みなさんは4D映画を体験したことがあるだろうか。ざっくり言うと五感で味わう体験型のシステムで、これにより映画は目だけでなく体全体で感じることができるようになった。なお、劇場によって上映システムに違いがあって、4DXとMX4Dの2種類が存在する。

乗り物に超絶酔いやすいが、先日ついに『映画 刀剣乱舞』で4DX鑑賞デビューを果たした筆者(私)。酔って離脱せず、4DXを最後まで無事楽しんで鑑賞できたことに満足していたが、どうやら4DXよりも『MX4D』の方が酔いやすいという噂があるようだ。

とはいえ、同じ4D上映でそんなに大きな違いがあるのか? 4DXを乗り切った私なら、MX4Dにも勝てるのでは? そんなナメた気持ちから『MX4D』への挑戦を決めた。すると、驚きの結果に……!

・MX4Dとは

前述したように、『MX4D』は4DXと同じく4D上映の一種だ。アトラクション型4Dシアターと銘打っているが、何か効果に特色でもあるのだろうか?

MX4Dの11ある効果のうち、香り・風・水しぶき・首元のエアー・足元のエアー・背中つつき・霧・光の8つは4DXにもあった。ただ、光に関しては5色対応のようで、4DXでは光の色が場面に合っていないと感じることが多かったため、これは期待できるかもしれない。

残る3つ、MX4Dにしかない機能は、座席の手元から出る突風と座面からの突き上げ、そして地響きだ。4DXでは腰のあたりがマッサージチェアのように突如震えだすという謎演出があったが、もしやMX4Dの「地響き」もそんな感じなのでは……? と、疑ってしまう。

ちなみにMX4Dにない4DXのみの効果には、熱風・泡・雪・嵐がある。熱風は『映画 刀剣乱舞』にもあったものの、ほとんどよく分からなかったため、正直これがないからといって、MX4Dの期待値はあまり下がらなかった。泡・雪・嵐の3つに関しては本作で使われていなかったため、これらが適用されるような場面に関しても今回は比較できない。

まあぶっちゃけ4DXもMX4Dも同じようなものなんだろうな、とあまり期待せず劇場へ向かった。

・MX4D版『映画 刀剣乱舞』

4DX版を観に行ったときは4D上映自体が初めてだったため、劇場に入る前から、なんなら前の日から不安で吐きそうだった。しかし、今の私は4D上映経験者。悠々とした気分でスクリーンへ。今回も4DX鑑賞デビューのときと同じ作品、『映画 刀剣乱舞』をMX4Dで鑑賞する。4DXとMX4Dとでどんな違いがあるのか楽しみすぎる!

しかし、余裕な気分でスクリーンに入ろうとすると、入り口横にデカデカと鑑賞にあたっての注意書きが。「MX4Dの方が4DXよりも酔いやすい」という噂を思い起こさせられる……。不安。

おまけにスクリーンの中にまで注意書きが。うわああああ、何でこれでもかと注意書き掲げまくってるの!? やっぱりMX4Dは危険なのか? めちゃくちゃ不安になってきたあああ!!

不安を抱えながらもスクリーンに入る。4DX同様、MX4Dもパッと見は普通のスクリーンと変わらない。

座席は4DXと同じく4席1セット。この仕組みのせいで、4DXでは他の人が大きく動くと座席が揺れて酔いかけたんだよなぁ……。と不安に思いながら、いざ座席に座ってみると……揺れにくい!!

おおっ、4DXの弱点だった人の動きによる座席の揺れやすさを、MX4Dはクリアしているのか……! 同じ列に誰もいなかったため同行した母に頼み、座った状態で色々な動きをしてもらったが、ほとんど揺れなかった。これは嬉しい。

しかし、シート自体は程よい弾力があり身体の当たり心地は良いが、座面が短く、フットレストの位置が奥にあるため個人的に座り心地はイマイチ。ただ、子どもや身長の低い方は座りやすいかもしれない。

その他、エアーが出る首元と足元も4DXとそんなに変わりなく見える。

しかし、香り・風・水、そして突風が生み出される手元には、穴の空いたボタンのようなものと、車のクーラーの吹き出し口のようなものが。これは4DXにはなかった! どんな効果を生み出してくれるのか楽しみだ。

座席が揺れづらいことに喜んだり、そういや4DXのときに配布されたような謎のメガネはなかったな、などと思っている間に上映時間に。酔って退場しませんように……。

・MX4Dと4DXの違い

結論から申し上げよう。超っっっっっっっっっっ絶楽しかった! そして意外なことに、全く酔わなかった!! 4DXと違って、酔いかけた瞬間すらなかった。素晴らしい!

