バンコクからプロペラ機に乗り、そこから船に乗り、さらにはバスを乗り継いで、やってきたのは『チャーン島』なるタイ南部のノドカな離島。ノドカな気分に浸りたくてここを選んだが、それにしたってなーんも無い島である。

だがそれがいい……はずだ。電車やタクシーなど走らぬ島であるからして、ひとまず私はオートバイをレンタルしてみた。聞けば港から40分ほど南下した先に “水上生活者の村” があるらしい。他に行くアテもないワケで、ここは行ってみるほかないだろう。

・古き良き田舎の観光地

チャーン島中心部から目的の村『Bang Bao Pier』への道のりは急な坂道の連続。これ直角? ってレベルの急勾配に何度も転倒しそうになりつつ、どうにか無事に辿り着くことができた私。バイクって坂道でスピード落としすぎると逆に危ないんだよね……。

水上村の内部には土産屋やダイビングショップが連なっている。今はまだ観光客が戻っていないチャーン島だが、コロナ以前はこの道も身動きが取れないほど人が押し寄せていたのだそうな。早く以前の活気が戻りますように!

今にも壊れそうな木の橋が家と家を繋ぐ水上村。実際に住めば苦労もあるのだろうが、ムードあるよなァ。

……とはいえ小さな村であるからして、全体を見て回るのには30分もかからない。お茶でも飲んで帰るとするか。

おやっ? あそこのレストランに見えるのは………………ゲゲッ!


・まさかと思ったら

これ……カブトガニやん!

生きた化石とも呼ばれるカブトガニ。日本では地域によって天然記念物に指定されているはずだが……これは観賞用だろうか?

あ……食用ですか。なるほど。聞くところカブトガニの値段は800バーツ(約3038円)。安いんだか高いんだかよく分からないが、どのみち日本で食べられないのは間違いない。せっかくだから……いっとくか!? カブトガニひとつ、くーださい!

おもむろに素手でカブトガニをつまみ出す店員さん。

この風格……ダースベイダーそのもの! 何があってもおいしく頂くから堪忍してね。

風通しのよいテーブル席でしばし待つ。15分ほどして運ばれてきたのが……

ジャーーーーン! こちらがカブトガニの丸焼きになります!!!


・想像してたんと違う

私はこれまで「カブトガニの中身がどうなっているのか」についてあまり深く考えたことはなかったが、その名前からして少なくとも “カニっぽい身” が入っているものと思い込んでいた。

しかしながら…………何、コレ? 甲羅の内側にビッシリと詰まったツブツブ。

お店の人に尋ねたところ、これはカブトガニの卵。わずかに “カニっぽい身” が確認できるものの、固く甲羅に張り付いていて可食部はほとんどない。どうにかこそげ取って食べてみる……「めっちゃマズい冷凍カニの軟骨」って感じ。

つまるところカブトガニ食とは “カブトガニの卵を食べる” ということのようであるらしい。何千粒はあろうかという卵を、恐る恐る口へ運ぶと……

ぐおおおぉぉ……なんじゃこりゃ! 尋常じゃない磯臭さ。そしてものすごい歯ごたえ。皆さんは焼いた魚の目玉を食べた経験がおありだろうか? 例えるならカブトガニの卵は、アジの目玉の中心部に似ている。食べたことのない方はぜひトライしてみてください。

そしてカブトガニを掘り進めるうち、底のほうから大量に出現したカニミソ。なんというクセの強さだ。口にするごとに自分自身がカブトガニと一体化してゆく錯覚をおぼえる。

ここで登場するのが付け合わせのサラダ。最初は「ずいぶん濃い味付けのサラダだな」と思ったものだが、これにはカブトガニの臭みを消す効果があったようだ。サラダの力を借りて少しずつ食べ進めてゆく。

そして1時間半をかけ、ようやく私はカブトガニを平らげることができた。この時は「もう2度と食べない」って思ったけど、しばらくすると妙にあの味が懐かしくなったものだよ。

日本では馴染みのないカブトガニ食……その正体は不思議とクセになる珍味中の珍味だった。タイ国内であれば様々な地域で食べられるようなので、魚卵ファンなら一度はトライしてみてほしい。できれば大人数でシェアするのがオススメだぞ〜!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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