ウチの母(鳥取在住)が突然「ヒマなので東京へ遊びに行く」と言い出した。母は以前ヴィジュアル系バンドのライブへ参戦した模様を娘(私)に記事化され、当編集部内で知られた存在である。これはそろそろ挨拶に行かせるべきタイミングなのかもしれない。
そう本人に伝えたところ、「ぜひ行ってみたい」との回答であった。そんな流れで上京した母を当サイト事務所へ連れて行った結果……普通に後悔したことを先にお伝えしておく。
・娘の仕事をよく分かってない母
新宿2丁目にあるロケットニュース24事務所(が入っているビル)へやってきた母。今年71歳になる彼女はインターネットが不得意なため、娘が具体的にどういう仕事をしているのか、理解することを放棄しているフシがある。昨今はそういう親御さんも増えてきているのではなかろうか。
「こんな感じなのね……」と母。ここはまだ事務所ではない。
若干アンニュイな雰囲気を纏(まと)い始めた母。緊張しているのだろうか?
手始めに撮影用の部屋を見学する母。「ここで暮らせそうだわね」と言うので、風呂が無い旨を説明しておいた。
ついに禁断の編集部内へ足を踏み入れんとする母。今さら気づいたけど、ふつう挨拶って何をするものなんだっけ……?
ドアノブ「ガチャリ…………」
みんな「お母さん、初めまして〜!」
・唐突な山陰トークショー
「娘がお世話になっております」と頭を下げる母。テンションの高い記事を書きすぎた後遺症から、普段は読者が想像している100倍くらいテンションの低い集団である当編集部。しかし意外とアットホームな感じになってホッとした。
一瞬の静寂のあと、口火を切ってくれたのはサンジュン記者。
サンジュン「お母さん、ピザ食べます?」
母「いえ、結構です」
サンジュン「お母さん、タバコ吸います?」
母「いえ、結構です」
この珍妙な髪型の男性に対して、母がかなり好印象を抱いたらしいことは後に明らかとなった。令和の高齢者は人を見た目で判断したりしないのかもしれない。
次に歩み寄ってくれたのは佐藤記者。母の出身地は鳥取県の境港市というところなのだが、実は境港は “ほぼ島根” と呼んで差し支えないほど島根に近い土地。つまり島根県出身の佐藤記者と母は “ほぼ親戚みたいなもん” なのである。そりゃ笑顔で歩み寄ってもくれるだろう。
佐藤「お母さん、あまり訛りがないですね」
母「そうですねぇ……中部に嫁いで50年近くになりますので、なんだか妙な言葉になってしまいました。佐藤さんご出身は、松江?」
佐藤「松江です。元々は東出雲町だったんですけどね」
母「あぁ、東出雲ですか。あそこは出雲かと思いきや、松江よりも米子(鳥取西部の都市)寄りなんですよね」
佐藤「そうそう。僕が住んでいた頃はまだ郡だったんですが、合併で松江になりました。
そこから引っ越して……田和山とか分かります?」
母「あのへんは松江のベッドタウン的位置付けですよね」
佐藤「そうですね。そこから親父の仕事が変わった影響で、今はまた市内の別のところに実家が移ったんですけどね」
母「へぇ、松江の中でもかなりいいエリアですね。風光明媚でね」
佐藤「一応はそうですね。ただ最近はね、大雨が多くて」
母「ああ、よくニュースに出ますよね。北風がすごくって、宍道湖の水が溢れたとか、溢れないとか……」
佐藤「そう。それもだし、あそこら辺は排水が古いから今直してるんですけど、駅前とか結構浸水するんですよね。水が流れなくて。なので、多分あの周辺は、これから変わってくると思いますよ」
母「ハハ〜ン……そうですか。松江もねぇ、色々難しいですよね」
佐藤「難しいですね。いや、鳥取もそうだと思いますけどね(笑)」
母「ウフフフ……」
佐藤「まぁでも鳥取は、石破さんが総理になられたからね。頑張っていただきたいですよね」(※ 石破総理は鳥取のご出身です)
