
ご当地系バラエティ番組などによれば、全国の隣接する地方都市間では「どちらがより栄えているか」等といった争いが頻発しているらしい。私の生まれ故郷である鳥取県については “島根との敵対関係” を取り沙汰されることがままある。
しかし島根がどう思っているかは知らないが、島根とまともに張り合おうとしている鳥取県民はほとんどいない気がするんだよなぁ。なにせ島根には神々が集いし出雲大社がある。イチローの嫁さんがいる。佐野史郎も輩出している。鳥取の完敗だ。それでええ。ええんじゃ……。
あまりにも「勝つこと」に慣れていない鳥取県民には自己主張が欠乏しがち。それはいつしか「控えめな県民性」にまで昇華したのだが……なんでも最近「俺たちが日本一だ」と公言してはばからない鳥取県民がいるとの情報を掴んだ。それ……本当に鳥取県民か?
・おーい! みんなカニに感謝しような!
やってきたのは島根との県境、鳥取県『境港市』だ。『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる先生の出身地として知られている。
駅をよく見れば『鬼太郎駅』とある! 空港も『鬼太郎空港』だからいっそ『鬼太郎市』に改名すれば混乱が減るかもしれない。
そんな鬼太郎駅(境港駅)を出るとすぐ、全長約800メートルにおよぶ『水木しげるロード』が出現。
そう、今回ここへ来たのはほかでもない。水木しげるロードを舞台に開催される『カニ感謝祭』なるイベントに参加するためである。実は境港は「カニの水揚げ日本一」を誇る街。日頃の感謝を祭りで表現しようとは、なかなか粋なはからいじゃないか。
プログラムを見れば「カニ汁ふるまい」「300名にカニプレゼント」など、とにかくカニを食べまくろう! という強い意気込みが感じられる内容。
日本における一般的な感謝祭とは、「感謝される相手が得をする祭」であるはずだ。感謝されるべきカニがいつも以上に食われるという現実に、 “トンカツ屋の看板が笑顔のブタのイラスト” だったときのような奇妙な感覚が湧き上がる……まぁ食うんだけどね!
『水木しげる記念館』前で、感謝式典はおごそかにスタートした。境港市長などによる「カニこぼれ話」が次々と繰り広げられてゆく。
なになに……今シーズン鳥取県産の松葉ガニが最高500万円で落札されただって!? しかも鳥取県産のカニは全国シェアの約6割を占めるってマジかよ……おまけに『蟹取県ウェルカニキャンペーン』が今年で6年目だなんて……知らないことだらけだァ!
主役のカニは山積み状態でスタンバイ!
・祭のカオスな全貌
寒空の下、太鼓の演奏が祭り開始を告げる。
……あらっ?
よく見ると外国人の女性がハッピ姿で太鼓を叩いてる〜! こういうのって、嬉しいよね!
そこから祭りは一気に佳境を迎えた。なぜか人力車に乗った “鬼太郎” と “ねこ娘” を先頭に、カニを持った集団がパレードを行うというのである。誰だコレ最初にやろうって言い出したの?
後ろをカニ山積みのリヤカーが続き……
「かに水揚げ日本一」と書かれた旗を手に、市民たちが「ウォー!」とばかりにさらにその後ろへ続く。
「群衆を引き連れた鬼太郎一行が『妖怪神社』へカニを奉納」……有史以来これほど不可思議な状況も他にない。
最後はみんなで『鬼太郎音頭』を踊るカオス。勝つことを知らなかった民衆が「日本一」を掴んだとき……フラストレーションはこういった形で爆発するものなのだろうか。
・北海道と北陸には負けん
ちなみに今回の祭を主催したのは『境港カニ水揚げ日本一PR実行委員会』。「境港がカニの水揚げ日本一であることをPRしたい」その気持ちがすでに団体名からにじみ出ている。会長を務めるのは水産加工会社の社長でもある越河彰統さん。PRにかける熱い想いをうかがった。
──『境港カニ水揚げ日本一PR実行委員会』とはどういう団体なんですか?
