズ』の洗礼を受けた私にとって、その文脈を感じる深夜アニメだけがリアルを忘れられるパラダイスであった

というわけで、毎クール放送・配信されている深夜アニメの第1話を全チェックしていたら、15年くらい経ってた。いっけね! ついうっかり。くしくも、本日10月22日はアニメの日だし、せっかくミュージシャンなので、2011年~2022年までのアニメで心に残っている曲を発表したい。

・個人的に好きなものです

言うまでもなくアニメにおいて重要なポジションであるアニソン。良い曲が良いタイミングで入ってくると、倍くらい名シーンに見えるものだ。アニソンが良いから見てみようとなる作品もあるくらい。

一方で、いくら内容が凄くても、アニソンは普通の場合もある。必ずしも名作のアニソンが名曲というわけではないと思う。したがって、ヒット作の曲が必ずランクインするテレビなどのアニソン神曲ランキングとは違うと思われるが、まずは2011年~2022年で曲自体が印象に残っているものをザッとあげると以下の29曲。

・2011~2022年の神曲アニソン29連発

「os-宇宙人」(『電波女と青春男』OP)
「secret base ~君がくれたもの~」(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』ED)
「Hacking to the Gate」(『STEINS;GATE』OP)
「ミライボウル」(『ドラゴンクライシス!』ED)
「激唱インフィニティ」(『神姫絶唱シンフォギアAXZ』挿入歌)
「恋暴動」(『貧乏神が!』ED)
「ココ」(『京騒戯画』OP)
「ぽにぷにそんぐ」(『げんしけん二代目』挿入歌)
「紅蓮の弓矢」(『進撃の巨人』OP)
「回レ! 雪月花」(『機巧少女は傷つかない』ED)
「とまどい→レシピ/みかくにんぐッ!」(『未確認で進行形』OP)
「バタフライエフェクト」(『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』OP)
「不安定な神様」(『うたわれるもの 偽りの仮面』OP)
「WATER BLUE NEW WORLD」(『ラブライブ!サンシャイン!!』挿入歌)
「平行線」(『クズの本懐』ED)
「ようこそジャパリパークへ」(『けものフレンズ』OP)
「Deep in Abyss」(『メイドインアビス』OP)
「ハッピー☆マテリアル」(『UQ HOLDER! ~魔法先生ネギま!2~』OP)
「ときめき☆くらいまっくす」(『うち​のメイドがウザすぎる!』ED)
「うまぴょい伝説」(『ウマ娘 プリティーダービー』挿入歌)
「シアワ星かわいい賛歌」(『キラッとプリ☆チャン』金森まりあキャラソン)
「トリカゴ」(『ダーリン・イン・ザ・フランキス』ED)
「お願いマッスル」(『ダンベル何キロ持てる?』OP)
「裸の勇者」(『王様ランキング』OP)
「残響散歌」(『鬼滅の刃遊郭編』OP)
「Cry Baby」(『東京リベンジャーズ』OP)
「はじまりのセツナ」(『明日ちゃんのセーラー服』OP)
「人芝居」(『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』ED)
「花の塔」(『リコリス・リコイル』ED)

──以上。中には、神曲ランキングであまり見かけないものまであるかもしれないが、少なくとも私の中では全て神曲。もし聞いたことがない曲がある場合は、みんな知ってる有名な曲と並ぶくらいのアニソンに出会うチャンスかも

とは言え、全部を紹介することはできないので、この中から特に突き刺さった曲を頑張って12曲絞ってみた。ミュージシャン目線での好きな理由をエクストラコンテンツに記載しておくので興味がある人は読みながら聞いてみてくれ。

執筆:中澤星児
画像:(C) 十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会

os-宇宙人
普通、音楽を作る時に綺麗なものを作ろうとするのはミュージシャンの癖みたいなものだと思う。しかし、危うい歌のピッチに代表されるように、『os-宇宙人』は色々ギリギリでそれぞれの音が暴れるようだ。そのバランス感覚が、2010年代にネットの混沌から出てきたの子っぽい。

ミライボウル
上記のような崩し方がある一方、プロフェッショナルを感じる「崩し」が聞けるのが『ミライボウル』。最初ボーっと聞いていたら、サビでストレートを喰らったような気分になった。強引かつダイナミックなリズムの転換に目が覚める曲だが、これだけガラッと変わっておきながら、何事もなかったかのように着地するところに本物のプロを感じる。

