突然だが、年末なので怖い話をお送りしたい。よくよく考えると年末と怖い話には何の関連性もないが、とにかくお送りしたい。とあるラーメン屋に足を運んだ時のことである。怪奇は突然筆者の身に降りかかった。

そもそもからして、そのお店はただのラーメン屋ではなかった。驚くべきことに、同店は「甘味処」の看板も打ち出していた。つまりラーメンと一緒に甘味もいただけるわけである。画期的な特徴に惹かれて訪れた筆者だったが、そこでの食事中、冗談ではなく記憶喪失に陥りかけた

・事の顛末(てんまつ)

お店の名前は「九月堂」。場所は東京・渋谷駅から7分ほど歩いた辺りである。

店先に下げられたのれんには、「らーめんと甘味処」の文字が書かれている。とはいえ、両者には相当なギャップがあるし、そうやすやすと兼ね備えられるものではないだろう。ともすれば、張り裂けんばかりの大股開きで二足のわらじを履くことにもなりかねない。 

お店のHPによると「ラーメンカフェ」という形態名が銘打たれているようだが、果たして実際の利用感はどうなのか。確かめるべく入店したところ、店内はまさしくカフェらしいオシャレな空間だった。女性客もかなり多い。

一方で、入り口脇に置かれているのはラーメン屋らしい券売機。あっさり味かこってり味かを選べる「らーめん(790円)」や、「つけ麺(790円)」、「スペシャルつけ麺(1000円)」などのメニューが並んでいる。

が、ひとたび下方に視線をずらせば、「甘味(390円)」や「和パフェ(630円)」がお出ましする。食券機に甘味のボタンが存在する光景が衝撃的でならない。

さて何を選ぼうかと少し悩む。ランチセットならラーメンにミニ甘味をつけられるとのことだが、どうせならフル甘味を食らいたかったので、こってり味のラーメンと甘味を別々に注文した。

しばらくして端正なラーメンだけがやってきた。甘味はのちほど運ばれてくるらしい。しかし甘味見たさを抑えきれなかった筆者は、今から持ってきてもらえないかと店員さんに頼んだ。

「待て」ができない人間であることを露呈しながら甘味を受け取る。「さくら」、「ゆず」、「ごま」の3種類が用意されている中で、今回は柚子味のものをチョイスした。

見た目は本当に甘味処で出てくるようなガチ甘味である。思わず吸い寄せられそうになるのをこらえて、まずはラーメンの方からいただくことにした。

麺をすすると、細身のツルツルした食感に乗って、力強い濃厚さが舌の根まで響き渡った。さすがに家系などに比べればこってり感は弱いものの、上品でいてとろりとした脂具合には確かな中毒性が潜んでおり、抗うすべなく引き込まれてしまう。

パンチのある旨味と、包容力のあるコクという多面性を、美しくまとめ上げたスープのように感じる。この大胆かつ繊細な仕事にはあっぱれと言いたくなるし、これなら女性の方も手をつけやすいのではないかと思う。いや、おそらくそこまで計算した仕上がりなのだろう。

ラーメンの絶妙な味わい深さに浸りつつ、横目で甘味をちらちらと見る。自分で招いた事態ではあるが、良い意味で気が散る。こんな経験なかなかできない。

しかし気が散るとは言ってもラーメンが美味しいので、あっという間に全ての麺をすすり終えた。普通のラーメン屋ならここで終わりだが、このお店は甘味処でもある「ラーメンカフェ」だ。

いよいよ甘味に取り掛かる。ラーメン後のデザートは初体験である。胸を高鳴らせ、木製のスプーンで柚子のシャーベットをすくい、口に含んだ。

そして次の瞬間、直前の記憶が吹き飛んだ。あまりの清涼感が記憶をさらっていった。冗談などではなく、純粋に、心から、自分がラーメンを食べたのかどうかわからなくなってしまったのである。

それほどの爽やかさだった。さっぱりとした柚子の味が憎らしいくらい美味しい。シャーベットの周囲を固める柚子のジュレもたまらない。こんなにすっきりするのは何故だ、何か濃いものを食べただろうかと考え、そこでようやくラーメンの記憶を取り戻す。

前述の通り、ラーメンのインパクトも確かなものだったのだが、それを忘れかけるほどに甘味の威力もすさまじい。ラーメンはどんな味だっただろうかと詳しく思い出そうとして、丼に残っていたスープに口をつける。

美味しい。そうだ、この濃厚さだ。こうなると今度は爽やかさが欲しくなってくるなと思い、甘味に口をつける。

美味しい。なんという爽快感か。ラーメンの味をまた忘れかけているな。

ああ、これだ。でも爽やかさが欲しいな。そんな時は甘味だな。

ああもう、本当に柚子が美味しいな。ラーメンはどんな味だったかな。


もう無いな


・恐怖の秘訣

といった感じで、恐ろしいことに筆者は何度となく記憶を失くしかけながら、怖いほどの幸福感に包まれながら2品を完食した。ただのアホではないかと罵られてもかまわない。だがラーメンと甘味のコンビネーションの魅力が怪奇じみていたせいでもある。

「ラーメンカフェ」の名にふさわしい、見事すぎるほどの両立ぶりを見せてくれた「九月堂」。お店を出たあとは、ラーメンの味も甘味の美味しさもしっかりと脳に刻まれていた。皆さんもぜひ、この「思い出に残る記憶喪失」を体験してみてはいかがだろうか。

・今回紹介した店舗の情報

店名 九月堂
住所 東京都渋谷区神南1-15-12
営業時間 月~土 11:00~22:00 / 日・祝 11:00~21:00
定休日 月曜(月曜が祝日の場合、翌火曜)

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼ラーメン屋であり甘味処でもある「九月堂」

▼「こってり」は濃厚だが上品。女性でも食べやすいはず

▼甘味の「ゆず」。販促的な爽快感

▼スープがなくなるまで、甘味とのループが止まらなかった。恐ろしい