母「そうですねぇ、いい人なんですけどね。ただ、人を束ねられるタイプかと言ったら、どうなんでしょうねぇ……」
佐藤「そうですよね〜」
母「政治は1人でできることじゃないからね」
佐藤「参謀的に、客観的にサポートするのが得意な方ですからね」
母「そうそうそうそうそうそう」
佐藤「自分がトップになった時にどうなのかっていうと……まぁ今後に期待ですけどね」
母「そうねぇ、頑張ってほしいんですけどねぇ」
2人「ウフフフフ……」
・母、娘の評価を聞く
「ワイらは何を聞かされとるんや……?」という空気感が編集部全体に充満してはいたものの、思わぬところで超ローカルトークができて母は嬉しかったに違いない。これは「娘の職場見学」ではなく「親孝行」だ。そう考えると少し気がラクになる。
想像より滞在時間が長くなったので、編集長の羽鳥さんと上司のYoshioさんに挨拶させて母を帰らせよう。
羽鳥「娘さん、よく頑張ってくれてます。僕が特に評価しているのは、記憶力がいいところですね。取材からずいぶん時間が経っても、内容を覚えているのは凄いと思いますよ」
母「そうなんです! この子と主人は昔から記憶力がよくて。逆に私と下の娘は何も覚えていないんですけどね(笑)。この子は人に話して聞かせるのも上手で、それも記憶力がいいからなんですかね? 私なんかは話も下手でねぇ……」
私「お母さん、もういいから」
Yoshio「わざわざお越しいただいてありがとうございます。娘さんには普段からよくサポートしていただいて助かっているんですが、なかなか言う機会もなくて。こうしてお母さんを通じて感謝を伝えられてよかったですよ。今日は飛行機で来られたんですか?」
母「まあ、ありがとうございます。私は飛行機があまり好きではなくて、行けるところにはなるべく電車で行くようにしているんです」
Yoshio「じゃ、新幹線で?」
母「はい。私は『ジパング倶楽部』の会員なんですね。あれは65歳以上だと3割引で新幹線に乗れるんです。ただし『のぞみ』はダメ。でもね、『ひかり』もいいものですよ。そりゃ時間はかかりますけどね。のんびり車窓を眺めながら電車に乗るのが私は好きで……」
私「お母さん、もういいから」
・母、とんでもない感想を述べる
その後も母は急に孫の話を始めるなど若干暴走ぎみではあったが、とりたてて大きな失言もなく、娘の職場見学もとい親孝行は無事に終了。
娘としては「非常に疲れた」という思いがありつつも、母が来たおかげで上司に褒められたワケなので、結果的に連れてきてよかったと思った。編集部の皆さん、母の相手をしてくれて本当にありがとうございました。それじゃ、母を駅まで送ってきま〜す!
ドアノブ「ガチャリ…………」
母「こんなアパートの小さいドア開けたら事務所があって、あんなに大勢の人がギュウギュウで仕事してるなんて……お母さんビックリしちゃったわよ〜!」
事務所を出た瞬間、気絶しそうなほど失礼なことを言い放った母。大急ぎでお断りしておくと、ウチの事務所は決してアパートではない。レッキとした雑居ビルである。アパート発言は鳥取の広大な自然の中で育った母なりの “言葉のあや” だ。
勤めに出た経験がない母は、テレビドラマなどでよくある “大企業のオフィス” みたいなのを想像していたらしい。母に全くの悪気はないものの、この発言が事務所内で飛び出していたら娘(私)はそれなりの窮地に立たされていただろう。あぶないとこやで……!
そういうワケなので、今後母親を職場に連れて行く予定の方はなるべく早めに切り上げることを強く推奨したい。「全員マトモないい人たちで、上下関係がなさそうな職場」と、娘の就労環境に安心した様子で母は鳥取へ帰って行った。いい親孝行にはなったが、『第2弾・父編』の実施予定はない。
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼娘のデスクに座ってみる母