突然だが、筆者はこれまでの人生で「雪国」に住んだことが一度もない。瀬戸内海沿いや太平洋沿いの地域ばかりに住んでいたため、雪が1〜2cm積もっただけで非日常である。

そんな冬のある日、長野県に住む友人の家を訪問したところニュースで大騒ぎになるような大雪の日にぶち当たってしまった。

この記事は、雪をほぼ知らない人間が豪雪地域の生活を1日体験した素直な感想である。

・駐車場に水が噴き出す

その日は中央自動車道を使って車で北上、長野県飯山市を目指していた。

天気予報によると午後から雪が降り始め、大雪の警報も出ているということ。

筆者の車はスタッドレス&4WDの車ではあるものの、慣れない道と積雪を警戒して 前日の夜から移動を開始。午前中には長野県入りを果たしていた。


初めて違和感を感じたのは、一般道に降りてコンビニで休憩をとった正午ごろのこと。

トイレと買い物をのんびり済ませて店を出ると、先ほどまでなにもなかった駐車場が水浸しになっているではないか。

「雪が降り始めたにしては濡れるのが早いな……って、うわっ! ホースから水が噴き出している!!

雪国の人にはお馴染み、融雪用の散水である。

筆者も旅行中に路上で見たことはあるのだが、駐車場で、しかもこんなにビシャビシャになるまでまいているのは初めて見た。……が、街ゆく人々は気にするそぶりがないので この地域では当たり前なのだろう。


散水が始まったということは、もちろん雪が降り始めたということだ。

さすが警報が出ているだけあって雪の一粒ずつが大きいし勢いも半端ない。


路面が雪で覆われるまでにそれほどの時間はかからなかった。

それにしても、スタッドレスタイヤってすごいんだな。急ブレーキや急ハンドルをしない限りはほぼスリップしないし、思っていたよりも全然普通に走れちゃう。

その後1時間ほどで無事友人の家に到着し、疲労から夜までコタツで眠ってしまったのであった。


・起きたら豪雪地帯

目が覚めたのは午後7時ごろ。友人たちと温泉に行く約束をしていたため外に出たところ……

えぇ~っ!? 何事ぉ~~~っ!?!?!?


少し見ぬ間に雪は膝ぐらいまで積もり、家の前の道路が埋まっている。

うっかりスニーカーで来てしまったため長靴を借りたのだが、それでも裾から雪が滑り込んでくるほどに大・豪雪である。


あろうことか 車にメガネを忘れていたことに気が付いて取りに行こうとしたのだが、

写真の白い軽トラックの後ろに停めてある愛車、たったの10mほどしか距離がないはずなのに 通り道が埋まってしまっている。近いのに遠い。すぐ目の前にあるのにたどり着けない!


プラスチックスコップを借りて掘り進めながらなんとかメガネを取り戻し、それでは温泉に行こうか! となったところで友人が取り出したのは、

じ、自家用除雪機ぃぃぃ~~~っ!?!?!?


除雪機を所有する一般家庭なんてあるのか? と目を疑ったのだが、友人曰く「この辺りではまったく珍しくない」とのこと。向かいの家に住んでいるおばあちゃんすらも除雪機を巧みに操るのだそうで、生活必需品といっても過言ではない模様。

道路はみるみるうちに除雪され、あるべき道が姿を取り戻した。

除雪機、強すぎる。それに対して人間……いや、己(おのれ)の弱さよ。スコップで路肩の雪を避けるだけで精一杯、気を抜くと腰を痛める気配すらある。

っていうかそもそも、普段ならちょっと寒かったり暑かったりするだけで家から出なくなっているし……マジで自分、甘えてるんじゃねぇよ!


こういう “豪雪の中でもケロッと暮らせるような生命力” が今の自分には必要なのかもしれない。思わず人生について考えるほど衝撃的な体験だった。


──そうそう。衝撃的といえば、家の周りをぐるっと囲むように作られた池の用途にも驚かされた。

山からの湧き水を常時ひいているというこの池。

夏に訪れた時は草木に囲まれ 大きな鯉がのんびりと泳ぐ様子が雅だったのだが……冬になると屋根に積もった雪が滑り落ち、池の中にドサドサと吸い込まれて溶けていくのだ。


これは豪雪地帯で昔から使われている融雪池「たね」というシステムだそうで、家の中にいても20分に1回ぐらいは 震度1もないぐらいの揺れと「ドドドドド……」という地響きのような音で、雪が落ちる様子が伝わってくる。

初めて聞いた時は「地震か!? 雪崩(なだれ)か!?!?」と目をひん剥(む)いたのだが、慣れとは恐ろしく、しばらくすると「よく降りますねぇ」なんて言いながらコタツでお茶を飲む心の余裕ができていた。


・日常への帰還

夜中のうちに雪は弱まり 朝には公共の除雪が入ったこともあって、翌日の道路はアスファルトが見える程度に整えられていた。

山の上でもこの程度。スニーカーでも歩けちゃうぐらいだ。(滑るけど)


市街地におりると融雪剤が積極的に使われているようで、驚くべきことに 帰り道は雨の中を走るぐらいの気楽さで運転ができた。

だんだん雪が少なくなっていく景色にホッとしつつも、どこか寂しく感じてしまう自分がいた。あと1週間、いや1か月ぐらいなら滞在しても雪かきを楽しめるような……いや、やっぱり腰を痛めるだろうな。

雪国の人は強い。そして私は弱い。

融雪剤は車体のサビを進行させてしまうので、とりあえず帰ったらよく洗車をすることにしよう。

執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
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