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2016年2月3日に通算19枚目のオリジナルアルバム『怪談 そして死とエロス』をリリースした、ロックバンド「人間椅子」。彼らの活動については、これまでも繰り返し紹介してきた。彼らの姿を見るとき、“アーティストの歩み” とはひた向きなものであり、孤独であり、なおかつ見えない道を進むようなものではないかと思う。

そうであればこそ、静かに着実にその歩みを続けてきたものには、比類なき世界観と表現の自由が許されるのではないだろうか。彼らの最新作を聞くと、そのことをまざまざと見せつけられるようだ。まぶたの裏で火花が散るような、魂を揺さぶるサウンドが心を、そして魂を掴んで離さない。それがライブとなれば、さらに……。2016年3月19日赤坂BLITZでのツアーファイナルは、まさしく鬼気迫るものがあった。

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この日はいくぶんすぐれない天気。時折雨が降り地面を濡らしていた。ところが会場間際の時間になると、その雨も上がり、まるでツアーファイナルを歓迎しているように晴れ間が見えた。会場のBLITZには、入場を待つ長蛇の列が。若干数当日券を販売するも、すべて完売。会場はパンパンの状態で、ライブの幕は切って落とされた。

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開演時刻の18時30分を少し過ぎた頃、ステージが暗転し、メンバーの登場を合図する曲『此岸御詠歌』が流れ始めた。この時、この瞬間を待っていたファンからは、歓声が沸き上がり、すでに場内は温まっている状態に。

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先の曲が静かに消えるや否や、新譜からの1曲目は暗闇を切り裂くようなギターリフで始まる『雪女』。人間椅子が得意とする多展開のこの曲で、ファンは一気にその世界観に引きずり込まれ、この先の2時間半もの間、陶酔し続けることになる。続けざまにハイテンポな『地獄の球宴』。すでに会場は一体となり、興奮の坩堝(るつぼ)と化した。

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羽織りを脱ぎタスキ掛けをしたギターボーカルの和嶋慎治。どこか不安をかき立てるようなギターのアルペジオから、急転直下の激しい曲展開へと変わる『眠り男』で会場が揺れる。そしてベースボーカルの鈴木研一が歌う、レアなナンバー『遺言状放送』に、古くからのファンは感動を禁じ得なかったはず。

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この後、前半は新譜からの楽曲『三途の川』、『マダム・エドワルダ』、『恐怖の大王』、『芳一受難』と続く。きっとライブで新曲を聞きたいと思っていたファンは、歓喜に胸躍り、興奮を抑えるのに必死……、いや興奮に身を任せ、彼らの音に酔いしれていたのだろう。

と、ここで嬉しいハプニング発生! 新しくレスポールギターを手に入れた和嶋が、再結成で騒がれるロックバンド「ガンズアンドローゼズ」の名曲『Sweet Child O’ Mine』をリフを弾き始めたのだ。まさか! と思ったら、これに鈴木とドラムのナカジマノブが続き、即興演奏を披露。まさかガンズのフレーズを人間椅子から聞く日が来るとは思わなかった!

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ライブ後半は、近年の楽曲からライブの定番曲までを織り交ぜて、怒涛の人間椅子ワールド炸裂。空気を劈(つんざ)くギターリフと、地を這いうねるようなベースサウンド。そしてパワーとエネルギーがほとばしるドラムビートに、興奮があふれ返る。

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ファンは、鈴木がボーカルを務める『冥土喫茶』で腕を高く振り上げ、ナカジマがボーカルの『超能力があったなら』で「E! S! P!」と叫び、最後の『針の山』で和嶋のジャンプに合わせて高く飛び跳ねた。カメラを構える私(佐藤)の足元にも、激しい床のきしみが伝わり、熱気の波に飲まれるようであった。

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アンコールで和嶋は、60歳になっても70歳になっても活動を続けることを宣言し、ファンのアツい声に答えた。そして最後に『新調きゅらきゅきゅ節』、『地獄』(アンコール1)、『なまはげ』(アンコール2)をぶちかまし、ファンの精魂尽きるまで、持てるすべてを出し尽くした。

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今回の公演が大盛況であったため、4月17日に追加公演が決定している。会場は東京・六本木のEX THEATER ROPPONGIだ。この追加公演「続・怪談 そして死とエロス」では、この日披露されなかった新曲やレア曲も予定されているとのこと。今回来られた方も行きそびれたという人も、ぜひともチェックして欲しい。また、6月15日には新宿LOFTにて戸川純とのツーマンライブも決定している。

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それにしても、ひた向きな活動の果てに作り上げる作品は、ますます研ぎ澄まされて磨きがかかっていくようだ。静かに繰り返されるロックの営みのなかで、その英気は鋭く輝きを増し、無限の光と影を携えていく。息をひそめて獲物を狙う獣のように。人間椅子のロックは確実に心と魂を掴み、奪う。今回3000枚のなかから厳選したライブ画像は、次のページでご覧頂きたい。

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24