「錯視」という現象を聞いたことがあると思う。目の錯覚のことで、視覚は正常であるにもかかわらず、脳の働きで実際とは異なる色や形や大きさに見えてしまう生理的現象だ。

「だまし絵」のようによく見るとトリックがわかる、というものもあるが、生理的錯覚のほとんどは「わかっていても、どうしてもそう見えてしまう」という強烈な引力を持っている。今日は、そんな不思議な錯視の世界を気軽に体験できるクラフトブックをご紹介しよう!


・錯視の世界

本題に入る前に、人間の目がいかにだまされやすいかを体感してみよう。同じ長さの直線なのに、羽根をつけると途端に長さが違って見える、超有名なミュラー・リヤー錯視や……


比較対象によって大きく見えたり小さく見えたりするエビングハウス錯視。


「絶対ぐにゃぐにゃしている!」というカフェウォール錯視などなど、自分の感覚が信じられなくなるだろう。真実だと思っているものが、実は脳が見せている幻に過ぎないのかも……と『マトリックス』の世界を疑ってしまう。


・『トリック・クラフトBOOK of トリック・ホラー・ナイト』(税込1430円)

そんな錯視やだまし絵を気軽に体験できる、小学館の「トリック・クラフトBOOK of トリック・ホラー・ナイト」。子ども向けだがよくできているので、いくつか作って内容をご紹介したい。

ペーパークラフトになっているので、ページからパーツを切り抜いて組み立てる。

いい感じの日本家屋が完成した。「幽霊屋敷 魔界堂」だそうだ。作者のマシュー・ラビリンス氏はイギリスのウェールズ出身らしいのだが……日本の怪談にも詳しいのか?

ここで注目して欲しいのが、付属の4体のキャラクターが「実際にはすべてほぼ同じ大きさ」というところ。

それなのに入口からのぞき込むと……大きさが全然違うよ!


位置を変えて貼り直してみると……今度は大きさが逆転したー! これは「エイムズの部屋」という有名な仕掛けなのだけれど、わかっていてもだまされる。なんで? どうして? と何度ものぞき込んでしまう。


・リバース・パースペクティブ

続いて「リバース・パースペクティブ」という現象。モンスターで満員のバスが紙の上に飛び出ている。

視点を動かすと、バスがゆらゆら空中を動いているように見えるのだが……実際にはバスは静止している。揺れていないし、動いてもいない。


さらに、背後からガイコツのキャラクターが手を伸ばすと、バスの前面から側面を通り、今度は後ろ側にまっすぐ突き抜ける。あり得ない。

タネ明かしをすると、前方に飛び出して見えるバス、実は凹んでいる。ガイコツの手をまっすぐ通せるのもそのため。視点を動かすと見え方が変わるが、脳が勝手に「こう見えるということは、動いているはず」と解釈をしてしまう運動錯視が起きる。


・不可能図形

もう1つ、エッシャーのだまし絵でも有名な無限階段を作れるページ。こちらもペーパークラフトのように組み立てていく。余談だが裏面にパーツ名が印字されていたり、折りやすいようガイド線が入っていたりと、工作キットとしても気配りがある。

完成すると……どこまでも降り続けられる無限階段が誕生した!


だまし絵としての要素もあって、平面なのに出窓が立体的に見えたり


建物の内部に入っていけるようなペイントもほどこされている。


無限階段・無限回廊は「不可能図形」に分類されるもので、物理的には成立しない。なのでちゃんと「タネ」や「からくり」はあるのだけれど、スマホで撮影すると実にリアル! だまされてしまう。


そのほかにも映画の原型「ゾートロープ」を作れたり、また別の不可能図形を立体化できたり、全部で7つの工作が載っている。


・オリジナル作品も作れる

このクラフトブックの優秀なところは、どのページも切り抜く前にコピーを取ることを推奨していて、オリジナルの型紙を作れる点。アニメーション工作のページに至っては、白紙の型紙がついているので自作のイラストを加えることができる。

アイディア次第で、いろいろな世界が作れると思う。仕組みを理解しながら人間の知覚の不思議を楽しめるクラフトブック、お子さんの夏休みの自由研究にもどうぞ!


参考リンク:小学館
Report・イラスト:冨樫さや
Photo:RocketNews24.