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皆さんはダムを見たことがあるだろうか? 誰もが遠足や社会見学で、一度は目にしたことがあるはずである。日本でダムとは、治水・利水を目的に造られた人工の建造物であり、基礎地盤から高さ15メートル以上のものを指す(15メートル以下は堰(せき))。

・ダムとダムカードの魅力

さて、今そのダムに注目が集まっている。元より巨大建造物を好む人が多かったようなのだが、最近はダムマニアが増えつつあるようだ。実は立役者としてマニアの心をくすぐっているのが、「ダムカード」だ。今回はダムとダムカードの魅力に迫ってみたいと思う。

・ダムの歴史は7世紀にさかのぼる

日本におけるダムの歴史は古く、最古とされるダムは大阪の狭山池ダムと言われている。616年に完成したダム式ため池で、「古事記」や「日本書記」にもその名前が登場するのだとか。コンクリート式のダムは1900年に、布引五本松ダムで初めて採用された。以来、現在にいたるまで100年以上もダムの歴史は続いている。

・293種類のダムカードを配布

では、ダムカードとは一体何なのだろうか? ダムに詳しいことで知られる、ロックバンド「人間椅子」のドラマー、ナカジマノブ氏によると「カード型パンフレットですよ」と説明する。パンフレットであることの証に、このカードを見るとダムの情報が一目瞭然だ。ちなみにダムカードは2013年7月の段階で293種類存在する(国交省が発行しているもの。非公式のダムカードもある)。その数は既設ダム約2600のうちの約10分の1にあたる。

・ダムカードに記されたアルファベットの意味

ダムカードの表面には、壮観なダムの写真が写っており、右上と右下にはアルファベットが記されている。このアルファベットにもちゃんと意味があり、ダムの種類と利用目的が一目でわかる。以下はそのアルファベットの意味である。

右上:ダムの利用目的
「F」 洪水調整
「W」 上水道
「I」 工業用水
「A」 農業用水、かんがい
「P」 発電
「R」 レクリエーション

右下:ダムの種類
「G」 重力式コンクリートダム コンクリートの質量を利用して、ダムそのものの重さで水圧に耐える型式
「A」 アーチ式コンクリートダム アーチ型の止水壁で水圧をアーチ両側面の岩盤で支える型式
「GA」 重力式アーチダム 重力式とアーチ式の特性を兼ね備えた型式
「E」 アースダム 台形状に盛り土をする形式で形作られるダム
「R」 ロックフィルダム 岩石や土砂を積み上げて建設されるダム

たとえば、兵庫県の石井ダムの場合は、右上に「FR」と記されているので、利用目的は「洪水調整とレクリエーション」になる。右下には「G」とあるので、「重力式コンクリートダム」ということになる。カード裏面には「総貯水量」や「堤高・堤頂長」、「着工年・完成年」があり、これ1枚でダムのすべてがわかるといっても過言ではないだろう。

・何でも収集家のナカジマノブ氏

ここまでがダムカードに関する予備知識だと思って頂きたい。このカードのどこに、マニアを引きつける魅力があるのだろうか? ナカジマ氏のダムカードとの出会いを参考に、その魅力について考えてみたいと思う。元々収集癖が強くあったナカジマ氏は、ダムカードの収集を始める以前から、いろいろなものを集めていた。小石の収集から始まり、牛乳瓶のフタに行き、トイレットペーパーの包装紙やミニパチンコ台、アンティークウォッチから日野日出志氏の絶版漫画にいたるまで、多岐にわたるジャンルの収集家だ。これらの収集は現在でも継続しているという(小石は終了している)。

・二日二晩寝ないで読んだ「ダムカード大全集」

そんなある日のこと、とある人に出会い一冊の書籍を勧められた。それが「ダムカード大全集」である。この本には、ダムカードと日本のダムのすべてが詰まっているといって良いだろう。一目見たときから本にはまり込んでしまい、本を手にした後の二日二晩寝ないでこの本を読んだそうだ。ダムカードを通して見えてくる、ダムの風景を想像しながら、「このダムに行った後には、こっちのダムを回って、さらにもうひとつ別のダムへ」といった具合に、妄想の旅を楽しんだそうだ。

