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以前ハングルなどが混ざったトンデモ日本イメージを活用したGenetikkというドイツのラッパーを紹介したが、フランスにも同じぐらいトンデモ日本のヒップホップビデオクリップがあった。その曲名は『Benkei et Minamoto』。そう『弁慶と源』である。

・2013年発表時に少し話題に

実はこの曲、「辺境音楽マニア」コーナーが始まる前の2013年、ビデオクリップの公開直後に筆者がTwitter で紹介した際に結構拡散されたため、既に知っている人もいるかもしれない。しかしあまりに笑劇的なビデオクリップなので、改めて紹介してみたい。

・『TAXi』のサントラも作った有名グループ

『Benkei et Minamoto』を歌うラッパーはフランスのヒップホップ界でも長老格に属する、1989年にマルセイユで結成された「IAM」。90年代のフランスのヒップホップシーンでは「Supreme NTM」、「MC Solaar」と並ぶ大御所中の大御所だ。

映画『TAXi』のサウンドトラックを担当しており、「Wu-tang Clan」や「Methodman」、「Redman」などとも共演を果たし、世界的にも著名な数少ないフランス出身のヒップホップである。

・移民で構成されたメンバー

IAMは「火星人の侵略」を意味する「Invasion Arrivee de Mars」の頭文字とされるが、「Mars」は彼らの出身の「マルセイユ」も同時に意味する。メンバーはそれぞれ、アルジェリア・スペイン・イタリア・セネガル・マダガスカル系の移民で構成されており、フランス本土出身者を先祖に持つ者がいないのが特徴だ。

・最初の頃は古代エジプトがコンセプト

また彼らのラッパー名Imhotep(インホテップ)やAkhenaton(イクナトン)からも察しが付く通り、古代エジプトをモチーフにしている。移民労働者階級出身を代表して、サルコジや国民戦線など右派政治家を批判する姿勢でも知られている。エジプトをイメージにしているのも、アラブやマグレブ、中東など彼らのマイノリティーとしての民族性をアピールするためだ。

・マダガスカル出身のメンバーの名は「手裏剣」

メンバーの1人、マダガスカル系のShurik’n(シュリケン)という名の者がいるのが気になる。これは案の定、忍者の飛び道具「手裏剣」から来ている。マダガスカルはアフリカよりも、インドネシアなどのマレー系に近いとされ、人々も自らの事をアフリカ人というよりは、アジア人だと思っているらしいので、それもあって日本の武道的なイメージを活用したのかもしれない。

当初は古代エジプトやファラオイメージの作風で活動していた彼らだが、1997年にリリースした3作目『L’Ecole du micro d’argent』で日本のサムライをイメージしたジャケットを発表。この作品は発売後2日でゴールドアルバムになるほどの売れ行きを記録した。またこの際、IAMのロゴも日本の武将をイメージさせるものに変わった。

・鳴りを潜めていたが2013年に日本趣味が全面開花

すでにこの頃から日本趣味を垣間見せていた彼らだが、その後しばらくはメンバーのソロ活動も多く、他のアルバムもアラブ風に回帰したりと、日本かぶれの目立った動きはなかった。

しかし2013年に発表した『Arts Martiens』で再び日本趣味が全面開花した。ジャケットからして日本の神社か寺のイメージである。そしてこのアルバムの中に冒頭で紹介した、『Benkei et Minamoto』が収録されているのだ。

・「切腹」「俳句」などそれっぽい日本語を羅列

まず「弁慶」と「源」が並列されているのが、日本人としては気になるところ。「弁慶」が来るなら「義経」ではないだろうか? 歌詞を見てみると、武術を習得する時の修行の描写の様な内容で、歌詞そのものに中身はあまりない。途中で「私を指導したのはMusashibo Benkei(武蔵坊弁慶)」という意味の文が出てくる。弁慶の正式な名前も認識しているようだ。

また他にも「切腹」や「俳句」といった日本語が出てくる。この辺は単にそれっぽい言葉を羅列したかっただけで、歌詞の意味を追究してもあまり意味がなさそうだ。

・桜吹雪や日本庭園、そしてカンフー映画風の人たち

ビデオクリップを見てみると、桜吹雪や日本庭園、池、竹やぶ、鳥居、香港のカンフー映画に出てきそうな人、忍者、ノンラー(ベトナムなどで見られる円錐形の笠)を被った二刀流のツインテールのくノ一などが出てくる。そしてサビの一部で「Sabre 2 Blades」と歌っているのだが、「二刀流」を意味すると思われる。

・サビの「Benkei et Minamoto」が無限ループ

また「ナジナタ」と発音している部分があるのだが、これはどうやら「薙刀(ナギナタ)」のようだ。「Naginata」の「g」を「ジ」と発音しているのである。結局、このビデオクリップを見てもなぜこれが『弁慶と源』なのかよく分からない。

単にカンフー映画っぽくしたかっただけの様に見える。曲のバックトラックには和風のメロディーが流れ、琴の音色も混ざり、それに覆い被さる「Benkei et Minamoto」というサビが頭にこびりつく。

しばらく聴いていると、これはこれで中毒性が高く、頭の中で「弁慶et源」とループし始めるので日本人としては非常に困った曲である。

参照元:YouTubeAmazon
執筆:ハマザキカク

▼IAMの『Benkei Et Minamoto』(弁慶と源)