キッチン雑貨や文房具などの日用品が欲しいとき、100円ショップの有能さは誰もが知るところだと思うが、実はアートやクラフトの素材も大変な充実ぶりである。

少しでも注目されて専門店で売られ始めたものは、100円ショップでも必ず似た商品がリリース。「これも100円!?」というキットのオンパレードだ。

ストレスがたまると無性に物づくりがしたくなる筆者は、初めて「スクラッチアート」に挑戦してみた。100円なら本格的に道具を揃える前の「お試し」にもちょうどいい。


・ダイソー「スクラッチアート 風景2」(税込110円)

やってみたのはダイソーの「スクラッチアート 風景2」。1箱に4枚のシートが入っていたので、なんと1枚25円! 図案集が書店で数千円で売られているのを考えるとウソみたいな値段である。

作業用のスティックも同梱されている。100円なのにすごい! 

原理はこうだ。紙の表面をおおっているスクラッチ素材をひっかくと、その部分だけ下地が見える。下地のカラーペーパーやホログラムペーパーが、切り絵のように浮かび上がるというしかけ。

黙々と手を動かす工程は心を静め、リラクゼーション効果があるという。自分で色を選ばなければならない「大人のぬりえ」よりもさらにシンプルで、上手・下手がないのもよさそう。

シートには下絵が入っているので、絵の描けない人でもなぞるだけで完成する。カラータイプとホログラムタイプの2種類あるようなので、カラーの花火の図案に挑戦。今年の夏は花火を見られるかな?


ではさっそく……


ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ……


こ、こ、これはっ、黒板を爪でこすったときの感覚! 全身の毛穴が開き、背筋に悪寒が走る! 

ぞわぞわぞわっ!


ダメだ、自分をごまかしきれない! 気のせいじゃなく、たしかに気持ち悪い!!


一気にゴリッと削れたときはいいのだけれど、スティックが上すべりしてしまったときの感覚がまさに黒板! 両腕に鳥肌が!!


身近なスクラッチ素材というと、たとえば「スクラッチくじ」がある。銀色部分を硬貨でこすると当選がわかるが、ほとんど抵抗なくスルッと削れるので、気持ち悪さを感じる人はまずいないだろう。

あれを100倍くらい厚くし、上から黒板でコーティングしたものを、アルミのヘラで何度もこすることを想像して欲しい。地獄である。

気がついたのだが、真面目に1本ずつ線を掘るよりも、勢いをつけてジグザグの動きにした方がダメージが少ない! 

それと、同梱のスティックには鉛筆のように細い部分と、ヘラのように太い部分がある。後者を使って「面」で一気に削った方が精神衛生上よい。

なんだか当初の目的の「無心で削る」とか「リラックス」とは真逆の方向性になってきた。筆者はいま「いかに少ない苦痛で完成させるか」のみに集中している。まさに本末転倒。

ところが、次の花火は曲線だ。これまでのような緩いカーブなら、手首のスナップで勢いにまかせて引ける。しかし今度は半円に近いような角度で、1本1本丁寧になぞらなければならない……この「ゆっくり、丁寧に」が苦行である。あああぁぁぁ。

やっとの思いで「魔の急カーブ」を乗り切った。HPがゴリゴリ削られていくのがわかる。ただ、作業は大変だが、指示どおりに削れたところは、大変に美しいことを認めざるを得ない。

広い面になるとホッとする。不快は不快だが、一瞬でツルツルの下地にたどりつくのでまだ耐えられるレベル。

紙とともに精神を削りながら、やっと半分まで来た。あとは水面の表現だ。頭の中は「早く、早く」という思いしかない。

必死すぎて、指が凹んで変な色になってきた。何日か続けたらタコになるだろう。


ゴミのような小さな点も、見逃さず削る。イヤならやめればいいのだが、ゲームでサイドジョブにやり残しがあったり図書館の本が順番どおりに並んでいなかったりすると気になる方なので、徹底的に埋めていく。

で、できた……! リフレッシュ……?


完成した花火大会の光景は美麗。夏の水辺のワンシーンを切り取っている。

残った黒い紙が夜空を表現し、色とりどりの花火が映える。自分で塗ったわけではないのだが、鮮やかな発色が素晴らしい。光が水面に反射して揺らいでいるのもよくわかる。


・個人差があるかも

油性マジックの音、ガラスを爪でひっかく感触、発泡スチロール同士がこすれる音など、人がワケもなく不快に感じる刺激というのはいくつかあるが、個人差が大きいこともわかっている。たとえば筆者は金属のスプーンが歯や皿に当たる音などはまったく平気。なにが不快なのかわからない。

なので今回のキットも、平気な人はまったく平気かもしれない。完成品は美しいので、興味があればぜひ。なお、残った3枚がどうなったかについては聞かないで欲しい……。


Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.