・ダムカードを手に入れるための鉄則

どこにマニアを刺激する要素があるのか? と思われるかもしれないが、ダムカードには手に入れるための鉄則がある。それは以下のふたつだ。

「ダムに行かないともらえない」
「1人1枚しかもらえない」

かわりにもらってきてもらうということが、基本的にできないのである。したがって、ダムカードに一度ハマると、ダム巡りの旅に出かけなくてはならないのだ。しかも、雪深い山奥のダムになると、冬季は山に入ることさえも困難になる。また、管理事務所は夕方4時半や5時には閉まっている場合があるため、運が悪ければもらえないことも想定される。もし293枚をコンプリートしようと思ったら、全国を駆け巡る時間と手間も必要になるのだ。この鉄則が、マニアの心を刺激し「集めてやる!」という欲求を駆り立てているようである。

・特殊ルールを設けているダムカード

それだけじゃない。先に非公式カード(国交省が配布していないもの。ダム独自のもの)には、手に入れるために特殊なルールが設けられている場合がある。

ナカジマ氏「栃木県の道の駅「湯西川」には、ダムカレー(ダムの形状をしたカレー)を食べないともらえないカードがあるんですよね。それからダムクイズに全問正解しないともらえないカードもあるんですよ。さらに、「秩父4ダムロマン」という企画をやっていて、二瀬ダム・合角ダム・浦山ダム・滝沢ダムの4つのダムカードを手に入れないともらえないカードも存在するんですよ」

なんと! 行くだけではもらえないカードまで存在するではないか。これは、ゲームでいうところの「ハマり要素」というヤツではないだろうか。マニアがダムカード収集に加速していくのも頷ける。

・素晴らしいダムベスト3

ちなみに、現在まで40枚以上のカードを集めているナカジマ氏に、ベスト3のダムを選定してもらった。

1位 石井ダム(兵庫県)
2位 小河内ダム(東京都)
3位 狭山池ダム(大阪府)

ナカジマ氏「3位の狭山池ダムは、日本最古にして大阪の街のなかにあるダムなんです。地域に密着しているところが良いと思います。2位の小河内ダムは東京都で唯一ダムカードを配布しているんです。東京で生まれ育った身としては、本当の意味でお世話になっているので、2位ですね。それから1位はの石井ダムは、レクリエーションダムとして完ぺきです。景観に配慮されたダムで、ダムの天端からダム湖と神戸市街や瀬戸内海が見えるんです。堤体には多目的ホールがあるのもこのダムの魅力ですね」

・ダムはブルース

なるほど、ダムと一口に言っても、ダムが建設された立地や目的によって、ダムそのものの魅力が異なっているようだ。そんなダムそのものについて、ナカジマ氏は「ダムはブルース」と表現している。「ダムが生まれるまでには、途方もない時間と人の力が費やされていると思います。その背景には、建設反対運動なんかもあったでしょうし、水のなかに沈んでしまった街とかもあったでしょう。それらを全部引き受けて、たった1人で水を堰き止めているダムはまさしくブルース。孤軍奮闘ですよ」と、プロのバンドマンらしい言葉で締めくくってくれた。

今、静かに注目を集めるダムとダムカードの魅力、感じて頂けただろうか。もしもこれからダムマニアデビューをはたしたいと考えている方は、その目でダムを見て、ダムのブルースを感じ取って頂きたいものである。

・人間椅子「レコ発ツアー ~萬燈籠~」
9/26 名古屋 Electric Lady Land
9/29 渋谷 Shibuya O-WEST 「おどろの日」(SOLDOUT)
9/30 渋谷 Shibuya O-WEST 「どろろの日」(SOLDOUT)

Report:ほぼ津田さん(佐藤)
取材協力:徳間ジャパン人間椅子


▼ナカジマ氏のダム研究用の書籍など。「ダムカード大全集」との出会いによりどっぷりダムの魅力にハマる
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▼これがダムカード。左上にダム名、右上にダムの利用目的(FRは洪水調整とレクリエーション)、左下がダムカードのバージョン、右下がダムの種類(Gは重力式コンクリートダム)
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▼カード裏面には、ダムデータ。「ランダム情報」と「こだわり技術」がアツい
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▼「秩父4ダムロマン」、この4つのカードを集めないともらえないカードがある
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▼4つ集めると、「二瀬ダム手作りカード」が手に入る
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▼これがダムカレーを食べないともらえないカード。ただ行くだけじゃもらえない
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▼川俣ダムのカード。ナカジマ氏は訪問したときに、バージョン1(左)とバージョン2(右)のカードをもらえたそうだ
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▼仙台の場合は、非公式(国交省配布ではないもの)で手作りのカードを配布している
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▼ちなみにナカジマ氏はダムのパンフレットも、大切に保管している
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