最初に言っておきたいが、その日本料理店で食べた寿司は決して悪くなかった。めちゃくちゃ美味かった……といえば嘘になってしまうが、マズくはない。味は日本の寿司に及ばないものの、外国で食うものとしてはアリ。何より大らかな雰囲気がいい!

──というのが率直な感想なので、私がその店にネガティブな印象を抱いているわけではない。むしろ、海外にいながら「ほのかな日本の風」を感じさせてくれたことに感謝している。ただし……! そこでもっとも私の印象に残ったのは、店内に吹き荒れていた「猛烈な中華の風」であった。

どのへんが中華かというと、まず何より、店員さん同士の会話が中国語で行われていたこと。この時点で、決定打である。なお、お店があるのはイタリア南部の街・パレルモで、看板には「リストランテ ジャポネーゼ」と書かれているのに、耳に入ってくるのは中国語。

まぁ、海外でよくあるレストラン。と言ってしまえばそれまでだが、入店直後はやはり「ここどこ?」的な気持ちにさせられた。


・緑色の寿司

たとえば、メニューの中に「緑色の寿司」を発見したときもそうだ。


イタリア語が出来ない私には「gunkan masago」くらいしか意味が分からなかったものの、その毒々しいビジュアルから “アレ” が脳裏によぎり、同時に香港の景色が見えた。


アレとは……。そう、アレだ。本サイトを以前からご覧いただいている方は覚えているかもしれないが、香港の殺人寿司こと『明将寿司』である。

その “明将オーラ” が漂いまくっているメニュー写真を見たら、食べないわけにはいかない。絶望と好奇心が入り混じった気持ちで注文し、出てきたものを恐る恐る口に運んだところ……



意外(失礼!)にも、これが美味いのだ。ちなみに、緑の正体は「わさび」で、一口食べるごとに、わさびの風味が鼻の奥へ駆け抜けてゆく。味はそのまんま「“とびこ” のわさび味」というのが、もっともわかりやすいだろうか。


・「中華の風」の発生源

「なんだ、普通にウマいやん。だったらメニューの写真をちゃんとしたものに変えればいいのに……。今のままだったら、食べる前にマズいイメージを与えちゃうんじゃない?」と思ってしまったが、お店としては「そんな細かいことは気にしない」ということなのだろう。


そして「細かいことを気にしない精神」こそが、店内で発生している「猛烈な中華の風」の発生源になっているような気がした。

そもそも、店名からして細かいことを気にしなさすぎる。お店の名前は『ゴールド』というのだが、「日本食レストラン」の看板を掲げるのなら、もうちょっと日本らしい名前に寄せてもいいのではないだろうか。それがゴールドって……。これほど、わびさび感ゼロの日本料理店も珍しい。

それから、レストランを出たあとに無料でくれるクッキーもだ。金のドラゴンがデザインされたパッケージに、「福」の文字。


なんとも隠しきれない中華感。いやむしろ、あえて中華っぽさを押し出そうとしているようにも感じるが、どうなのだろう。

はっきりしたことは分からないものの、どちらにせよお店的には “細部にまで日本らしさを演出する気持ち” なんて皆無。見方を変えれば、お店の隅々にまで「細かいことは気にしない精神」が貫かれていると言っていい。


・焼き鳥のインパクト

極めつけは焼き鳥だ。それを注文したころ、焼き鳥なのに……



揚がってる〜!


焼いてない〜!!



「YAKITORI」とメニューにあるのに……!



いい色に揚がってる〜!!


・お値段は?

最後に、価格について触れておこう。こちらの店では、料理の値段が1つ1つ決まっているわけではない。寿司も枝豆も豆腐もうどんも焼き鳥も全部食べ放題となり、ランチなら約1670円(13.9ユーロ)で、夜なら約2400円(20ユーロ)となる(フルーツ・デザート・ドリンクは別)。


ここで、多くの日本人は「時間制限は?」ってことが気になるはずだ。その点について、私が下手クソな英語で女性の店員さんに聞いてみたところ、彼女は即答で「NO」。続けて、「好きなものをお腹いっぱいになるまで食べたらいいのよ〜」と言って去っていった。

つまり、閉店等を除けば時間制限はなし! なんて太っ腹! なんて大らかなんだろう。実にありがたい!! ……けれどもだ。時間制限なしだったら、いつまでも店にいて食べ続ける卑(いや)しいヤツが続出するんじゃないのか? 

そう思って周りを見渡した瞬間、私は愕然とした。なぜなら、どのグループからも「おしゃべりを楽しみたいから長居してるだけ」という空気が漂っているだけで、「ずっと食べ続けて金を浮かせてやろう」的な卑しさはゼロ。むしろ、店内で1番卑しそうなヤツは私だったのだ。

そうか、そうか……。細かいことを気にしていたら、卑しくなってしまうのだな。だからもう、細かいことは気にしないでおこう。中国感全開の日本料理店でも気にしない! 焼き鳥が揚がっていても、気にしない! この記事の締めが思い浮かばなくても、気にしない♪

・今回ご紹介した飲食店の詳細データ

店名 Gold Ristorante Giapponese
住所 Via Francesco Crispi 56, 90139, Palermo, Sicilia, Italia

Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

▼先にも述べたが、寿司は決してマズくない!

▼寿司ネタは、マグロ、サーモン、タコ、エビ、タイ、ウナギなどなど。日本に比べたら、種類は決して多くはないが……

▼手巻きなどもあり、

▼うどんやラーメン、枝豆などもあり、

▼フライドチキンまである。

▼だから、「焼き鳥」とダブルで注文して比べることも可(右側がフライドチキン)

▼そしてアサヒビールもあるぞ!

▼個人的には、特にウナギが美味しゅうございました

▼それから、てんぷらも美味かったなぁ〜

▼てんぷらのタレが甘酸っぱいけど、細かいことは気にするな!

▼なお、香港にある “殺人寿司” と呼ばれる寿司屋「明将寿司」についてはこちらの記事をどうぞ