今までは目で観るだけだった映画は、4D上映により体全体で感じられるものに進化した。だが、私はただの一度も4D映画を観たことがなかった。なぜなら、乗り物にめっちゃくちゃ酔いやすいからだ。

そんな私もついに先日、『映画 刀剣乱舞』で4DX鑑賞デビューした。その結果、予想外の事態に……!

・4D版『映画 刀剣乱舞』

『刀剣乱舞』とは、日本の名だたる名剣・名刀の付喪神(つくもがみ)を顕現(具象化)させた「刀剣男士」を収集・強化し、日本の歴史を改変しようとする敵を討伐していく刀剣育成シミュレーションゲーム。

PCブラウザゲームを発端にアプリ版のリリース、さらには2.5次元ミュージカル・舞台化やアニメ化なども果たしており、若年層に刀剣ブームを巻き起こすきっかけとなった一大コンテンツである。

そんな刀剣乱舞の実写映画版は2019年1月18日に公開され、公開から2カ月近く経ってからも上映館を増やすなどのヒットを果たした。そして2019年の5月17日より2週間限定で、まさかの4D上映が決定したのだ。

4D版には4DXとMX4Dの2種類があり、そのどちらも映画の場面に合わせて座席が動いたり、水が降ってきたり、さらには香って、光って、風や煙なども出てくるらしい。桜が舞い、殺陣やアクションが迫力満点で、炎が燃え上がる『映画 刀剣乱舞』は4D上映と相性抜群だろうと予想がつく。

よく行く劇場での上映情報を調べてみたところ、そこでの上映方式は4DXの方だった。注意書きを見てみると「妊娠中の方、ご年配の方、車いすの方、心臓・首などに障がいのある方、身体・精神的に敏感な方、車酔いしやすい方は4DXをご利用いただけません」とある。やはりそうか……。

実は私、先述の通りものすごく乗り物に弱い。電車にもバスにもタクシーにも飛行機にも酔う。いろいろ試したが、酔い止め薬も効きづらい。特に電車にはすぐ酔うため、移動は基本徒歩もしくは自家用車。乗り物酔いが原因で転校したこともあるほどだ。

座席が動くらしいという情報だけで酔うことを予測し、今まで4D映画を観ることはなかった。しかし、大好きな『映画 刀剣乱舞』の4D版……ちょっと、いやかなり観てみたい! この機を逃すと恐らく一生4D上映に挑戦することはないだろうと思い、意を決して4DX上映に挑むことにした。

・いざ、劇場へ!

4DXを観るにあたり、万一退席することになってしまっても周囲への迷惑を最低限に抑えられるよう、最後列の通路横にある座席を選択した。4DX上映では前の方の座席だと酔いやすいという情報もあったため、現状ではこれがベストな選択なのではないか、と思う。

さまざまな不安で鑑賞前からすでにちょっと吐きそうになりながら劇場へ。

スクリーンに入ると、ズラリと並ぶ4DX用の座席たち。

一見すると普通の座席と変わりようのない、4DX用の座席。足置きがあることと、動きをつける機構の分少し高さがある以外、違いはあまり分からない。あとは4席が1セットになっているぐらいだろうか。ちなみに、この4席1セットの仕組みが、後述する予想外の事態に繋がるとは、まだ知る由もなかった。

背もたれ部分も、ほぼ普通のスクリーンのものと変わりないように見える。

しかし、なんの変哲もないように見える背もたれの一部に面白い機能が潜んでいた! ちなみに肘掛けには水を出すか出さないか選択できるボタンが付いている。今回水が出るのか出ないのかは事前に分からなかったが、水機能をONにしたまま鑑賞することにした。

入り口で配られたメガネをかけ、いよいよ上映開始。予告などを終え、いきなり4DXの宣伝のようなものが始まった。これにめちゃくちゃ激しいカーアクションがあり、座席は動きまくり、途中で水しぶきもがっつり浴びた。

画面にやんわり奥行きをつける程度の、かけなくても良いのでは? と思える謎のメガネに思いっきり水がかかり、作品の本編上映前にメガネを拭かなければならない事態に。先行きが不安になってきたところで、ついに本編が始まった。

・4DX最高!