MX4Dは完全に「アトラクション」と言って良いだろう。とにかくアクションシーンでめちゃくちゃ動く! おまけに動きが大きい。しかし何より、動きが丁寧なのだ!!

その上、4DXでありがちだった「カメラワークに合わせているだけのゆったりした動き」がほとんど付けられていなかったのも良かった。個人的には電車や船のようなゆったりした動きに酔いやすいので、これはとてもありがたかった点だ。

MX4Dと4DXのアクションシーンを比較してみると、どちらも激しく動くものの、MX4Dの方が1つ1つの動きが大きかった。しかし、4DXよりも動きが丁寧に思えたのは、座席の揺れづらさ(ぐらつきの少なさ)によるものなのか、大きく動いてもガッと振られるような感覚が少なかった。動きが比較的滑らかだったせいだと思われる。

また、動きの付け方に関していうと、4DXでは動きが付けられる対象がコロコロ変わっていて忙しなかったが、MX4Dではほとんどの場面で視点が切り替わるまで、動きが付けられる対象が変わらなかった。

例えば登場人物の一人・へし切長谷部が三日月宗近に掴みかかり、日本号に制される場面。一連の流れの中で、4DXの方では掴みかかられた三日月宗近に合わせて座席が動いた直後、今度はなだめられながら引き離されるへし切長谷部に合わせて座席が動いた。しかし、MX4Dでは掴みかかられた三日月宗近に合わせて座席が動くのみで、この場面の動きは終わる。

こうした動きの付け方の違いは意外と重要で、アクションシーンで大きく差が出た。MX4Dでは激しく座席が動くような場面でも、画面上のどの人物(もしくは物)に合わせて座席が動いているのかが分かるのだ。そのため、作品世界に没頭したまま動きを楽しむことができた。そして、大きく座席が動くにも関わらず全く酔わなかった一因でもあると思う。

一方で、4DXでは床の揺れや足音などの微細な動きを座席の動きで表現しようとしていて感心したが、MX4Dではそうした微細な動きは一切表現されていなかった。その分、動きが付けられている場面一つ一つの再現度が高い気がした。

例えばMX4Dでは登場人物たちが馬で駆けていく場面で、馬の肢(あし)が接地するのに合わせて前後左右に座席が動き、本当に馬に乗っているかのような動きを出そうとしていることにはとても感激した。これは4DXにはなかった丁寧な動きの表現だ。

微細な動きに対しても座席を動かし表現しようとする4DXと、大きな動きに焦点を当てその再現度を高めようとするMX4D。ここは4DXとMX4Dの違いが大きく現れている点だと思う。この辺りはもう好みで選ぶしかないだろう。

動き以外で顕著に違いが目立ったのは香り。4DXでは弱かった香りが、MX4Dではしっかりと感じられた。桜吹雪が舞うのに合わせて風が吹き、花の香りが漂ってきた。思いっきりバラの香りだったが、まあ良い香りには違いないので心地良かった。

そしてもう1点、特筆すべきMX4Dの素晴らしかった点は「地響き」だ。4DXでは軍勢の足音や本作の敵である時代遡行軍のうなり声などを、座席の動きと腰辺りのマッサージチェア風な振動で表現しようと試みていた。しかし、これらの表現はMX4Dの地響きと座面の突き上げによる表現の圧勝だった。

MX4D鑑賞前は、座面が震えるだけで地響きのような表現になるのか? といぶかしんでいたが、あれはまさに地響きだった。迫力が段違いに増す。これは是非とも体験していただきたいMX4Dの魅力の一つとして推したい。

あとは、光の表現もMX4Dの圧勝だと感じた。白1色だけだった4DXと違い、MX4Dは5色対応。場面にあった色の光を放てる、というのは思っていたよりも重要だと思った。無駄に眩しくならず、違和感なく画面に集中していられるからだ。

