何事もやりすぎは良くない。うん、それは分かってるんだけど、じゃあどこからがやりすぎになるのかというラインは意外と見えにくいものだ。

特に、自分の感覚や好みによるところが大きいものなんてやりすぎになりやすいと思う。例えば、見えない部分のオシャレとか。オシャレすぎるがゆえに、重要な機能を失ったトイレに出会った話をしたい

・ある日の昼下がり

それはある日の昼下がりのこと。ダンススタジオを借りきって踊っていた私(中澤)は、腹痛を覚えトイレを探した。しかし、箱型の部屋であるスタジオ内を見回すとトイレは設置されていない模様。どうやら、外にあるタイプのようだ。

こういったパターンの場合、大体はトイレの位置が示されているもの。そこでトイレ情報を探したところ、ビル2階の店で借りられるようだ。その間にも大きくなっていく腹痛。私はすぐにスタジオの外にある階段を上がった。

・雑居ビルの一室

雑居ビルの狭い階段を上ると、小さな扉がありマッサージ店の表札が出ている。2階というよりは踊り場という感じだ。普通に住宅街なので怪しい店ではないと思うが、雑居ビルの閉塞的な雰囲気が扉を開けるのをためらわせる。

だが、ためらっている時間はない。なぜなら、もう結構キてるから。そこで念のためノックをした後で開けてみたところ、スピリチュアルな空間が目の前に開けた。

落ち着いた色が基調の絨毯やベッドや蚊帳を間接照明がぼんやり照らす。心が落ち着くような香りが心地いい。雑居ビルの一室とは思えない異世界感。人影がないこともそんな異世界感を加速させている。そう、カウンターにもベッドにも人が1人もいなかったのだ。

・統一された世界観

一瞬、場所を間違えたかとも思ったが、2階の部屋はここしかない。そこで店の奥に向かって声をかけてみたところ、衝立の向こう側から「は~い」と女性の声が聞こえた。

出てきたのはこれまたスピリチュアルな年配女性。とは言え、話してみると普通に店員さんという感じで、要件を言ったら、すぐに察してトイレの場所を教えてくれた。

トイレの扉を開けると部屋を延長したような雰囲気。間接照明で色調も統一されている。トイレまでこだわって雰囲気を作りこんでるなんてオシャレだなあ。そんなことを思いながらとりあえず用を足した後、私は異変に気付いた

大体便器の右手に設置されているはずのトイレットペーパーが見当たらないのである。切れているとかじゃなく、あのクルクルするヤツごと見当たらない。

そこで周りを改めて確認したところ、便器の前に置かれていた細長い棚の引き出しの1つからトイレットペーパーの端が出ているのを発見した。その端を引っ張るとトイレットペーパーが引き出せるようになっている。ほっ

・トータルコーディネイトの罠

しかし、珍しいのはトイレットペーパーがピンクなこと。トイレットペーパーの色までトータルコーディネイトとは恐れ入る。内心、その徹底っぷりに感心したのだが……

ケツを拭いたところ感心してる場合じゃないことに気づいた。このトイレには重大な欠点がある。罠と言ってもいい。間接照明で薄暗い上に、トイレットペーパーが色の濃いピンクなもんだから……


う〇こがついてるか全く分からんッ!!!!


間接照明が下に置かれているため、いつも見る位置で確認すると影になって見えない。だからと言って間接照明の光に近づけても、コントラストのつきづらい濃ピンクのトイレットペーパーが邪魔をする。正直に言おうか? 絶体絶命だ

最後の手段として携帯のライトでトイレットペーパーを照らして確認してみたが、それでもよく分からない。最終的には一か八かでズボンを穿いてその店を後にしたのだった。


何事もやりすぎは良くない。だが、自分の正義を貫こうとする時、我々はよくやりすぎてしまう。そして、失くした後に気づくのだ。こんなに大事なものだったのかと。あなたはやりすぎてはいないか? 重要な何かを失う前に一度立ち止まって考えてみよう。

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.