中国で絶対に敵に回したくない人。やたら強いその辺のオバちゃんとだってモメたくはないが、命にかかわるという点では「公安」ではないだろうか。中国の公安は日本でいう警察のようなものなのだが、とにかく怖い。

私(沢井)も常々「関わりたくないな~」、また知り合いが公安と殴り合いをしたと聞けば「公安と喧嘩するとかアホやろ……」と思っていたのだが……実際に自分が尾行される身となってしまった。あれはマジでビビった。

・誰も踏み入れていない場所へ

ときは2015年、建設中の上海ディズニーランドだ。その場所に上海ディズニーランドができることはわかっていた。尾行事件から1年前にも現地取材を行っていた。周囲の住民も「ディズニーを作っている!」と大きな声で話していたものだが、公式にはまだ発表されていないという状態。

つまりディズニーの存在は、誰もが知っている「公然の秘密」だったというわけである。

そんな状況下、建設がどれくらい進んでいるのか見に行った私。メモ代わりに歩道でカメラを向けた瞬間……事件が起こった。

・公安にマークされてしまった!

遠く離れた小屋がザワつきはじめたのだ! 「写真、写真とったぞ……!」という声とともに。そしてマッハで男が飛び出した! 彼らはどんどんコチラへ近づいてくる。


「逃げろ……!」


そう私のゴーストが囁くので、潜入は中止。しかし、ここでダッシュすれば怪しさ満点だ。カメラやスマホは鞄の中にしまい、両手が空いていることをアピールしつつ「あ~いい天気だなァ~」みたいな顏をして、元来た道をトコトコと歩き出した。

・つづく尾行

もう大丈夫かな……しばらく歩いたそのとき、背中の方に変な気配を感じた。バス停があったので、バスの時刻表を見てますよ~と立ち止まり、チラっと後ろを見ると……


公安おるやんかーーーーーーー!

さっきまで視界にいなかった公安が2人、バイクに乗ってついてきていたのである。いや、でもたまたまパトロール中とかかもしれないよね? だがそんな希望的観測は一瞬にして打ち砕かれたのだ。

こちらが歩けば進む。歩みをとめれば、彼らも止まる。一定の距離を保って、私の後ろをついてきていたのである。間違いなく尾行されてる(笑) いや、笑えないわ。

・ビビった、本当に


ヤバイヤバイヤバイ!

Yahooニュースに「邦人拘束」なんてトピックが立つのが目に浮かぶ。つかまったら誰に連絡しようかな、アイツとアイツなら力になってくれそうだななんて思いながら歩いていたが……あれ、なんかおかしくない!?

私が尾行されているのは明らかだ。いや、むしろ彼らの行動は「尾行してますよ~」と叫びながらついてきているようなものなのだ!

ガチの尾行なら対象に気づかれないように行うはず。奴らは丸見えだ。よく考えろ。冷静にもう一度チラリと後ろを見ると

彼らの表情、行動は

公安「これ以上、何かアクションを起こしたら俺たちも動かざるをえない。いまのうちに立ち去ってくれ」

というメッセージを送ってきているような気がした。了解です! わたしこのまま帰ります! 余計な仕事増やしてスンマセンでした!!

そのままローカルバスに乗りこみ、バスと電車を乗り継いでベースキャンプにしていたホテルに戻ったのだった。

・ピリピリした時期だった?

ちなみに、書籍『中国遊園地大図鑑』の著者・関上武司さんも、建設中の上海ディズニーを訪れた際、公安から職務質問を受けたそう。工事現場の写真を撮りたかったというが、諦めて引き返したのだという。

詳しく聞くと、私とほぼ同時期だ。完成も近づき警戒度があがっていたのかもしれない。……現場には荒野が広がっており、とても完成間近には見えなかったけど。

さすがに軍事施設や政府関連の施設の撮影がマズイのはわかっていたが、商業施設、それも施設の方ではなく周りの道でも公安が動き出すとは。それとも、上海ディズニーには軍機密並の秘密が隠されているとか……?


今は笑い話にできるが、リアルタイムでは非常に怖かったものだ。私も上海渡航歴が10年を越えた頃で少し気が緩んでいたのかもしれない。まさに「李下に冠を正さず」。君子たるもの、疑われるような行為は行うべからず。どんなに慣れ親しんだ場所でもここは外国なのだと気を引き締めたのだった。

さて、公安は一体何を警戒していたのだろうか? 数年のときを経て当時の写真を公開したいと思う。事件の発端となった写真は、次のページへGO!

Report、イラスト:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.