本日3月30日……と言っても、あと1時間ちょっとで終わるが、実は今日はマフィアの日であるそう。「何の記念日だよ!」という気がしないでもないが、今から700年以上前のこの日、“マフィア” という名称の由来になったとされる虐殺事件が、イタリアはシチリアで起きたらしい。

詳しくは文末の参照元にある『今日は何の日』をご確認いただくとして、今回はそんなマフィアの日にちなみ、“その筋” なエピソードをご紹介しよう。といっても、語るのはマフィアでもヤクザでもなく、「小学生の頃から10年以上もヤクザの隣に住んでいたカタギの人」だ。果たして、隣人から見たヤクザとは?

・意外と普通だったヤクザの生活

まず、最初に言っておきたい。「小学生の頃から10年以上もヤクザの隣人だった人」というのは、実は私(和才)。この話をすると、大体「マジ?」と聞かれるが、マジである。私が小1くらいの頃から高校の卒業までを過ごしたアパートの隣の部屋には、ヤクザのおっちゃん一家が住んでいたのだ。

そのヤクザのおっちゃん一家は、私より確か年が4つか5つ上の娘さん、私より年が1つ上の息子さん、そして犬という家族構成。どう考えても犬を飼えないアパートだったと思うのだが、その一家はいたって自然に犬を室内で飼い、朝か夕方には堂々と外を散歩させていた。

そして意外に思うかもしれないが、犬を主に散歩させていたのはヤクザのおっちゃん自身。散歩でテンションの上がった犬がリードをピンピンに引っ張ると、夏でも長袖を着たおっちゃんの袖口からチラチラと顔をのぞかせる “完全にガチな入れ墨” を私は今でもおぼろげに覚えている。

・主夫業をバリバリこなすヤクザのおっちゃん

さらに意外なことに、そのおっちゃんは、めちゃめちゃ家事をする主夫であった。家にお母さんがいなかったという事情も背景にあるのだろう、おっちゃんは基本一日家にいて、洗濯や掃除、料理をこなしては子供たちを食べさせていたようだった。

「じゃあ、その一家はどうやって収入を得ていたのか?」などと考えると、どうしてもダーティーな方向に想像が行ってしまうのだが、とにかくヤクザのおっちゃんが毎日家事をこなし、子供たちを育てていたのは間違いない。

また、子供の教育に関しても独自のルールがあるようで、自分の息子が悪さをしたときには「お前、人に迷惑かけることしたらアカンって何べんも言うてるやろが!!」と、ハンパない迫力で叱りつけていた。

「人に迷惑をかけることはするな」──これが、どうやらヤクザのおっちゃんの教育方針らしく、その薫陶(くんとう)を受けた息子と私は、積極的に交流することはなかったものの、外で会ったらちょいちょい話すくらいの関係ではあった。

例えば、小学生の頃には「ライターをジャンパーのポケットに入れたまま火をつけると、外から見たら光ってめっちゃカッコいい」と言って実演し、“光るジャンパー” を見せてくれたのも その息子だった。

結果、「ポケットの中で火をつけると、最悪 服が燃えることもある」という当たり前のことを身をもって教えてくれたし、中学生になると「京都府警の機動隊の○○はバイクテクがヤバい。コーナーでの追い込み方がエグいわ」という、全く日常生活の参考にならないアドバイスをいただいたりもした。

つまるところ、ヤクザのおっちゃんの息子はヤンチャではあったものの、決してイヤな人でも怖い人でもなく、「話すと普通の人」だったのだ。

・家族間の関係

私の家族とヤクザのオッチャン一家の関係もまた、私とその息子の関係と似たようなものだった。「積極的な交流はないが、軽く挨拶する」くらいの距離感で、お隣さんに対して「見た目は怖いけど、根が悪い人たちではない。たぶん」という共通意識を家族間で持っていたように思う。

・困ったこと

ただし……! これだけはマジ勘弁してくれということが少なくとも2つあった。1つは息子の改造バイクの騒音。そしてもう1つが、たま〜に隣から聞こえてくる断末魔の叫びのような犬の鳴き声だ。

なぜ、犬がそんな鳴き声をあげるのか? 壁越しに聞こえてくる声からの推測なので はっきりとは分からないが、どうやらヤクザのおっちゃんが、飼っている犬をドアに投げつけている(!?)ような気配があった。なぜなら、ドスンドスンというドアの音と同時に、キャンキャンという犬の鳴き声が響き渡るから……。

犬はきっちりエサを与えられていたらしく普通の体型、毛並みも普通の範囲。先述の通り、散歩で外にも出されており、その様子に特に弱ったところは無かったような……。詳しい事情は分からないけれど、隣人として不気味で怖かったのは間違いない。

──以上である

とにかく、これらは20年以上前の話。個人的には懐かしくもあるものの、今でも引っかかっているのが「人に迷惑かけることしたらアカン」と言っていたヤクザのおっちゃんの教えだ。一見、至極まっとうなことのように思うのだが、迷惑をかけたらアカン相手として、犬も対象範囲内だったのだろうか? 対象範囲内だった……と願いたい。

参照元:今日は何の日?
執筆:和才雄一郎
イラスト:稲葉翔子