世にあふれるキャラクターグッズ。名作絵本から人気になったキャラクターも多いけれど、実は作品をよく知らないものもある。絵本は子供時代に読んでないと、大人になってから読む機会がなかなかないもの。
とくに最近はディック・ブルーナが描く白いうさぎの「ミッフィー」のグッズが人気。実は私、ミッフィーの絵本をちゃんと読んだことがないんだよなあ。
そういえば大学で受けた児童文学の授業で「絵本は大人も感動するようなものでなければ、子供の心はつかめない」と言っていた。
世界中で愛される魅力に迫るべく、今さらだけど「ミッフィー」シリーズを数十冊ほど読んでみた。
・ミッフィーは英語圏での名前
日本で翻訳されていないものを含め、100作以上もある「ブルーナの絵本シリーズ」。このシリーズの中でもうさぎのミッフィーが主役の絵本は30冊以上もあるという。
記念すべき最初の1冊は「ちいさなうさこちゃん」で、日本で発売されたのは1964年。対象年齢は4歳以下なので、どの本も1冊は10ページちょっとで終わる。
ここで気づいたことがある。私はこれまでずっと「ミッフィーちゃん」と呼び続けてきたけれど、実際に絵本を読むと「うさこちゃん」と呼ばれているのである。なんなら性別すら知らなかった。この子は女の子だったのね……。
もともとオランダの作品で、オランダでは うさちゃん を意味する「Nijntje(ナインチェ)」、英語圏では「Miffy(ミッフィー)」、そして日本では「うさこちゃん」と呼ばれてるそうな。オランダ語の名前、難しいね!
・うさこちゃんが生まれるところから始まる
第1作目の「ちいさなうさこちゃん」は、うさぎのお母さんのもとに天使がやってきて、うさこちゃんが生まれるところから始まる。
「うさこちゃん」が生まれてきて、それをお父さんとお母さん、動物たちが喜んでいるというだけのシンプルなストーリーなんだけど、最近、涙もろくなっているせいもあって、泣きそうになる……。
ブルーナの描くイラストは主線の黒や白以外は、ブルーナカラーという赤、黄色、青、緑、茶色、グレーと、決まった6色だけが使われている。素朴で愛らしいイラストは今見ても古びない。絵本のお話もすごく分かりやすくてシンプル。
どの絵本も、うさこちゃんがお友達と遊んだり、家族といっしょに海や動物園にお出かけしたり……と何気ない子供の日常が描かれることが多い。たった10ページちょっと、文字もすごく少ないのに、その中に大切なことがサラッと描かれていて、それにビックリする。
・衝撃を受けたミッフィー作品+α
平凡な日常が描かれることが多いミッフィーシリーズだけど、中には「えっ、こんなことも絵本にするの!?」と驚くようなテーマもあったのでいくつか紹介したい。
・「うさこちゃんときゃらめる」
なんともほのぼのとしたタイトルであるが、中身はおそらくミッフィーシリーズいちの問題作。なんと……うさこちゃんが万引きをしてしまう話なのだ。おかあさんとスーパーへ買い物に行ったうさこちゃん。色とりどりの包み紙に入ったキャラメルを見て、ついポケットにいれてしまう……。
翌日、お母さんに万引きのことを正直に話して、キャラメルを返しに行くのだが……。悪いことをしてしまったときのモヤモヤする気持ち、おかあさんと一緒に謝りに行くときの感情の描写がすごいのだ。ぜひ読んでみてほしい。
・「うさこちゃんの だいすきなおばあちゃん」
先ほどの「万引き」に続いて、こちらは「死」がテーマ。シリーズにも何度も登場するおばあちゃんが亡くなってしまうのだ。うさこちゃんが泣いているシーンからスタートし、お葬式で家族が悲しむ場面、お墓に入る場面、そしてうさこちゃんが花を持ってお墓参りに行くところまでが描かれる。
「ひつぎは おおきな きのふたで とじられました。もう だれも おばあちゃんの すがたを みることは できません。おばあちゃんは これから ずっと しずかに やすむのです。」
死を「ずっとしずかにやすむ」と表現するなど、ひとつひとつの言葉がていねいに選ばれた傑作。
・「うさこちゃんと たれみみくん」
多様性にまつわる作品。あるとき、うさこちゃんのクラスに転校生のダーンがやってくる。ダーンは片耳が垂れていたことから「たれみみくん」と呼ばれるようになる。ダーンと仲良くなったうさこちゃんは「たれみみくん」というニックネームはついて聞いたら、本当はイヤだけど仕方ないという。翌日、うさこちゃんは勇気を出してみんなに「ダーンって呼ぼう」と提案する……という話。
周りは悪気なく言ってるけど、本人は気にしてることってあるよね。うさこちゃんが、ドキドキしながら勇気を出したこと、本人が来る前にみんなに言ったということ、大人になっても学びが多い、短い中に思いやりがあふれた一冊。同じようなテーマに、車椅子の少女が主役の「ろってちゃん」も。
・「ぼりすとこお」
こちらはくまのボリスが主役の作品。森に暮らすボリスのもとに、旅するコアラのコオがやってくる。ボリスの家で楽しいひとときをすごすふたり。いつまでも森にいたいけど、ふたたびコオは旅に出てしまう……。出会いと別れがなんだか切ない一冊。
ちなみにボリスは森でひとりで暮らしているらしく、家を建てたり自炊したりと自立していることにも衝撃を受けた。そんなにたくましいキャラだったとは。
・想像力を掻き立てる終わり方
ちなみに、絵本はどれもしっかりとした結末が描かれることは少なくて、ちょっぴり唐突に終わる。
それも「あ、ここで終わりなんだ、もうちょっと読みたいな〜」と思うような絶妙なタイミングなのだ。読んだあと、子供があれこれ続きを想像できるような余白を残しているのかもしれない。
どの話も短く、シンプルなイラストなのだが、言葉選びにしても心に刺さるものがあるブルーナの絵本。読みながら、ふと子供時代の楽しかったことを思い出し、ミッフィーが世界中で愛される理由に納得だった。
話を知ったことで街でグッズを見かけたら、ますます欲しくなってしまいそうだな〜。さて、こんどは何を読もうかしら……。
参考リンク:dickbruna.jp、福音館書店
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.