日本じゃほぼ報道されてないけど、今世界中でかなり話題になっているニュースがある。ニューヨークはマンハッタンの路上で大手保険会社ユナイテッドヘルスケアのCEOが射殺される事件が発生したのだ。保険会社の社長が射殺って結構な大事件である。しかも天下の往来で。
さらには、BBCニュースによると、事件現場から押収された薬莢(やっきょう)には、保険会社を揶揄していると思しきメッセージが書かれていたそうな。
・ネットの声
そのメッセージとは「deny(拒否)」、「defend(防御)」、「depose(追放)」。これは損害保険業界をディスった書籍『Delay, Deny, Defend(遅延、拒否、防御)』をもじったものと捜査当局は見ているらしい。まあ、詳細はBBCニュースを読んでいただければと思う。
本事件は、前述の通り、海外で大きな話題となっているわけだが、ただ事件の概要に衝撃を受けるというわけではなく、犯行に共鳴する声が結構上がっているようだ。そのネットの声は、州知事が言及するほどになっているのだという。
CEOの射殺で共鳴の声が多くあがるって、ユナイテッドヘルスケアって一体どんな会社なの?
・アメリカ人に聞いた印象
確かに、アメリカの保険制度はヤバイみたいなことはふんわり噂で聞いたことがあるけど、その数あるアメリカ保険会社の中でも特別象徴的だったり悪質だったりするんだろうか。
気になったので、ユナイテッドヘルスケアのイメージをアメリカ人に聞いてみることにした。まずは、日本在住のアメリカ人であるA氏。ユナイテッドヘルスケアって保険会社として象徴的な感じなんですか?
A氏「俺は日本に住んでるからアメリカの保険会社にそこまで精通しているわけではないが、規模で言うと、United HealthcareはUnited Health Groupの一部、United Health Groupは1974年創業で世界のもっとも大きい(収益として)健康保険会社らしい。
しかし、そういってもたとえば、日本における第一生命保険のように「国民だれでも知っている!」とは言えないかな。おそらく同グループのOptum社の方は知名度が高くて、一般アメリカ人が「保険会社といえば?」と聞かれたらMetlifeやAflacと返事する人が多いかも。
もちろん名前を聞けば「United Healthcareはたぶん保険会社だな」と答えるけど、大きな会社かどうかとか、他の保険会社と比べたら信頼度が高いか低いとかのイメージが固まっていない印象だな」
・アメリカの保険制度
ここらへんの印象は保険に詳しいかどうかでも変わってくるだろうが、少なくとも誰でも知ってる級の保険会社ではないようだ。
A氏「アメリカでは日本のような国民健康保険がなくて、基本的に他の国より料金が高い。こうしていい健康保険プランの料金を払える人、または会社や勤め先が健康保険を準備してくれる人もいれば、そうじゃない人もいる。
この頃、アメリカで金持ちの人と貧乏な人の生活水準ギャップが広がっていて、いい健康保険を手に入れられない人が全体的に保険業(利益のために営業している保険会社)をあまりよく思わない。
ただ、保険会社で救われていて特に恨みをもっていない人もいる。そんな中で、ユナイテッドヘルスケアは他の保険会社と比べたら、イメージは特に悪くも良くもない」
・アメリカ在住のアメリカ人B氏
ふむふむ、知名度もあるだろうが、アメリカの保険制度の状況は大体噂に聞いていた通りのようだ。社会格差で医療が受けられないと。続いて、アメリカ在住のアメリカ人B氏にも聞いてみたところ……
B氏「あくまで以下は個人的な意見だが、そもそも、この会社に対してというよりは、アメリカの保険会社に対して不満がない人はいないと思う。少なくとも私の周りには。
その理由①:拒否されるから
例えば、医者が患者に「MRIをとったほうがいい」とアドバイス。しかし、保険会社は「その必要はない」と反論。そして医者側が保険会社に掛け合ってくれるのだが、NGな時もあればOKの場合もある。当たり前だが、NGの場合はMRI代は自分で支払うことになるか、それ自体をあきらめることになる。
その理由②:保険代が高いから
保険料も高く、インフレで上がっている。さらに治療費そのものが高い。
まとめると、保険代が高いのにも関わらず保険会社が拒否をすることがあるため、不満が溜まっているのだと思う。
また、日本では病院で治療をしてその場で支払うのが一般的。一方米国では、その場(病院)で払わず、のちに請求書が届く。例えば、「500ドルは保険でカバーされませんでした。そのため500ドルを払ってください」と。
つまり保険会社に一部の治療費を拒否されることもある。そのため、多くの人は請求書を受け取った後に保険会社に連絡をして患者自らが保険会社と交渉を行うことも。もちろん人によっては交渉をせず、受け取った請求額を全額払う人もいる。
何か1つに不満があるというよりは、医療全体に対して不満が蓄積されているのだと思う。
ちなみに、医者によっては「コストコで薬を買ったほうが安いですしお得だと思います」と親切にもアドバイスしてくれる人もいる。日本だとドラッグストアで薬を買うより医者で薬をもらったほうが安い場合もあるがアメリカでは逆だったりする」
──とのこと。ユナイテッドヘルスケアがどうこうと言うより、保険全体に対するヘイトという見方は一致。そのヘイト感情について、より具体的な例をあげてくれたところはさすが現在進行形でアメリカ在住なだけある。
・資本主義に歪められる大義名分
話を聞いていて思い出したのだが、私(中澤)も新型コロナになった際、まるで諦めろと言わんばかりの保険の申請の面倒さにマジでムカついた。「病んでる時にスッと使えなくて何が安心じゃい!」と。
そう考えると、レベルは全然違うけど、日本も明日は我が身だ。すでに保険会社にその兆候が見えるから、行くとこまで行ったアメリカの状況が垣間見える今回の事件が、よりセンセーショナルにアメリカやヨーロッパで響いているのかもしれない。