2023年11月23日、北野武監督の6年ぶりとなる映画作品『首』が劇場公開された。すでに約1カ月を経て、劇場で観たという人も少なくないはず。遅ればせながら、私(佐藤)も先日の日曜日に早朝(8時半)上映の回に足を運んでみた

朝の回にも関わらず、客席は半分程度は埋まっていて、いまだ関心は衰えていない様子。鑑賞した感想をネタバレなしでお伝えしたいと思う。

・最高の狂いっぷり

この作品は「本能寺の変」の前後の物語を “北野流” で映画化したものだ。「構想30年」といわれており、着想から公開までに長い時間を要している。観た感想を一言でいえば、面白かった

私自身、歴史ドラマや映画をそれほど観る方ではない。というのも、堅苦しい台詞まわしや仰々しい演出が苦手で、あの手の作品を観ると、物語に入り込むことができないのである。美談がすぎるというか、英雄視しすぎじゃないの? と思うことしばしば……。


その点、この作品に美しいモノはひとつもない。キャッチコピーの「狂ってやがる」よろしく、加瀬亮さん演じる織田信長の狂いっぷりは最高としか言いようがない。信長はさまざまな作品で題材として取りあげられているが、個人的には加瀬さんの信長が1番よかったと思う。その信長に代表される狂気は美しさとは程遠く、英雄というより暴君と呼ぶ方がふさわしい。


とにかく全編通して、根底に流れるのは、泥と欲、そして血生臭さである。覇権を争うもの同士の汚い人間模様を、汚く描いている点がとてもよかった。もしかすると、史実もこれに近かったのではないかとさえ思えてくる。

政治の場では腹の探り合いである一方で、合戦の場はあっけなく決着がつくこともあっただろう。馬上でつばぜり合い、しのぎを削る剣戟が繰り広げられたわけではなく、なにかの弾みで大将首を獲るなんてこともあっただろう。そんなだらしない戦の風景も、この作品で観ることができる

「本能寺の変」という多くの人が知る題材を、北野流のウィットなタッチで料理しているところが、本作の面白いところだ。本当にこんな感じだったんじゃないかと思わずにはいられない。



総じて満足の行く内容だったのだが、構成にメリハリがやや欠ける点が気になった。「表」の話か、それとも「裏」の話が進行しているのか、わかりにくい場面があったのだ。

たとえば木村祐一さん演じる抜け忍の芸人、曽呂利新左衛門の出番がやたらと多い。忍(しのび)なのだから暗躍するはずが、物語の多く場面でその姿を見ることになる。もしかしたら、他の武将よりも圧倒的に出番が多かったかも。実行役の立ち回りであるのはわかるけど、裏の存在のはずじゃないのかな……。


いずれにしても、この作品は北野監督自身が演じる、羽柴秀吉の一言に尽きる。彼が何を言うのか、ぜひ劇場で確認して頂きたい。あの台詞は秀吉の言葉であり、北野武の言葉だ。なお、この作品は15歳未満は鑑賞できない(R15+)ので、ご注意を。

参考リンク:(公式サイト)
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24