人はそれぞれ “癖(へき)” を持っている生きもの。大雑把に言えば食の好みも癖であり、趣味もある意味で癖の一部と言っていいだろう。そして人様に迷惑をかけなければ、誰がどんな癖を持っていようと自由である。

さて、今回お伝えしたいのは「絶対に2000円札しか使わない」という、世にも珍しい癖を持った男の話。私のポケモンGO友達の「のりお(仮名)」は、どんな状況であろうと2000円札しか使わない、非常に変わった癖の持ち主だ。

・漂々とした男

2年ほど前に知り合った私のポケモンGO友達、のりお。年齢は40代中盤で決してイケメンの部類には入らないものの、頭脳の明晰さとそれを感じさせないタイミングのズレを持つ漂々とした男である。

お世辞にも気が利く性格ではないため逆にこちらも気を使わず、一緒にいて非常に楽なのが特徴だ。なぜかピカチュウアフタヌーンティーに私を誘ったのも のりおである。

・2000円札しか使わない

さて、そののりおは知り合った時から2000円札しか使わないことで周囲をザワつかせていた。飲んでも食べても支払いは常に2000円札! ICカードやクレジットカードすら使わず、財布には常に2000円札しか入っていない。

しかもそれをひけらかす素振りも無ければ、面白がっている様子も皆無。当然のように、ただ粛々と2000円札なのである。え、なんのつもりなの? というか、今どき2000円札用意する方が大変じゃない?

私の周囲ではすっかり「2000円札の男」として定着したのりお。そんな彼が2000円札に目覚めた動機、その生活、そして野望までを以下でご覧いただきたい。


のりお「2000円札が発行された当時 “これは便利なものが出来た!” と思ったんですよ。だってアメリカの20ドル札とかメッチャ便利じゃないですか? 10ドル札にも50ドル札にもない収まりの良さがあるんですよね。

ただ、2000円札が大して使われないまま廃れてしまったのはご存じの通りです。なのでその辺りから “俺が2000円札を守らなきゃいけない!” という使命感に駆られたというか。気付けば2000円札しか使わない生活になってましたね。

で、2000円札は定期的に銀行で両替してます。事前に連絡しておけば、何十万円単位で両替してもらえるんですよ。もちろん手数料はかかりますけど。最初は馬鹿馬鹿しいと思ったんですけど、もう慣れちゃいました」



恐ろしいことにのりおは2000円札をわざわざ両替して用意しているという。なんでそこまで……と思わなくも無いが、これも癖なので仕方あるまい。それより2000円生活で不便はないのだろうか?


のりお「あたり前なんですけど、若い店員さんは2000円札を知らない人が多いですね。なので “て、店長!” みたいな感じでちょっとザワッとすることは結構あります。あと切符や自動販売機はもう慣れましたね。どの機械で2000円札が使えるのかは熟知しています。

最終的な野望は日本に2000円札が定着することなんですが、もう新規の発行はしてませんし、厳しいかもしれませんね。東京オリンピックがチャンスだと思ってたんですが、コロナのおかげで2000円札どころではなかったですし。

とはいえ今さらこの生活を辞めるつもりはありません。新規発行はしてないとはいえ、僕1人が使う分くらいはあることでしょう。日本では理解された無かった悲運の2000円札を、最後まで忘れない男が1人くらいいてもいいのではないでしょうか」



やだ、ちょっとカッコいい……と思いきや、全然カッコよくNEEEEEEEE! 何があろうとマイペース、周囲から奇異の視線を浴びても一切動じない男、それがのりおなのである。うむ、いいヤツだけど普通に変わってるよな。

おそらく「しばらく2000円札を見ていない」「存在すら忘れていた」という人も少なくないハズ。だがたまには「2000円札しか使わない男がこの世にいる」と思い出して欲しい。そう、人はそれぞれ “癖” を持っている生きものなのである。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.