「僕が東京なんかに行って「カニが日本で一番捕れるところから来ました」と言うと……「北海道ですか?」「北陸ですか?」と言われるんですよ……。鳥取というのはあまり知られていません。多くの方がカニを食べに北海道や北陸へ行かれる…………(突然声が大きくなる)そうじゃなくて境港に来てくれと!!!!! 強く宣伝したい思いでっ……こういう団体を作ったんです!」
──なるほど……どういうPR活動を?
「首都圏や関西圏へ出向いてカニを振る舞ったり、安い価格で販売するなどしています。鳥取県のカニの水揚げ量は、何十年もずっと1位なんです」
──えー! そんなイメージないですね?
「(突然声が大きくなる)あのねえ! よく「境港のカニなんて食べたことない」と言われるんだけれども、大手の冷凍食品会社が作るカニチャーハンやカニクリームコロッケ、あれはほとんど境港産のカニなんです。だから結果としては皆さん食べられているんだけれど……境港産だというのが分かりづらいことが多いです。
北海道なんかは姿のまま売られているからイメージが強いのかなあ……ズワイガニやタラバガニの漁獲量って、全体からするとほんの端数なんですけどねぇ……」
──最近、漁獲量が減っているとききました
「ピークから比べると落ちているのは確かです。5年くらい不漁が続いています。ただ、カニは捕っていい大きさに成長するのに8年くらいかかるんですよ。現在まだ捕ってはいけないサイズのカニが大量に生息していることは、調査で分かっています。あと2年くらいしたら捕れるサイズのものがゴソッといる。
だから今は少ないけれど……ここは辛抱どころです。ピーク時はうちの会社だけでも、禁猟期の2カ月間を除く10カ月間、毎日5万匹のカニを茹でていました。そんな会社は境港にゴロゴロあるんです。今は確かに減りました。(突然声が大きくなる)……とは言ってもね! それでも毎日3万匹のカニを茹でているんですよっ!」
──えー! そんなに!
「不漁といってもそのくらいの量があるんですよ! そんな会社がゴーーーーロゴロあるんですよ境港には! それが日本一の実力ってこと!!!!!」
──2位じゃダメなんでしょうか?
「ダメーーーーーー!!!!!」
「北海道と北陸」の話をする時は特に熱がこもる様子の越河会長。確かに鳥取出身の私ですら、カニといえば北海道や北陸というイメージを持っている。ここまで圧倒的1位なのであれば、その悔しさもうなずけるというものだ。団体を発足したくもなるだろう。
ちなみに越河会長は生粋の鳥取県民なのだという。自己主張が苦手な鳥取県民もやるときゃやるのだ。「カニは鳥取」と言われるその日まで、日本一をPRし続けていただきたいと心から願う。
・YOUは何しに……?
ところで祭りの隅に先ほど太鼓を叩いていた外国人女性を発見。声をかけてみることにした。
彼女の名はメアリーさんといって、オーストラリアから教師として来日したそうだ。偶然目にした “大漁太鼓” に心奪われ練習を開始。彼女にとって『カニ感謝祭』は、ちょうど1年前に太鼓デビューを果たした思い出の祭りなのである。
「鳥取は素敵な田舎の街」というメアリーさんは、太鼓仲間に囲まれて楽しそうである。祭りっていいもんだな……。『カニ感謝祭』の持つパワーに圧倒されていた私も、気づけば群衆に混じり鬼太郎音頭を踊っていたのだった。
これにて祭りは終了と思いきや、道の向こう側には長蛇の列! 無料配布のカニを受け取る人々だ。私ももらおうと列に加わったが……先着順の整理券配布は祭りの開始前に終了したとのこと。無念……。
来年は朝から並ぶ決意を固めるとともに、「カニ水揚げ日本一」が鳥取県だってことを忘れないでおこうと誓った次第である。みんなもカニシューマイなど食べるとき、境港のことを思い出してくれよな!
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼大鍋で振る舞われるカニ汁
▼食べたかった……
▼『カニ引換券』を求めて早朝から行列ができたという
▼大きなカニが1人2杯
▼メアリーさんが所属する『境港大漁太鼓荒神会』は様々なイベントに登場! 詳しくはインスタグラムをチェック!
亀沢郁奈




















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