
居酒屋の「和民」でお馴染みなワタミ株式会社が、現在展開している居酒屋業態の店舗を順次「焼肉の和民」に転換していくという。居酒屋「和民」は消滅し、遠からず「焼肉の和民」になるのだ。コロナによって大人数での宴会が減り、少人数での食事が増えるであろうという予想からで、徹底的な低価格にもこだわっているとか。
発表から読み取れるコンセプト的に、究極の少人数であるソロ焼肉を低コストで食える可能性を感じる。さっそく都内にオープンしたばかりの「焼肉の和民」1号店に行ってみることに。結果としてそれなりに満足はしたものの……やっぱりアレが気になってしまうんだよな……。
・大鳥居駅前
やってきたのは2020年10月5日にオープンした「焼肉の和民」1号店こと、東京都大田区の大鳥居駅前店。店舗は駅から出て徒歩3分程度のところにある。オープン初日ということもあり、店舗前には沢山の祝い花が。
看板によると、平日は17時からで、土日祝日は11時から営業しているようだ。
・メニューは豊富
やはり初日ということもあってか混んでおり、20分ほど待った後に入店。入店時にタッチパネルでテーブルかカウンターかを選べるようになっていたが、筆者は1人なので「どちらでも」を選択した。そして案内されたのは、2人用のカウンター席。
2人用なため、1人だとかなり快適なのはまあ当然だが、2人で使用しても窮屈さは感じ無さそうな程度には広いと思う。そして居酒屋とは違い、100分の制限時間があるようだ。
注文はパネルで行い、注文したものはレールに乗って流れてくる(一部座席にはレールが通っていないらしい)仕組み。その辺の様子は後で詳しくお伝えするとして、まずはメニューだ。低価格が強みだというが、いかほどだろう。メインの肉を見てみると、平均的なグレードの肉は一皿600円前後といったところだろうか。
上質さがウリだと思われる「和牛上赤身」や「和牛上カルビ」などは一皿980円(税抜き)となっている。その中間の価格帯のものもちらほらあるため、肉は一皿約600円~1000円と考えておけば良さそう。そして一皿の分量は肉の種類次第。また、レバーは数量限定となっており、筆者が来店した時には売り切れていた。
また、程よい感じに肉をセットにした盛り合わせメニューも3種あり、そちらは1980円(税抜き)。
食べ放題コースも存在し、60品なら2880円、90品なら3480円で、110品なら4380円だ(全て税抜き)。食べ放題の場合、65歳以上や未就学、小学生は安くなるもよう。
他にも居酒屋の和民のように、麺類や前菜、デザートなども豊富。酒類も居酒屋の頃同様のラインアップがあるように感じた。ほぼ居酒屋「和民」並みのサイドメニューがある焼き肉屋。より詳しく知りたい方は、公式HPのメニューを確認してほしい。
・レール上を流れてくる
色々迷ったが、とりあえず盛り合わせセットから「ワタミ特盛」をチョイス。理由は肉が多そうに見えたからだ。タッチパネルから注文し、待つ事10分ほど。この後も別のものを注文するが、初日で混んでいたからだろうか? 100分の制限時間に対して、注文から到着までの待ち時間は常に長めだった。
注文したものは、まるで回転寿司屋のごとくレールにのって流れてくる。受け取ったら、目の前にある赤いボタンを押して、受け取ったことを確定させる仕組みなもよう。
https://instagram.com/p/CF_mBNSpXrT/
これまた寿司屋と同じだが、流れてくる注文品が適切に注文者に行き渡るかは性善説にゆだねられる仕様だ。そして「焼肉の和民」は、寿司屋よりも居酒屋的な側面が強い。店内の雰囲気だけなら、既存の居酒屋の「和民」とほぼ同じだ。
客層も、少なくとも初日に関しては居酒屋と大差ないように感じる。酒で気が大きくなったアウトロー気味な集団が、流れていく他人の注文に良からぬことをしてSNS辺りに自慢げに投稿して炎上する事態が起きないか心配になる。
レール上を移動するトレーの速度がそこそこ早いため、上に蓋的なものをかぶせるだけでもリスクは減るだろう。むき出しなら箸や手を突っ込む余裕はあるが、蓋を開けて何かをするとなると、速度的に難易度は飛躍的に上がりそうだからだ。
また、これは個人的な問題かもしれないが、高さや位置的にレールを挟んで向かいのテーブルの人と時折目が合うのも気になった。何も注文していない時には視線を遮ることができればパーフェクトだった。
・肉の量とコスパ
それはさておき、とりあえず肉を見ていこう。「ワタミ特盛」はいい感じの肉の量。これは選んで正解だったと思う。
肉の質も値段に対して良好なクオリティで、どの部位も食うとしっかりウマい。焼き肉屋として、肉質に対してのコスパの良さは十二分と言えるだろう。はっきり言って遠方からわざわざ出向くような突出した神クオリティではないが、近所の駅前にあれば普通に通うと思う。
