私(筆者)の祖父は、「ヘークショ(ボンッ)チキショッ」といった感じでクシャミとオナラと捨てセリフを同時にカマすほどのボンバーマンであるが、人前で堂々と爆音級の放屁をするのは、あまり褒められたものではない。
でもね、でも……人前で堂々と音の出る屁をこいたら、結果として友情が深まるという奇跡もあるのだ。──あれは今から12年ほど前。カンボジアの首都プノンペンの、とあるスラム街に私(筆者)が滞在していたときの出来事だった。
詳しいことは省略するが、私はその時、スラム街に住んでいる男たちと毎日のように酒を交わし、ふと気づけば、彼らの家族のホームパーティーに呼ばれまくるような間柄になっていた。そんなある日、突如として以下の様なイベントが発生したのだ。
題して、「仲間の兄貴が結婚するにあたって、相手方のご両親が挨拶に来るのだけれど、家がオンボロすぎてみっともない。よって、部屋を白ペンキで塗りまくり、少しでも立派な生活をしているように見せようぜ作戦」である。
……冷静に考えれば旅行者である私が作戦に参加する必要はまったくないのだが、なぜか勝手に頭数に入れられていた。そして「今晩、あいつんちに夜9時集合、徹夜覚悟でペンキ塗りするぞエイエイオー!」と相成ったのである。
部屋はオンボロだからホコリまみれ。手はペンキで真っ白だ。しかし、みんな汗だくで一生懸命ペンキをヌリヌリ。「アニキのために……みんなオークンチュラン(マジありがとう)!」と、仲間の弟は嬉し泣きをしながら、ホウキで蜘蛛の巣をとっていた。
・突如として事件発生
作業開始から6時間。そろそろみんな疲れてきた……と、その時!! 突然、誰かが「ビィッ」と屁をこいたのである。しかし仲間たちはノーリアクション。な、なにっ!? なぜツッコまない? 疲れているから? それともカンボジアで屁はOKなのか?
──と、それから2分ほどすると、突如、またも誰かが「ビーッ」と屁をこいた。しかし、やはりみんなノーリアクションで真面目にペンキを塗り続けている……と思ったら、今度は私の隣の野郎が「バボンッ」と豪快に1発。その後はもう、屁祭り状態。
「ビー」「プィ」「ビンッ」「チシッ」「プゥ」「ブブッ、ブーーー……」と、それぞれが思い思いの屁を奏でている。心なしかカンボジアっぽいサウンドだ。なぜこうも一斉に屁がこけるのか謎であるが、私以外の仲間たちは、おそらく全員屁をこいた。
……が、やはりみんな無反応。「他人の屁にかまう時間はない」といった感じである。と、ここで私は「ははー、そういうことか!」と理解した。カンボジアでは屁をこいていいんだ! そういう文化なんだ!! 屁はOKな国、それがカンボジアなのだ、と。
よーし、じゃあ俺も気にせず屁をこくぞ……と考えている真っ最中、ふいに「ぷぃっ」っと可愛らしいオナラが出てしまった。でも、ここはカンボジア。いくら屁をこいてもアーパニャー(問題なし)だぜ……と思っていたら次の瞬間!!
・カンボジア人の声
「オーイッ!(笑)」
「GOが屁をこいたぞー!(笑)」
「日本人が屁をこいたぞー!(笑)」
「おーい、今のが日本人の屁だ!(笑)」
「あのGOが屁をこいた!(笑)」
「GOが屁をこいたーっ!!(笑)」
「やっぱりGOはオレタチの仲間だー!(笑)」
──と、みな、なぜか私の屁に対しては速攻でリアクションをとったのである。しかもメッチャ盛り上がってる。なんというか「ホームランを打ったあとのベンチの迎え」のような温かい雰囲気であり、いきなり肩を組み始めたチームメイトもいたほどだ。
私の「ぷぃっ」だけでこんなにも喜んでくれるなんて屁こき冥利に尽きるといった感じであるが、どうも納得いかない。なんで俺だけなんだ!!
ということで、「おまえらだって屁こいたじゃねえか! カンボジアでは屁をこいてもOKなんじゃないのか!?」と聞いてみたところ、彼らはマジメな顔して、つたない英語で、次のように答えたのだ。
「お前が屁をこくのをオレタチは待っていたんだよ……」と。
そう、彼らの屁は、私の屁を導き出すための「誘いっ屁(さそいっぺ)」。もともと仲間なんだけど、疲れて屁なんて出ないけど、より友情を深めるため、人種の壁を超えるため、日柬友好のために……力を振り絞っての「誘いっ屁」だったのである。たぶん。
なお、「カンボジアでは屁をこいてもOKなのか?」に対しては何も答えてくれなかったので、たぶんOKなのだろう。次にカンボジアに行くときは「ヘークショ(ぷぃっ)アーパニャー!」くらいの屁ギャグは百発百中で出せるようにしておきたい。
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
▼明け方まで塗りまくった
▼ホコリがスゴすぎてうまく撮れない!
▼白い部分は私が塗った
▼いえーい! 顔合わせの宴も無事に終了〜!
▼酒の入ったバケツをペンキに見立ててハイポーズ