激唱インフィニティ
『神姫絶唱シンフォギア』は少女が歌いながら肉弾戦を繰り広げる変身ヒロインアニメ。面白いのは殴ったりするタイミングで歌声がちゃんと力んだり、声が途切れたりすること。初歩的な話だが動きながら歌ったり演奏するのってかなり難しいので、いちミュージシャンとしては下手なバンドものよりもリアリティーを感じる。さすが原作者の1人が音楽プロデューサーなだけある。

恋暴動
オールドスクールで気だるげな曲調がPUFFYみたいで良いのだが、歌詞には鋭さがあるところが2010年代の下北沢みたい。女性しか書けないような棘のある赤裸々さが突き刺さってくるようである。アニソンの中では有名な方ではないけど、だからこそ聞いてもらいたい曲。

WATER BLUE NEW WORLD
Aqoursの名曲として知られるこの曲だが、技ありなのはサビ2週目。「夢が見たい想いはいつでも僕たちを~」から転調して半音上がる。普通、サビ頭で綺麗に行きそうなものを、ためることによってサビからさらに一段階ギアの上がるブースト感が出ていて、永遠に上がっていくように感じる作曲は脱帽だ。

平行線
『リコリス・リコイル』のEDも素晴らしかったさユりさん。切り裂くような声が疾走するビートと相まって、聞いてるこっちも酸欠になりそうな焦燥感が最高である。10代を思い出すなあ。

ときめき☆くらいまっくす
リズムに乗った会話から始まるこの曲。メロウなサビの解放感が心地いいが、ある層の音楽ファンは、裏で流れるリフに聞き覚えがあるはず。そう、Aerosmithの「Walk This Way」だ。ちなみに、作曲者の睦月周平さんはギタリスト。これがカッコイイと思ったその気持ち、わかるわ。

シアワ星かわいい賛歌
「かわいい憲法」「月火水木かわいい」「金土日なら超かわいい」「一富士二鷹三かわいい」「五(ご)ゾウ六(ロッ)プに超かわいい」「この地球すごい丸いかわいい」など、進めば進むほどにパワーワードが頻出するこの曲。作詞家として嫉妬せずにはいられない。よくこんな歌詞書けたな……と。

トリカゴ
アニソンにはたまに昭和歌謡っぽい雰囲気の曲があるが、ここ10年の歌謡曲風のものでもベストはこの曲じゃないかと思う。ちなみに、この曲の作詞作曲を手掛ける杉山勝彦さんは、『明日ちゃんのセーラー服』の「はじまりのセツナ」も手掛けているが、共通するのはメロディーや展開の美しさ。

煌めくようなメロディーと流れるような展開は、強すぎて「ありがち」という言葉をど真ん中から粉砕している。大魔王バーンのメラみたいな作曲能力だ。ちなみに、乃木坂46「ごめんねFingers crossed」で第63回日本レコード大賞優秀作品賞を受賞されてます。

Cry Baby
流れるような展開というか、転がるように転調していくのが「Cry Baby」。ひとっところにとどまらないキーは、坂道を転がる石のごとし。弾けるのが凄いと思ってしまうレベルだ。

しかしながら、リズムがシンプルなためか、一聴するとただのポップスに聞こえて、その変態さが隠されている感じがもの凄く変態。中は裸だけどコートは着てますみたいな曲で、Official髭男dismへの好感度が上がった。いや、ブームを作る人は違う。

裸の勇者
歌詞と良い、曲調と良い、作品の内容にこれ以上ないくらいガッチリと噛み合うのが「裸の勇者」。ギターロックなのに、せーの!バーン!!って感じじゃなく、スーッと自然に盛り上がっていくのもセンスが良く、日本の山っていうか、イギリスの丘みたいだ。何かに立ち向かう時に聞きたい曲。

人芝居
そんなに派手な曲ではないのだが、2022年夏アニメで一番好きだった曲が「人芝居」だ。ダンサブルなリズムに乗って韻を踏みまくる歌詞に独特の陶酔感があるこの曲。シンプルに音の並びが気持ちよく、聞けば聞くほどに癖になる。