shiseido

以前の記事で、メチャクチャな日本語で歌うセルビア出身のメタルコアバンドRain Delayの『資生堂(Shiseido)』という曲を紹介した。楽曲は意外とまともで、格好良いバンドだ。

しかし、あまりに意味不明な歌詞が気になったので、バンドのメンバーにインタビューしてみた。以下はその内容なのだが……。

注意:歌詞が意味不明である以上に、意味不明な答えが返ってきてしまったことを前もって、お断りしておこう。ポエマーメタラー(詩人的なメタルアーティスト)に対して、具体性を求めたのは元々無理な話だったのかもしれない。しかし日本贔屓のセルビアの若者がどういうものかを知る上では、多少参考になるかもしれない。

・親日国セルビア

ところでセルビアにあまり馴染みがない読者への補足説明だが、セルビアは世界有数の親日国と言われている。ユーゴ紛争でNATO(北大西洋条約機構)から空爆を受け、街が荒廃した後、日本がバスを提供するなどして、インフラの復興支援をしたことや、国連の明石康事務次長が欧米で蔓延(はびこ)った「セルビア悪玉論」に偏らず、ボスニアやクロアチアとセルビアを公平に扱ったことなどが理由とされている。

またセルビアでは日本ポップカルチャー同好会「Sakurabana」の活動が有名で、東日本大震災の時はセルビアがヨーロッパで一番義援金を拠出してくれたことでも知られている。『珍国巡礼』という本でも、探検家高野秀行氏がセルビアの親日ぶりのエピソードを紹介していた。

したがってセルビアでは、元々日本のイメージが割と良かったので、メタルコアバンドが『Shiseido』という曲を作ったのも自然な流れだったのかもしれない。

・架空の混血女性(セルビア人と日本人のハーフ)がコンセプト

Q.「日本人にとって『Shiseido』という曲はかなり変な感じがする。日本の化粧品メーカーだからね。それって知ってた? なんでこんな曲名にしたの?」

A.「Rain Delayはコンセプチュアルなバンドなので、あんまり正確さを期待されるとちょっと困るんだけど。実はバンドは、セルビア人と日本人のハーフの『セレナ・シセイドウ』をコンセプトにしているんだよ。彼女(セレナ・シセイドウ)は架空の人物なんだけど、元々のイメージは俺の婚約者であるミナ(注:セルビア人)。

日本人の女って小柄で活発だけどシッカリしてるでしょ? それに『シセイドウ』って日本ではよくある苗字だよね? 確か俺が彼女に最初にあげたプレゼントは、資生堂の口紅だった。ヨーロッパの人からすると、ベビーメタルとかレディベイビーとか妖精帝國ってかっこ良く見えるんだよね。あんなイメージかも」

Q.「『Shiseido』の歌詞は日本語で全く意味を成していない。結局、どういう意味なわけ? それとも意味とか求めない方が良いのかな?」

A. 「これは俺とセレナの間の会話なんだよ。彼女に延期になった航空ショーに連れて行くって話でさ。そしてその後、ベネチアに連れていって、ニースにも連れていって、護身術を教えて。彼女は将来について心配しているけど、俺が守ってやる……って話なんだよ」

Q.「ドイツ語で『ツァイトガイスト』と叫んでる箇所があるけど、どういう意味?」

A.「それはドイツのドキュメンタリー映画の事」

・メンバーは誰も日本語をしゃべれない

Q.「バンドメンバーのボヤナ・ミロサヴリェヴィッチ(通称ビアンカ)は、とても上手な日本語で歌ってるね。彼女は日本語が喋れるの?」

A.「メンバーの誰も日本語はしゃべれないよ。元々の歌詞は英語で書かれていたんだけど、セレナ役のビアンカがベオグラードの日本語学科卒のネナド・トライロフに日本語に訳してもらった。本当は日本語の歌詞はMelt Banana(注:世界的に有名な日本のバンド)をイメージして、スラッシュパートで早口で歌う部分だけにするつもりだったんだけど、結局、曲全般で日本語を使う事にした」

Q.「君たちの曲『Kyoto Daylight Recon』も日本語の歌詞だよね。どういう意味なの?」

A.「この曲はかなり複雑だね。日本語の歌詞の部分は、まだ俺の生まれていない娘が歌っているんだよ。実際、そういう夢を見たの。彼女が俺に『父?(注:多分「パパ?」という意味だと思われるが「父」と漢字で書いてきた)』と聞いてきて、それに対して俺は彼女に『シエナ(注:ママ(母という意味ではなく、そう書いてあったという事)』と答えてやった。

その後、彼女は俺に対して『僕らをさまよわ(注:ママ)』と言ったんだよ。その言葉は『Shiseido』で何度も聴いてたから、夢のなかでも出てきたんだろうね。Google翻訳の発音機能を使って、何度も繰り返し聴いてたから、頭にこびり付いちゃって、それで夢にまで出てきたんだと思う。この頃、俺、よく悪夢で悩まされていたし」

・誰も日本に来たことはない

Q.「メンバーは日本に来たことあるの? 日本人の友達はいるの? 日本についてどう思う?」

A.「うちらの周りの人間は、みんな日本に関係することだったら何でも好きだぜ。ベーシストニコラ・アンドレイッチは『NARUTO』のファンだし、ピアニストのマティジャ・アンデルコヴィッチは日本の作曲家から影響を受けている。

俺個人も日本は最高だと思ってる。メンバーの誰も日本に行ったことはないんだけど、友達が東京と京都に行って、そこで日本人と婚約するに至った。いつかRain Delayがバンドとして日本に行けたらいいと思ってる」

Q.「君たちは自分たちのことを『ベネチアンメタル』って言ってるけど、これはイタリアのベネチアのこと? 一体どういう意味?」

A.「今のイタリアのベネチアっていうよりは、海洋国家だったベネチア共和国のことだね。とても自由奔放に地中海を行き交っていたでしょ。それにうちらの曲には実際、ベネチアの影響があると思うよ。

例えばヴィヴァルディから影響を受けてるし。あと実は俺にはベネチアの血が入っているらしい。セルビアとベネチアの混血って訳だ。『Shiseido』の曲では、日の丸と一緒にベネチアの旗も掲げてあったの気が付かなかった? そういうこともあって冗談で『ベネチアンメタル』と名乗ってたら、いつの間にか定着した」

Q.「日本とセルビアの関係についてどう思う?」

A.「政治的な関係はよく分からないけど、日本のことが好きなセルビア人は大勢いる。文学や漫画、テレビ番組が好きな人が多いけど、俺の場合、ファンタジーとかイラストレーターかな。俺は宮﨑駿や黒澤明の大ファン」

・世界に先駆けて日本語を取り入れた自負

Q.「柔道やるの?」

A.「俺は柔道やるけど、ブラジリアン柔術だから、ちょっと日本固有のものとは違うかもしれない。前のベーシストもブラジリアン柔術やってたし、前のギタリストは空手やってて、他にもカポエラやってるメンバーもいた。

おい、ところでロケットニュース24を読んでくれている日本人のみんな! うちらは『Shiseido』や『Kyoto Daylight Recon』で、今では世界中で『Kawaii Metal』と呼ばれているようなことを先駆けてやっていたつもりだ。そのことだけは知っておいてくれよ」

以上、ところどころ意味が捉えにくい答えが返ってきて訳すのに苦労したが、いずれにしても日本を贔屓にしてくれているセルビアのメタルコアバンドがいることは喜ばしいし、これからも彼らの活動を応援したい。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

▼セルビアのバンドRain Delay『Shiseido』

▼『Kyoto Daylight Recon』