職:欲しい物? 今はないね。


▼まとめ作業後の鉄。本当に四角くなってる!!

記者:刀の基本的な材料はどんなものなのでしょうか? ※ロケットニュース24読者からの質問
職:基本的には玉鋼(たまはがね)。結局原料が同じだと、同じ作り方になってしまい、同じ物しかできないんだよね。だから新しい物を作るには、自分で原料を考えていかなきゃいけない。
記者:例えばどんな新しい物を使っているのですか?
職:僕は玉鋼じゃなくて銑(ずく)っていう、玉鋼よりもっと炭素量の高い物を使ってる。
▼作業によっては一日中、工房にいる。まさに自分一人で立ち向かう孤独の世界

▼鉄を叩き、不純物を除去する作業「鍛練」のときは、部屋のカーテンを閉め真っ暗にする。カーテンを閉め切っているため、夏に作業をすると、部屋は40度以上になり、まさにサウナ状態

▼部屋を真っ暗にする理由は、炎の色をより正確に見るため

記者:歴代の名だたる刀匠の方々から1名選び、もし一緒に刀を作れるなら、どの刀匠の方を選びますか? ※ロケットニュース24読者からの質問
職:う~ん、それは言いがたいね。刀ってそれぞれ魅力があるから、特にはないね。

記者:今ほしい材料はありますか?
職:ある。例えば専門的な言葉だけど、包丁鉄。銑(ずく)から極限まで炭素を抜いた柔らかい鉄。その包丁鉄が今ほしいんだよね。
記者:それを作れる方がいないということですか?
職:作る技術がない。
記者:なるほど。
職:今は作る人もいないし、技術もない。
記者:現に、包丁鉄で作られた刀は存在していますか?
職:包丁鉄は、それ単体では刀にならない。いろいろな材料と混ぜて、加工しないと使えない。
記者:包丁鉄を使うことによって、何が変わってくるのですか?
職:景色が変わってくる。刀に現れる景色が。刀の見所は、3つあるんだよ。一番最初が刀の形、つまりフォルム。二つ目が「地金」。折り返し鍛錬を行なうことによって地(ぢ)に模様、つまり景色が生まれ、それを地金という。三つ目は「刃文」。地と刃の間に生まれる境界線の模様のことで、稲妻や雲のようないろんな景色を見せてくれる。これらが刀の見所で、その見所の美しさは材料でずいぶん変わってくる。
▼研ぎの作業




▼刀鍛冶職人が軽く研ぎ、仕上げの研ぎは研ぎ師にお願いする

記者:ご自身にとって刀とはなんでしょうか?
職:刀とは、分身みたいなもんだね。精魂込めて作ってるから。
記者:そのときの自分が刀に現れるということですか?
職:うん、一本一本、これをやろう、あれをやろうって思いを込めて作ってるから。
記者:つまり刀の仕上がりは、そのときの環境や精神状態で……
職:左右される。


記者:最後の質問ですが、これからの夢は何ですか?
職:まだまだ刀の評価というのは、古い刀との対照の評価なんだよ。いま作った刀と、例えば古い刀とを比べた時に、どの程度のレベルにあるかっていう評価なんだよね。だから古い物と同じか、それ以上の物を作りたいっていうのはある。いわゆる名刀に匹敵するような刀を作りたいっていうのが、夢かな。
記者:その刀の価値を判断されるのは、鑑定家なのですか?
職:一般的にはそうだけど、やっぱり自分の目を一番信じてるよ。そのためにいろんな良いものを見るようにしてるし、機会があれば一流の物を見るようにしてる。鑑定家はある意味、表面的なものだけを見てるでしょ。僕らは素材そのものから分かるし、もっと違う視点から見れるから、鑑定家よりもっと奥深いところを見れると思う。
記者:ご自身で満足できる、歴代の名刀に匹敵する刀を作るのが夢ということですか?
職:うん、作りたい。できないかもしれないけれど。少しでも近づきたいっていうのはある。それが夢だね。
記者:ありがとうございました!
いかがでしたか? すごく勉強になるインタビューだったのではないでしょうか? 私は今回インタビュアーをして、もちろん宮入さんの凄まじいストイックさ・ひたむきさに驚きを覚えたのですが、一番感銘を受けたことは宮入さんの優しさでした。こちらがお願いしてインタビューさせてもらっているにも関わらず、私たちロケットニューススタッフをまるでゲストのようにすごく親切に出迎えていただきました。
そして刀鍛冶の仕事をひとつひとつ丁寧に優しく教えていただき、最後には車で帰り道の案内までしてくださいました。まるで父のような温かさでした。
何かを極めた人は、他人に優しくなる。
今の境地にいたるまで様々な人に支えられ、人の助けのありがたさを知っているからこそ、他人に感謝の気持ちを持ち、あれほど優しくなれるのかもしれません。「自分もあんなふうに歳を重ねていきたい」。心の底からそう思わせてくれるカッコよくて、心温かい職人さんでした。
参照リンク: 宮入法廣(NORIHIRO MIYAIRI)
Report: 田代大一朗
Photo: RocketNews24.
▼宮入法廣さんが住むのは、自然あふれる静かな地・長野県軽井沢

▼こちらが刀匠の宮入法廣さん

▼刀の研ぎに挑戦させてもらいました

▼独特の座り方でするので、慣れていないと膝を痛めるらしい

▼座る台はこんな形をしています

▼全然バランスがとれない!!

▼右足に体重をのせるのがポイント

▼ちょっとできるようになったけど、これを長時間続けるのはかなりきつい……

▼次は、炭を一定の大きさに切り揃える作業「炭切り」に挑戦。炭切りは刀鍛冶を志す人たちが最初に修行する作業であり、3年かけてやっと綺麗に素早く切れるようになる

▼宮入さんに「時々ナタで爪を割っちゃう弟子がいるから気をつけてね」と言われ、ビビりまくる上田

▼全然綺麗に切れない。本来はこの作業は、電気を消した暗闇の工房でするというから驚きです

▼火傷は日常茶飯事で、今では火傷の治りが速くなっているらしいです。また大量の小さな炭が工房中に舞っているため、のどを痛めることもよくあるのだとか。ちなみに取材後に自分の鼻をかんでみたら、かんだティッシュが炭で真っ黒になっていました

▼「神の手」とも呼ばれる宮入さんの手

▼この手から多くの美しい刀が生まれてきた

▼宮入さんいわく刀鍛冶の一番脂がのる時期は、50代後半から60代前半。それは人生の様々な経験が、刀を作る上で重要になってくるから

▼宮入さんから読者へのメッセージ「持っている引き出しの数が多ければ多いほど、応用が効き、いいものが作れるようになります。そしてその引き出しの数とは、つまりは失敗の数。だからいろんなことに全力で挑戦して、いっぱい失敗して下さい」

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]
田代大一朗
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