もはや地方にいても世界にコミットできる時代。意外な場所に知る人ぞ知る有名人が潜んでいるものだ。そう感じたのは、北海道旭川の『ROOTS』という雑貨屋を訪れた時のこと。

オレンジ色の外観が可愛いこの店。ぼーっと歩いていると見逃してしまいそうなお店なのだが、実はここの店主さんが割と世界的な人だったのだ。

・濃い

ドアを開けて中に入ると、こじんまりした店内には、けん玉を中心にプロレス、映画のアパレル、トミカなどがギッシリ並んでいる。いわゆる、ホビー系の雑貨屋なのだが、大分店主の趣味嗜好が濃い。


その店内の雰囲気からは、商売よりも意思表示が感じられる。店全体で「自分はこれが好きなんです」と叫んでいるかのようだ。

・話しかけてみた

匂い立つ主張。店主が怖いかもしれない。だが、そんな独特の店のオーラを察する前に、入ったら対面に店主が座っていた。逃げる暇もなく目の前にいるんですけど。詰んだ。そこで話しかけてみたぞ。


前田日明(まえだあきら)好きなんですか?

店主さん「そうですね! 僕は昭和プロレスから90年代のファンですね。あの頃のプロレスはやっぱり流れが面白い。エースではなかった前田日明さんが、猪木が起ち上げた新日からUWFに行って、リングスを旗揚げして、PRIDE(プライド)に繋がり、格闘技ムーブメントの中心人物になっていく。この対立構造と流れがプロレスって感じしますね」

──1投げかけたら10くらい返ってきた。どうやら、話好きな様子。良かった。「ゴチャゴチャ言わんと、誰が一番強いか決めたらええんや」と殴りかかって来る人じゃなくて。

そんな店主さんの名前は赤松John昌輝さん。なんか芸名っぽい名前だと思ったら……

紅白歌合戦にも出演したことがあるらしい。


言われてみたら、紅白歌合戦でけん玉のギネス挑戦してた……! どうやら、Johnさんはけん玉を売るだけではなく、けん玉を広める活動もしており、中には行政ぐるみのイベントも多いという。

・けん玉の最先端

さらによく見ると、店内のドアにサインが書かれていた。これは「European Kendama Championship」で1位のNobuyoshi Noriokaさんや、Freestyle2位を受賞している藤田奏真さん、有名けん玉パフォーマーの千葉靖仁さん、ず〜まだんけ、吉津健太郎さんのものらしい。

スウェーデンやドイツ、カナダからけん玉プレイヤーが訪れたこともあるとのこと。世界に知られる人がこんなところにいるとは。

店内には外国製のけん玉も並んでいて、それらはデザインが確かに海外っぽい。オシャレというか、色合いとかが可愛いのである。それにしても、海外にもけん玉ってあったんだなあ。てっきり日本だけかと。

赤松John昌輝さん「今、けん玉がエクストリームスポーツとして海外でブームになってるんですね」


──けん玉がエクストリームスポーツに?


赤松John昌輝さん「そうです。日本の従来のけん玉は、1つの技ができるかどうかの遊びだったんですが、今海外でのけん玉の主流は、点じゃなく線。技を繋ぎ合わせることによって、その流れの美しさまで魅せる競技になってるんです」


──ダンスみたいですね。


赤松John昌輝さん「まさに、けんと玉がブレイクダンスしてるみたいな感じです」


──それって元は日本のけん玉なんですよね?


赤松John昌輝さん「元は日本のけん玉です。外国人が日本のけん玉の機能に注目した結果、海外の発想と組み合わさって『Kendama』進化した形ですね。それによって、けん玉自体のデザインも変わってきていて、例えば、玉の穴や玉を乗せる皿は従来のものより大きかったりします」

──日本の文化が輸出されて新しいものが生み出されていると。全然知りませんでした。今、けん玉に注目してないと知らない世界ですね。

しかし、個人的には大人になってからけん玉に注目するタイミングがなかったんですけど、Johnさんがけん玉に注目するキッカケって何だったんですか?


赤松John昌輝さん「元はアパレル関係の職についてまして、何か面白い新しいことをずっとやりたかったんですね。それで漠然と模索してたんですけど、ある時、従来のけん玉遊びをしていて、けん玉って経験のあるなしはさて置きみんな知ってるなあと思いまして。

何かで、地域を盛り上げたいという思いもあったので、そこから広げていけないかと考えたのがキッカケですね」

──とのこと。それにしても、海外に輸出されたけん玉文化が新しい風になって帰ってきているというのは興味深い。文化の逆輸入だ。知らない領域で世界が回っている。

・不思議な店

話してみるとフランクに知らない世界のことを色々教えてくれたJohnさん。ついつい目に見える範囲のことで物事を完結しがちな自分としては、未知の世界を感じることができた。

その視界が広がる感覚ゆえか、店内にいる間は旭川にいる気がしなかったのだが、外に出ると店は旭川の日常に溶け込んでいる。ドアを境に世界が切り替わるような不思議なお店だ。というわけで、けん玉好きはもちろん、ちょっとした異世界感を味わってみたい人にもオススメかもしれません。

・今回紹介した店舗の情報

店名 ROOTS
住所 北海道旭川市3条通8丁目1705番54-27
営業時間 11:00~19:00
定休日 不定休

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼European Kendama Championship2023の様子。eスポーツやブレイキン、サイファーみたいな熱狂を感じる。

▼けんと玉がブレイクダンスしてるみたいだ