ここで白米を注文したのだが、届くまでにはそれなりに時間を要するようで、10分ほどは肉だけ食べ続けるというやや寂しい状況に。やはり注文から提供までの時間の長さが気になった。ちなみにライス(大)は税抜き350円で、体感では普通のチェーン店の牛丼の並のご飯と同じくらいの分量だ。
コストに対するボリュームについても簡単に述べよう。平均的な中年男性な筆者は「ワタミ特盛」とライス(大)およびライス(中)を食べきった辺りお腹いっぱいになった。税込みで2838円だ。今回はこの後の予定があったのでアルコールを頼まなかったが、頼んだ場合は3000円~4000円くらいになるだろうか。
食べ放題コースを選べばお得感はもっと増すかもしれない。まあ、普通に従来の居酒屋の「和民」で満足するまで飲み食いしても同じくらいかかるものだ。想定される食費はほぼ居酒屋の「和民」のまま、メインが焼肉になっただけという捉え方でいいと思う。もちろん、高い肉ばかり頼まなければの話だ。
・唯一にして最大の気がかり
ということで、利用した感じをまとめるなら「わりと普通の居酒屋っぽい焼き肉屋」である。値段はお得なのかもしれないが、同じくらいお得な店や、もっとお得な店は都内にいくらでもある。
特筆すべき長所は無い反面、「焼肉の和民」には特筆すべき短所もまた無い。肉のグレードやサイズは満足のいくものであり、相応のサイズや厚さでしっかりウマかった。ソロ焼肉的な視点からも、最小のカウンター席が2名用に作られているのは広々としていて快適だった。盛り合わせが1人分に丁度いい分量で、100分の制限時間も妥当だった。
このように書くと、インパクトを欠いた印象を与えるかもしれない。まあ実際、焼肉屋そのものとしては「わざわざ出向いて食べる価値あり!」「神コスパ!」的な方向で報じるほどのものではないと思う。
しかし、恐らくワタミもそこは目指していないのだろうと思う。恐らく重要なのは、現時点で都心から場末まで至る所にある居酒屋業態の店舗が、ことごとくこの居酒屋的メニューもそろえた「焼き肉の和民」になる点だ。
つまり、肉以外のメニューが普通より豊富な他は、まあ少し安いかもな……というくらいの絶妙なクオリティの焼き肉屋が、全国のその辺の駅前にポンポンできるということ。これは「焼肉食うなら和民」みたいな、「和民」が焼き肉屋の代名詞になる未来を容易に想像させる。
特に、すでに好立地を抑えまくっているのは強すぎるだろう。焼き肉業界自体の客離れが起きない限り、成功はほぼ確定しているのではなかろうか。だが……食べていてどうしても心から楽しめないことが1つだけあったのだ。
それは、ワタミのイメージである。毎日新聞によると、ワタミは2020年9月15日に残業代未払いの問題で労働基準監督署から是正勧告を受けている。このニュースは新聞だけでなく、ネットや地上波などで広く報じられたばかり。ぶっちゃけ、「またか」と思った方は多いだろう。
「焼肉の和民」1号店の店内は実に活気に満ちていた。体育会系な方向性なのか、店内には常に店員の皆さんによるあいさつやら掛け声が飛び交い、誰も皆とても筆者には真似できないレベルで頑張って働いていた。
食事中に色々とシステムについて質問したりするたびに、店員のお兄さんやお姉さん方はとても丁寧に教えてくれ、心証も良かった。が、だからこそ労働環境に関する悪いニュースが脳裏にチラついてしまうのだ。何年も前の話ならともかく、報じられたのは数日前である。気にするなという方が無理だろう。
居酒屋の「和民」が消滅し、「焼肉の和民」に生まれ変わる。飲食業界でもまれにみる大改革だ。少なくともオープン初日に1号店を利用してみた限りでは、「焼肉と言えば和民」的なイメージが定着する日が来てもおかしくない気がする。既存の強みの無い小規模な焼き肉屋は、客をことごとく和民にとられてしまうのではなかろうか。
それなりに上手くいきそうに見える改革だが、真に成功するためにはあと1手足りないと思う。それは、労働環境に関する悪いニュースが今後一切出ないよう、その方向での改革もしっかりなされることだ。
気にしない人も沢山いるだろうし、気にしない人々からだけの売り上げでも何とかなるかもしれない。しかし、労働環境関連のイメージが理由で店舗を選ぶ客層もまた間違いなく存在するはずだ。その層からも支持されるようになることは、真に成功するために不可欠な要素だと思う。ワタミの今後に期待したい。
参照元:焼肉の和民、PR TIMES、毎日新聞
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼ロボットがいた
江川資具













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