奈良公園の鹿たちが美味しそうに食べる『鹿せんべい』 は一体どこからやって来るのだろうか。そして、どのようにして作られているのだろうか。

長年ぼんやりと気になっており「いつか製作過程を見学をしてみたいな」と思っていた記者。このたび その機会に恵まれたため、みなさんにも “鹿せんべいができるまで” をお伝えしたい。

・鹿せんべい製造の老舗「武田俊男商店」

鹿せんべいの歴史は意外と古い。一説によると、江戸時代前期には既に存在していたと言われているほどだ。現在(2021年7月)せんべいは、奈良の鹿愛護会の登録商標で、製造や販売は組合に加盟する別業者が行うことになっている。

その製造元のひとつが、今回お邪魔した “武田俊男商店” である。こちらは大正時代から続く、由緒正しき鹿せんべい製造所。現在奈良県内には5つの製造所があるが、中でも最も歴史が深い。

どれくらい歴史があるのかというと、春日大社から正式に鹿せんべいの製造を認可された、大正6年(1917年)の許可書が残っているほど。つまりは100年以上続く老舗中の老舗だ。

おいそれと立ち入れなさそうなイメージとは裏腹に、要予約ではあるが見学者を広く受け入れているようだ。電話をすると、快く見せていただけることになった。


・材料は米ぬかと小麦のみ

いざ訪問すると、出迎えてくれたのは店主の武田さん。まずは奈良市の鹿について、玄関口の壁にかかっている写真などを見ながら説明してくださった。

さて。この時点ですでに香ばしいニオイが漂ってきていることに気付く。そのニオイに導かれるようにして店の奥へ進むと、鹿せんべい製造所のお出ましだ! 

中央に見えるのは、せんべいを焼くための機械。以前は手焼きだったようだが、現在は全自動のせんべい焼き機を導入している。

武田さんの案内によれば、鹿せんべいの主な材料は米ぬかと小麦のみ。これらを、機械を使って攪拌(かくはん)。均等に混ざったところで撹拌機からせんべい焼き機へと、ホースを伝って材料が流し込まれる。

にゅいんと注がれた材料は、続々と丸い型に嵌(はま)っていく。熱い鉄版で押さえつけられ平たくなり、よく見るあの平らな鹿せんべいが完成するという訳だ。


・焼きたては意外と美味しい

次々に出来上がる せんべいに見とれていると、武田さんに「焼き立て食べてみる?」とせんべいを差し出された。市販のものは絶対に口にすべからずだが、焼きたての誰の手にも触れていないものならばと、特別にいただけることになった。

確かに米ぬかと小麦ならば、人間も食べられる。なんなら体に良さそうだ。とは言え美味しくはなかろうと、口にした鹿せんべいは……

結構ウマい!!!! ホカッと温かく食感はサクッとしていて、香りも良い。もっと味気ないものかと思っていたが、意外としっかり米ぬかと小麦の風味もありで、割とイケる。

「それでは次に、こちらの冷めたものをどうぞ」と冷えた鹿せんべいをいただくと、なるほど……これは正直あまり美味しくない。なんとも気の抜けた味になり、少々シナっとしている。

鹿せんべいも奥が深いんだなあ、と実食を通して感じた次第だ。とまあ、このようにして完成に至った鹿せんべいは10枚束になり、各販売元へと届けられる。

ちなみに鹿せんべいを束ねる紙は、定められた証紙という決まりがある。この証紙の売り上げは鹿愛護会の活動運営に充てられ、鹿の保護のために使われるのだ。

この紙、そして紙を接着するノリも、鹿が食べても問題のないように作られているところが、またすごい。これでもかという程に、鹿のことを考えて作られているせんべいではないか。


・手塩にかけて作り上げられる鹿せんべい

武田さんの丁寧な案内のおかげで、鹿せんべいをより身近に感じられるようになった見学会だった。今後は鹿にせんべいをあげる際、もう少し味わって食べてもらえるように差し出そうと心に誓ったことは言うまでもない。

気軽に奈良に来てね、とは言い辛いこのご時世であるが、落ち着いたら是非お越しいただきたい。そして奈良公園の鹿にそっと、みなさんが手塩にかけて作り上げた “せんべい” をあげてほしい。

一から十まで、鹿のことを考えて作られたそのせんべいを、きっと鹿たちも食べるシカないと思うから。

・今回ご紹介した店舗の詳細データ

店名 武田俊男商店
住所 奈良県奈良市奈良阪町2476の2 
※見学の際は電話など(0742−22−4853)で要予約

執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.
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▼米ぬかと小麦を混ぜて作られる鹿せんべい

▼攪拌機からホースを伝ってせんべい焼き機へ

▼現在は機械を使って焼いています

▼アツアツのせんべいは結構美味しい

▼冷めると……うむ! 

▼人の手で束ねられて出荷されます

▼食べられる紙とノリを使うよ

▼鹿のことを気遣いまくった「せんべい」であることがわかりました

▼武田俊男商店さん、どうもありがとうございました!! 

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