すっかり陽気な気候になり、汗ばむことも増えてきた。人間だもの、ニオイはある程度仕方がないけれど、それでもニオイのケアには細心の注意を払っている方がほとんどではないだろうか?

私、P.K.サンジュンは、夏を迎えようとするこの時期になるといつも思い出す……とんでもなく臭かった足のニオイを。それを3時間嗅ぎ続けたことを。控えめに言ってあれは地獄であった──。

・地獄体験

現在47歳のおっさんである私は、きっとそれなりに臭いのだろう。「自分だけは大丈夫」などとはちっとも思っていないが、自分の体臭にはなかなか気付けないのが人間という生き物である。

だがしかし、あの日、あの時、あの場所で、あの足のニオイの震源地だった彼は「どう考えても自分の足のニオイがヤバい」と気付いていたハズ。そう思うと可哀想な気もするが、当時は少し彼を恨んだりもした。

・12年前

あれは今から12年前の夏の終わり──。当時、夏フェスにハマっていた私は山梨県の山中湖で開催された「スウィートラブシャワー2013」の会場にいた。

鼻をくすぐる緑の香り。湖から流れてくるマイナスイオン。そして最高の音楽。1泊2日という短い時間であったが、私は大好きな音楽を心行くまで堪能した。

一方で、疲れ切っていた私の体。それはきっと、あの会場にいたほぼ全員がそうだったのだろう。力の限り叫び、飛び跳ね、そして踊り狂う至高の時間。「スウィートラブシャワー2013」は最高のまま幕を閉じた。


……のだが。


いま思えば、フェスの終盤に降り始めた大雨から全ては始まっていたのかもしれない。会場にいるほとんどの人たちがずぶ濡れ、泥まみれになる中、私も家路に着くためバス停へと急いだ。



バス停に到着した私は、濡れた体をある程度拭いてからバスに乗り込んだ。予約制だった東京行きのバスには続々と人が乗り込んできたが、通路を挟んだ隣の席に若い男性が着席した瞬間、体が異変を察知した。


くさッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!


それは酸っぱいだの、ツーンとするだの言ってられない「粘り気のあるぶっとい臭さ」とでも言おうか? 呼吸さえも慎重にならざるを得ない、メガトン級の足のニオイだったのである。

・地獄の高速バス、発車

周囲の乗客たちは、すぐさまタオルなどで鼻と口をふさいでいた。当然、私もそうした。……が、絶好のポジションにいた私の鼻には、タオルのフィルターさえも難なく突破し、常に足のニオイが届いていたのだ。

メガトン級の足のニオイを乗せて走り出した地獄の高速バス。正直に申し上げて、泣きそうにもなったし、苛立ちもした。何度本人に「くさいんだよ!」と言いそうになったかわからない。

それでも私は何とか理性を保っていたのだろう。こういう時に限って道が混んでいるのはお察しの通りで、結局山中湖から東京に着くまでのおよそ3時間、私は足クサ爆弾と隣り合わせであった。



・ある意味で奇跡

ただし、今でも彼に悪気があったとは少しも思っていない。汗・雑菌・雨・生乾き・ケア用品の準備不足……等々、それら全てが最高水準で化学反応を起こした結果、あのモンスターが誕生してしまったのだろう。というか、狙って作り出せるニオイではない。

この経験から私が言えることはただ1つ、フェスに行く際は「ビニール袋とビーサンを持っていった方がいい」ということ。除菌シートがあれば尚いい。人のためではなく、自分が惨めにならないための保険である。

一瞬のニオイであればあれ以上の瞬間最大風速もあったかもしれないが「長時間嗅ぎ続けた」となると後にも先にもあれ以上は無い。逆説的であるが、私が「人生で1番美味しかった空気」は、あのバスを降りた瞬間の空気だ。

汗ばみ始める季節になると私は今でも思い出す。薄暗いバスの風景と、あの粘り気のあるぶっとい足のニオイを。メガトン級の足のニオイを乗せたあのバスは、紛れもなく地獄の高速バスであった。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.