
何事も長く継続することは、並々ならぬ努力がいる。しかも一線で活躍するとなると、努力だけでは乗り越えられない壁にぶつかることは避けられない。そう考えると、デビューから28年を経て、デビュー当時を凌ぐ勢いで支持を集めるロックバンド「人間椅子」は、かなり稀有な存在であると言えるだろう。
いまだにロックに対する情熱は潰えることなく、メンバー全員が50代に突入して、ますますその魂に磨きがかかっている。一体何が彼らを突き動かすのか? その答えが、2017年2月に発売されたギター・ボーカル和嶋慎治氏の自伝『屈折くん』に隠されている。
・曲を知らなくても、その魅力に惹き込まれる
私(佐藤)は『屈折くん』を献本いただいて読んだ。まず最初に、この作品についてお伝えしたい。本書は人間椅子を知らなくても存分に楽しむことができる。こんな人間いるのか!? という驚きと共に、最後まで一気に読むことができるだろう。
私は20代のころからバンドのことを知っているが、アルバムやライブの裏で、想像を絶する日常が繰り広げられていたことに、ただただ驚いた。きっとバンドの音楽を聞いたことがないという人でも、和嶋氏と、人間椅子の魅力に惹き込まれてしまうに違いない。
・長く暗い時間を脱したきっかけ
28年もの長きにわたる活動は、決して順風満帆だった訳ではない。自伝を読むと、華々しくデビューした数年と、「黄金期」と呼べるここ数年を除けば、長く暗い時間を過ごしている。
特に和嶋氏に関していえば、2009年のアルバム『未来浪漫派』をリリースする直前まで、壮絶な貧乏生活を送っていたのだ。このアルバムを出す前と後で、一体何が変わったというのか?
・なぜ、どん底時代を書いたのか?
佐藤 「自伝では、かなり赤裸々に和嶋さんの半生が書かれていると思います。特に部屋がゴミ屋敷と化して、極度の貧乏に陥った時とか、『ここまで書いていいのか?』と思うほどだったんですけど、そこまで書く必要はあったんですか?」
和嶋 「もしも順調にバンド活動が続いていたら、多分今のようになってないと思うんですよ。いろいろあったからこそ、今に至ってると思ってます。そのことの説得力を出すためには、全部書かないと読んでいる人も納得できないでしょうし。何より、全部書かないと、自分が納得いかないし」
佐藤 「どのくらいの期間をかけて書いたんですか? 幼少期や学生時代の、かなり細かい思い出まで綴られていますけど、よく覚えてましたね」
和嶋 「2016年の夏くらいに話があって、10月くらいから制作が始まりました。自分なりに記憶はいい方かなって思う部分もありますけど、今まで雑誌やウェブ媒体にエッセイを書いたりしてきたので、それで過去のことを割と思い出しやすかったと思いますね。あとは、時系列に沿って書いているので、書いているうちに思い出したこともたくさんあります」
・お互いの音楽のファン
佐藤 「どん底生活から脱した時に、『美しく生きたい』という願いを持って、生活し始めたことが自伝に綴られていました。そこから次第にバンド活動は好転し始めて、いろいろ活動の幅が広がっていったと思います。その時にメンバーは和嶋さんの変化に気づいていましたか?」
和嶋 「当時は特に何も言われなかったような……。あ、でもある時から、鈴木くん(ベース・ボーカル:鈴木研一)は、『魂を削ってアルバムを作ってるよね』って言うようになりましたね。ノブくん(ドラム・ボーカル:ナカジマノブ)は、『着る服が変わった』と言ってた(笑)」
佐藤 「そういえば大学時代に、鈴木さんがロシア旅行で不在中に、鈴木さんの家で曲を作るというエピソードがありましたよね。鈴木さんをビックリさせようと思ったという話です。それって今でも、曲作りで意識してるんですか? 新曲で鈴木さんをビックリさせてやろう! みたいな」
和嶋 「確かにありますね。何て言うのかな、そういう気持ちって伝わるんですよ。いいモノ作れば、ちゃんといいモノであることが伝わるし、イマイチなモノを作るとそれなりにちゃんと伝わるんです。鈴木くんは、一番僕の作品をわかってくれる人ですね。
多分それはお互いに同じで、僕が一番鈴木くんの音楽を理解していると思っています。いい意味で一番ファンなんですよ。お互いの音楽の。だから、ある程度は彼のことを意識して曲は作っていると思います」
佐藤 「そうすると、和嶋さんの人生感の変化は、メンバーが何も言わなくても、バンドに大きな影響があったでしょうね」
和嶋 「あるとは思います。やっぱりどん底を脱した『未来浪漫派』あたりから、音が研ぎ澄まされてきたと思うし、楽曲に統一感が出てきたと自分でも感じてますから」
・休まない理由
佐藤 「一時期、ライブをあまりしていない時期がありましたよね?」
和嶋 「ライブは1年1回とかでしたからね。どん底時代はバイトが忙しくて、ツアーとかできなかったんですよ」
佐藤 「今は全然違いますよね。少なくとも、この5年くらいはほとんど休んでいないんじゃないですか? アルバムはコンスタントに出してますし、昨年はツアーを3回も行ったり。アルバムのリリースに付随して、プロモーションにも出かけているし。全然休んでないと思うんですけど、やっぱりそのどん底があったから、活動を続けているんですか?」
和嶋 「そう、苦しい時期があったから、怠けようとは思わないし、怠けるような気もない。あの時は仕事をやりたくても無かったんで。だから、頼まれた仕事をきちんとしたいんです。これからも精一杯やっていきたいと思っています」
・誰のなかにもある「屈折」
自伝『屈折くん』には、そのタイトルが表すように和嶋氏の屈折した人生が綴られている。たしかに、バンドマンとして活動していなければ、かなり怪しい人物と言わざるを得ない。ファンの間では有名な話であり、本書にも触れられているのだが、「UFOに連れ去られた経験」を持つ人など、そうそういないだろう。
しかしながら、この作品を通して、読者は自らの人生を省みることになるだろう。誰にでも当てはまるような「挫折」や「葛藤」、そしてささやかな「幸せを願う心」が、つぶさに垣間見えるからだ。
つまるところ、誰もが携えた「屈折」がつまびらかに記された本書は痛快である。『屈折くん』を読めば、人間和嶋慎治を愛おしく感じると共に、自分の人生もまた愛おしく感じることだろう。
人間椅子の音楽を知らないという人は、3月25日にニコニコ生放送で放送される『ライブ盤リリース記念ワンマンツアー『威風堂々』ファイナルライブ』をご覧頂きたい。日本を代表するロックバンドの魂を感じ取ることができるだろう。
・ニコニコ生放送 『ライブ盤リリース記念ワンマンツアー「威風堂々」ファイナルライブ』
17:00~ ダイジェスト & ミュージックビデオ放送
18:30~赤坂Blitz ライブ生中継
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
佐藤英典





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