沖縄を代表する観光地「首里城」から信号を2つ3つ渡って住宅街に入り、静かな道を右に左に歩くこと7分。なんの変哲もない民家が密集する細い路地のど真ん中に、廃墟を通り越した古代遺跡のような、ガビガビになった建物が!

建物のてっぺんには「首里劇場」という巨大な屋号。こちらは終戦間もない昭和25年(1950年)にオープン。年々ヨレヨレ度が増してゆくなか、今も自然体で営業を続ける沖縄最古・奇跡の映画館である!

・古びた建物が多い沖縄でも、こいつは遺跡クラス!

開業直後は普通の映画館だったが、1970年代から諸事情によりピンク映画をかけるようになったという首里劇場。

外壁の塗装はビロッビロに剥がれ、廃墟感は軍艦島並み。一部がガジュマルの気根に覆われた側面はさらにすごいビジュアルで、カンボジアあたりの遺跡とほとんど見分けがつかない。正面に刻まれた「首里劇場」の文字も、あと数年、風雨にさらされたら消えてしまいそうだ。

こんな状態にもかかわらず、正面の駐車場には何台かの車が停まり、絶賛平常営業中。入場料の800円は時間によって割引が適用され、しかも今時、入れ替えなしの見放題。

客席に入ると、今時の映画館とは根本から何かが違う複雑な設計。ところどころに灯る緑色のランプが、子供の頃の祭りで見た「見世物小屋」を彷彿とさせる。

だだっ広い客席の真ん中には、その気になれば寝転がることもできる木製の横長ベンチが並び、そこに三名のお年寄りがちょこんと座っていた。詰めれば300名は入れそうな一階席を何度見ても、目をこらしても、お客はこれだけ。

客席もすごいが、トイレはもっとすごい……。それはもう、文章で書き表せない凄み。そして臭い。ドアはほぼ外れかけ、便器はなく、地獄まで続いてそうな黒い穴がぽっかりと空いているのみ。

下手な怪奇映画のセットを超えた、歴史の表現力。これ、博物館でもテーマパークでもない、現実に存在する稼働中の施設である。信じられない異次元感だ。

・貸し切りでいいから最後までいなよ!

さて、私がトイレで驚いている間に、3人いた先客のお年寄りは全て帰宅。客席は私ひとり。

時刻は午後8時を回りかけていた。ちょうど最終回が始まろうとする瞬間。この広々とした劇場を私ひとりで占領するのも申し訳ないと、そそくさと帰り支度を始めたそのときだった。背後に感じる気配。振り返ると、どこか勝新に似た恰幅のいい銀髪の男。先ほど挨拶をした三代目館長その人がいた。

「あれっ、帰るの? 遠慮しないでいいから、貸し切りにするから最後までみていきなよ!」

館長直々にそう言われては断れまい。私は館内ど真ん中でひとり(途中、館内を撮影させてもらいながら)5年ほど前のピンク映画を最初から最後まで、ビッチリ鑑賞させてもらったのだった。

こんな大きな劇場を貸し切りにしたのは生まれて初めて。たぶん、最初で最後の経験だと思う。

帰り際、この劇場をたったひとりで守る館長に礼を言うと、「うちは首里城より古いんだよ」というセリフが返ってきた。

13世紀末に作られた沖縄の象徴・首里城は、これまで何度も焼失し、そのたびに再建されたもの。現在ある首里城は1958年にコツコツ再建が始まったもので、館長の言う通り、この首里劇場の方が8年も古いのだ。

施設の性格上、大人しか入れないのが残念だが、女性の来場もウェルカム。「梅雨はあっちもこっちも股間もジメジメ」など、独特の言葉センスが素敵な名物館長のブログは必見。コンテンツ充実の公式サイトからぜひ、確認してほしい!

・今回ご紹介した施設の詳細データ

名称 首里劇場
住所 沖縄県那覇市首里大中町1-5
時間 13:00〜21:00 入れ替えなし
休日 木曜日(祝日は営業)

Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.
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▼年季の入ったチケットカウンター。800円(各種割引あり)

▼客席は奥から。ピンクなポスターがびっしり!

▼上映中の客席。他のお客さんがいなくなった直後。

▼中央部分の客席は木製のベンチ。これは初めて見た!

▼二階席もあるけど、現在は一階のみ使用しているようです。

▼写真だと明るく映ってますが、実際はこんな感じ。

▼ジャジャーン。トイレの手洗い場。こんなトイレ、そうそう無いよ。

▼個室トイレ。明かりを緑にしただけで、ホラー感半端ない。

▼男性用の一番手前が女性用トイレ。女性客も安心だね!

▼……というわけで、18歳未満のお友達は入れません。大人になってからね。

▼結局、私が最後のひとりでした。がんばってね!また来るよ!

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