結論から言うと、めっっっちゃくちゃ面白かった !!! もうすでに観ていて内容も知っている作品にもかかわらず、いや、だからこそ、4DX鑑賞をはちゃめちゃに楽しむことが出来た。鑑賞前は不安だらけだったが、予想に反して大いに楽しめたのは、嬉しい誤算だった。

ただ正直、初見の作品だと、集中して観られないかも。一度観た作品の魅力を再発見するために4DXを観るのが良いかもしれない。

まず、座席は本当によく動いた。殺陣やアクションシーンで激しく動くのはもちろん、カメラワークに合わせてゆっくりと動いたり、登場人物たちの何気ない動きにも合わせて動くし、場面によっては登場人物たちが走った際の床の揺れなど、微細な動きも表現されていた。

私はゆったりとした動きに酔いやすいため、序盤のカメラワークに合わせた動きが連続する場面ではやや酔いかけたものの、基本的には問題なかった。

なにより、登場人物の一人・三日月宗近が廊下を走っている振動、座った際の床の揺れまでをも体感出来たのは、思ってもみないことだった。動きの表現、超繊細じゃないか……! 正直、座席の揺れはもっと大雑把なものだと思っていたので、これは嬉しい驚きだった。

さらに、動きと同じく繊細な表現に驚いたのが、「風」だ。風景に合わせてそよ風などが吹くだけでも十分だと思ったが、登場人物たちの動きで起こる空気の流れや、敵である時間遡行軍が消滅する際の風まで表現されていた。刀剣男士が生み出した風を浴びられる……!! これ以上素晴らしいことがあるだろうか。

そして何より面白かったのが、4DXの機能の一つであるエアー。機能紹介の際には気にも留めていなかったが、このエアーが頭の横と足元から出てくることにより、登場人物に斬られたり、足払いをかけられたりするのだ……!

座席の背もたれに付いている小さな黒くて丸いボタンのような物が、そんな重要な働きをするとは想定外だった。面白いじゃないか4DX!

ただ、香りはやや弱く、桜が舞うシーンでほのかに花のような香りがしたり、炎が燃え上がるシーンで気のせいかと思うぐらいかすかに焦げた匂いがした程度だった。水がかかる場面は一カ所だけだったが、水滴をかすかに感じただけで物足りず。熱風もほんのわずかに温かい気がするレベルのものだった。

また、座席の背もたれ部分が振動する点はマッサージチェアかなといった感じで、あまり映画の体感に必要な機能だとは思えなかった。背もたれに内蔵された球で背中を刺激されるのも同様だ。光に関しては白一色のみのためただ眩しいだけで、場面に合っていないなと思うことの方が多かった気がする。登場人物たちの刀のキラメキを表現しようとしていた点は微笑ましく思えたが……。

乗り物酔いをはじめとする体質は個人差があるので、4DXに不安がある方へ無責任に鑑賞を推奨したりはしない。ただ、私は退席することなく、最後まで楽しく鑑賞することが出来たことはお伝えしたい。序盤こそゆったりとした動きなどで酔いそうになったが、本格的に酔ってしまうことはなく、場面に合わせた動きを最後まで楽しめた。

今後、大好きな作品を違った角度から楽しみたい場合、4DXで鑑賞するのも良いなと思えた。しかし、鑑賞後に4DX上映の感想をいろいろと読んでみたところ、4DXはMX4Dと比べ繊細な表現が優れているが、その点に物足りなさを感じることもあるという評価をちらほら見かけた。

4DXを観ただけで、「良かった、次も4DXで観てみよう!」と思うのは早計なのかもしれない。4D映画、奥が深い……!

・予想外の事態

そして4DX用の座席は「4席が1セット」になっている点にも触れておこう。気になったのは、この仕組みのせいで座っている誰かが大きな身動きをとった場合、4席全てが揺れてしまうことである。ちなみに飲み物を飲む動作や、ポップコーンなどを食べる動き程度では、座席が揺れることはほぼなかった。

大きな身動きとは、例えば座り直したり、前屈みになったり、身を乗り出したり、足元の荷物を覗き込んだり、伸びをしたり……といったところ。座り直すのはある程度仕方ないとして、せめて上映中に足元を気にしなくて良いよう、注意書き通り荷物はロッカーに預けておくべきだ。

また、思った以上に座席が動くため、音の鳴るようなアクセサリーをつけるのも控えた方がいいだろう。揺れやすさは4DX用座席の意外な難点かも。これは予想外の事態だった。

・楽しい4DXを全員が存分に楽しめるように

ともあれ、今回生まれて初めて4DXで映画を鑑賞してみた結果、超絶楽しむことが出来た。勇気を出して、いろいろと対策を考えて観に行って、本当に良かった。しかし、かつての私のように、様々な理由を抱えて、まだ4DX鑑賞デビューしていない方もたくさんいるのではと思う。

個人的には、自分の身体と相談して大丈夫そうなら、万が一のことを考えて座席選びなどに気をつけ、是非とも挑戦してみて欲しい。きっと、作品を思ってもみなかった角度から楽しむことが出来るだろう。

参照元:『映画 刀剣乱舞』
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.