子どもからシニアまで楽しめ、もっとも身近なパズルといってもいいジグソーパズル。
一般的にはピースが多くなるほど難度が高くなるが、たった29ピースなのに、しかも見た目にはなんの変哲もないジグソーパズルなのに、大人がガチで取り組んでも苦悶する難しさのパズルが存在した。
以下、ネタバレがあるのでこれから購入したいという方はブラウザバックしていただきたい。個人的にはネタバレを見てもそう簡単には解けないほど難しいと感じたが、自分で発見する喜びが減ってしまうおそれがある。
・「沼パズル ジグソー29」(税込990円)
商品には本体と解答図が入っている。「セオリーが通用しない」というフレコミだが、まずはノーヒントでチャレンジしてみたい。
正真正銘の29ピースで、種も仕掛けもない。縦横5ピースが並ぶくらいのサイズだろうか。きれいな発色のクリアパーツである。
よく見ると成形の裏表があり、解答図と見比べられるようナンバーが振ってある。ナンバーに規則性はないが裏表の判別が簡単だから、大きなヒントになりそうだ。
ジグソーパズルの定石は、まず角パーツを見つけ、そこから上下左右にフチを作っていくこと。ミルクパズルのような無地でも、総当たりでトライしていけば必ずマッチするから、この段階がクリアできない事態は考えにくい。
……が、おかしくね?
角にくるべきパーツが5個もある。どれかはフェイクということか? 嘘をついているのは誰だ……!
さらにフチにくるべき直線パーツ。これもおかしい!
明らかにパーツに偏りがある。ペアになるべきピースが圧倒的に足りないじゃないか! こんなに偏りがあっては合コンなら最初から失敗である。
ともかく、凹凸の形をよく見ながらピースをつなげてみる。いくつかはドッキングしたが、そこから先がどうやっても進まない。総当たりで「すべてのパターンを試してもマッチしない」という論理的にあり得ない事態に陥る。ま、まさか……
裏表の混在アリかぁぁぁ!
いきなりルールをひっくり返された気分である。いや、誰も「表面を揃えてね☆」とはいっていない。筆者が勝手に「表は表、裏は裏」と思い込んでいただけである。だってピースの裏表が揃ってないって気持ち悪いじゃない? 思い込みって怖い。
さらに、ふと凹凸の形が似ていることに気づいてはめてみたら……
これもアリぃぃぃ!?
直線だからといってフチにくるとは限らない! そう、このパズルは「思い込みや先入観を容赦なくぶち壊しに来る」のである。
筆者もバカではない。もう同じ手にはのらないぞ、と肝に銘じながら進めるも、いたずらに時間ばかり過ぎていく。
2時間が経過。もはや解ける気がしない。たった29ピースなんだから、総当たりしていけばハマりそうなものだが、一向に成果が出ない。「論理的にはこうなるはずなのに、おかしい!」「あり得ない!」という事態の連続なのだ。キツネにつままれているよう。
……やむなし、解答図に頼ろう。といってもすべての配置を見るわけではない。エッセンスだけいただくのだ。うん、そうだ、ズルではない。
ふぁっ!?
ナニコレ、こんなのあり? 横並びになるかと思われたパーツが、上下逆さに組み合っている! まさに発想の転換!!
完敗である。自分の常識が世界の常識だと思うな。知っていたつもりなのに、ちっとも理解していなかった。私はなんて大事なことを忘れて生きてきたんだ……!
完成まであと1歩。普通のパズルなら加速度的にゴールに突き進める段階に入っても、沼は手加減してくれない。
筆者の頭の中には「ざわ……ざわ……」という不穏な音が響いてくる。ご存じない方は『賭博破戒録カイジ』をお読みいただきたいが、こちらにも別の意味で人を恐怖に陥れる「沼」が登場する。
できた……。完成しても喜びはない。むしろ敗北感である。固定観念に凝り固まった自分を、白日の下に さらされたような。
恐ろしい……恐ろしい子だよ……
自慢じゃないが、最初からもう1度、つまり仕掛けをすべて知った状態でも完成させる自信がない。すごいパズルだ。
・本当に「常識では解けないパズル」だった
シリーズには「沼パズル ジグソー19」と「沼パズル ジグソー29」があり、前者は海外YouTuber クリス・ラムジー氏のプレイ動画が1200万回再生のヒットを飛ばしているという。
作者は新進気鋭の日本人パズルデザイナー Yuu Asaka(浅香遊)氏。学生時代に出品した「JIGSAW29」が世界パズルコンペティションで入賞したという。率直にいって天才である。常識を頭からひっくり返される衝撃と快感。1度プレイしてみて欲しい。