言わずとも分かりきっていることだが、東京タワーは東京のシンボルだ。東京スカイツリーや渋谷スクランブルスクエアといった新たなシンボルが次々に建てられているが、今でも東京といえば東京タワーを連想する人は多いだろう。
しかし、そうは言いつつも常識中の常識である東京タワーに私は登ったことがない。これまで2、3度は下に行ったことがあるも、登るまでに至らなかった。前に訪れたのは10年くらい前だろうか、あれから月日は流れてまたも私は東京タワーの下にいた。
・東京タワーに登らなかった理由
「はよ登れや」と言われそうだが、登らなかった……いや、登れなかったのには理由がある。1つめは単純に仕事中だったこと、もう1つは高所恐怖症で怖いのだ。今回もいざ下から見上げると……
ヒエッ……!
今からこの上に自分がいるなんて信じられない
個人的なことで恐縮だが、私は飛行機に乗るだけで手汗びっちょりになる極度のビビリである。建物の3階でも震えてしまうのに、展望台なんて想像するだけでゾッとする。無論、地上100メートルを超えようものなら生き地獄以外なにものでもない。
しかしながら、このまま一度も東京タワーに登らずにいるのもどうなのか。もしかしたら人生損してるんじゃないか……。ふとそのような感情も持ったため、人生で初めて登ってみることを決意した。
・平日は空いていた
恐怖で糞尿を垂れ流す不測の事態に備え、しっかりと用を足してからチケット売り場へ。この日は平日の午前ということもあって、年配と外国人観光客がほとんどで随分と空いていた。1200円のメインデッキチケットを購入し、いざ高層へ運んでくれるエレベーターに乗り込む。
どうやら1Fから一気に上まで行くらしい。楽しそうな周りを尻目にドキドキ。そしていよいよエレベーターが動き始めると……
こわいこわいこわいこわいこわいこわい……!!
ここでエレベーターが止まったらどうしよう……なんて想像するだけで神にも祈る気持ちになる。ちなみにお客さんとエレベーターガールの会話を聞いていると、彼女たちは休憩を挟みつつ1日30回くらい上り下りするらしい。正気ですか?
・迫力のある眺望から見えたのは……
さて、恐怖と戦っているうちに高さ150メートルのメインデッキへ到着した。分かっちゃいたけど高いな……。
うわー! スカイツリーが見えるよ!
なんて会話が聞こえるけど、私は下を見ると怖いので窓の近くを避けて撮影。別に用事はないのに、ついつい急ぎ足になってしまう。
一周グルッと見渡せるようになっているメインデッキからお台場なども見えるが、せっかくの景色を前にしても恐怖が先行する。
あーはいはい、ゴチャッとしている感じが東京ですねー。そんな乾いた感想しか出てこない……というか、怖くてそのように自分を騙して気持ちを和らげるしかない。
楽しむ余裕はないし、一周まわって帰ろう……。死んだ魚のような目をしてデッキを歩いていたが、ある方面に差しかかったとき、人だかりができている場所を見つけた。そう……
富士山方面だ。
・富士山での思い出
この日、天気がいいこともあって雲ひとつない快晴。目視でも富士山を確認できたため、人気スポットと化していたのである。とはいえ、怖いのでここでも窓から離れてカメラの望遠レンズを覗く。すると……
そこでハッキリ見えたのは……
雪化粧した富士山!
いつもの高所恐怖症が出てしまうと「キレイダナー」なんて普通にスルーしそうなところ、私は立ち止まらずにいられなかった。
なぜかというと、富士山に登った8年前の自分を思い出したからである。あそこのテッペンに立ってから、随分と時間が流れてしまったなぁ……。
そう思うだけで、なんだかグッとくる。今じゃ人混みに揉まれて電車に揺られる日々。気がついたら終わる1日……同じようで慌ただしい時間を過ごしていると忘れてしまうことは数多い。でも東京タワーの上で時の流れをゆっくり感じるとどうだ。
富士山のなんと雄大なことだろう。距離はあるけど近く感じる。そうだ、世界は広い。そして日常生活での悩みなんてちっぽけじゃないか。
空は青い。僕らはみんな生きている──。
とまぁ、誰もが抱きがちな結論に落ち着いたワケだが、東京タワーに登らないと思い出せないことだったのは確かだ。勇気を出して登ってよかった。日常生活で気づかないことに気づけてよかった。また明日からがんばろう。
正直、高所に登るのは怖かったが、初心に戻ることができて人生というものを改めて考えられたような気がした。登る勇気がない高所恐怖症の人もいるだろう。ただ、メインデッキのフロアは決して狭くないし、下を見なければ耐えられる……と思うので、迷いが生じたときなどは勇気を持ってぜひ。人生とは──東京のシンボルがきっと教えてくれるはずだ。
参考リンク:東京タワー
Report:原田たかし
Photo:RocketNews24.