さらに、MX4Dでは4DXよりも水しぶきが使われる場面が多かった。なんと、刀剣男士の血しぶきが浴びられたのだ……! もしかしたらMX4Dでは4DXよりも水の表現を細かく付けられるのかもしれない。これは次回、もし他の作品を観る機会があったら検証してみたいと思った。

効果以外に関してMX4Dの方が優れていると感じたのは、前述の通りMX4Dの方が座席が揺れづらい(ぐらつきが少ない)点と、座席が動く際のモーター音の目立たなさだ。

4DXでは座席が動くたびにモーター音が目立ち、音の少ない場面では気になってしまった。仕方ない部分か? と4DXを観に行った際の記事では指摘しなかったが、MX4Dでモーター音が気になることはほぼなかったため驚いた。どうやってあんな静かに動かしてるんだ、MX4D!

・MX4Dの弱点

さて、ここまで4DXと比較してMX4Dばかりを褒めてきたが、そんなMX4Dにも弱点はあった。ズバリ、エアーと風使いの下手さだ。空気関係の効果は全てどれも強く、突風効果と風効果にいたっては違いがよく分からなかったほどだった。

4DXではそよ風のような風効果で表されていた場面でも、なぜかMX4Dではひたすら強めの風とエアーで表現しようとしてきた。顔面に容赦無く突風がかけられ、首元からも強めのエアーが出され、正直煩わしかった。

おまけにエアーや突風の噴射音がめちゃくちゃ大きい。風にいたってはファンの音までうるさく、台詞がエアー・風効果と被って聞こえづらいぐらいだった。

せっかくMX4Dでは座席の稼働音が目立たないのに、エアー・風関係の音でその利点を打ち消してしまっていた。MX4Dの風効果の説明書きには「そよ風や向かい風など、自然な風を送ります」とあったが、自然な風が吹いてくることはただの一度もなかった。

エアー・風効果では、登場人物たちの動きから生じた空気の流れまでをも自然に表現していた4DXの圧勝と言える。

また、背面のつつくような効果に関しても、4DXの方が優れていると断言できる。これは本作の終盤、登場人物の三日月宗近が胸の辺りを撃たれる場面において比較できた。4DXでは場面に合わせて肩甲骨の辺りを強く突かれたのだが、MX4Dではなぜか、腰の下の方をツンツンとやんわりつつかれただけだった。

そして、これは本作『映画 刀剣乱舞』だけかもしれないが、エンディングに流れる主題歌に合わせた動きなどの効果が、4DXだと音にきちんとハマっていたのに対して、MX4Dでは1拍に満たない微妙なズレが生じていた。アクションシーンでは作中の動きと座席の動きなどがバッチリ合っていたため、このエンディングでのズレだけが妙に気になってしまった。

アクションシーンでの動きの表現力の高さに対して、空気絡みの表現の雑さと「突き」のやる気のなさ、音楽との合わせられなさが極端に思えて、MX4Dがシュールな笑いを取りにきているのかと思った。なぜ同じMX4Dの中でも、こんなに効果ごとのクオリティに差が出たんだろうか?

・4DXとMX4Dではどっちが良い?

今回MX4Dを鑑賞し、4DXと比較してみてしみじみ思った。どちらも良い点・弱点が被っていない! 4DX・MX4Dがそれぞれ弱点を克服するまで、どちらか一方が良いと言い切ることはできないだろう。まさに「みんなちがって、みんないい」状態だ。

強いていうなら、風なども含めて細かな部分の表現を楽しむなら「4DX」、動きのリアルさや迫力を楽しみたいなら「MX4D」をオススメしたい。作品によって、どちらで観るか決めてみても良いと思う。

今まで酔いそうだから……と4D上映を敬遠してきたが、思い切って観に行ってみて良かった。4D上映が選択肢に入ったことで映画の楽しみ方が増え、作品を体感できるようになったことにより、自分の世界も広がったような気がする。今後映画を観るときは、4D上映をしているかも欠かさずチェックしてみようと思う。

参照元:『映画 刀剣乱舞』
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.