フタを開けると湿気た衣。基本的に、揚げ物って弁当に向いていないと思う。だって、揚げ物の魅力の1つって衣の食感やん? 出来立ての方がウマイに決まっているのだ。
だがしかし、弁当販売のみであるにもかかわらず「とんかつ界のキング」と言われる店がある。しかも、営業は週3日。一体どんな店なのか。
・弁当なのに
私(中澤)がその店の存在を知ったのは食べログを検索していた時のこと。食べログはPCだと無料でランキングを確認することができるのだが「かつ丼 東京」で検索したらランキング上位に1つだけ明らかに弁当の店が入っていたのだ。
ランキング上位に入るくらいだから評価は高く、「とんかつ界のキング」というコメントまで見受けられる。探していたかつ丼とは違うのだが、弁当でとんかつ界のキングと言わしめるのは並じゃない。そこで行ってみることにした。
・知らないとまずたどり着かない
その店があるのは西武池袋線椎名町駅。池袋に近く駅前には明治通りも通っている都会だが、歩いていると下町的な雰囲気の方が強く感じた。鳩とおじいちゃんが和んでいるのんびりした公園を横目に住宅街を進み、角を曲がると住宅街に溶け込むように歴史を感じる「とんかつ」の行灯。そう、ここが『とんかつ おさむ』である。
駅からもそこそこ歩くし、周りに店もないので知らないとまずたどり着かない立地。店の雰囲気は定食屋なのだが、軒先には「店内飲食はしておりません」の文字。貼り紙によると、「夫婦高齢により、体力の低下、諸事情」によるものだそうだ。
・購入方法
また、貼り紙には購入方法も書かれている。まず、電話注文の上でピックアップする形で、電話受付は当日の朝7時から、引き取りは11時から13時の間。これについては知っていたため、もちろん、朝に注文は済ませてきた。
注文したのはロースかつ弁当の100g(1100円)である。入店すると、老夫婦と女性店員さん合わせて4~5人くらいがいた。予約した旨を伝えたところ「あ! 中澤さん?」と明るい声。この人が女将さんだろうか。
貼り紙を見てちょっと心配になったが、別によぼよぼというわけではなかった。店を出る時には旦那さんも「ありがとうございました!」と声をかけてくれる。むしろ、私が元気を分けてもらえたような雰囲気は昔ながらの街の定食屋っぽい。
・充実の内容
それにしても、レジ袋を2つもらったのが謎である。1つは弁当だと思われるが、もう1つは何が入っているのだろうか。せっかくなので、先ほど通った癒し系公園で食べることにした。まず、謎のレジ袋の中身は……
キャベツだった。めっちゃキャベツあるやん! 手のひら大盛くらいはある。弁当でこの量のキャベツがついている店は初めてだ。食べきれるかな……。
もちろん、弁当の方もキャベツに負けていない。ご飯ととんかつそれぞれに1パックずつ使われており豚汁まである。弁当とは思えない充実度だ。
・とんかつを食べてみたら
とんかつはパッと見でも分厚さが伝わってくるボリューミーさ。極厚の肉からはズッシリとした重量感が感じられる。これがマンガだったら「ゴロ…」というオノマトペがつくに違いない。ソースをかけて食べてみたところ……
豚の旨みがエグイ! 甘辛いソースさえ追い越して豚肉の味が迫って来るのだ。行こうぜ! ソースの向こう側へ!! それほどの勢いを感じる豚はまさしく旨みの暴走族。ひと口食べただけで、口の中を豚の旨みが縦横無尽に走り回る。こいつぁ、とんかつ界のマイキーや!!
もはや甘い豚の脂。この分厚さなのに、弾力を感じられる食感も最高だ。このとんかつスゲエ! 日和ってるヤツがいなさすぎて思わずご飯を食べたところ、さらなる衝撃を受けた。
米も甘い。とんかつの縦横無尽な旨みを受け止める粒が立ったご飯の甘み。その包容力はまさしくドラケン。このとんかつにしてこのご飯あり!
・何よりビビったこと
まさか、マイキー&ドラケンのコンビネーションをとんかつ弁当に感じることになるとは。このコンビネーションが良すぎて、気づいたら食べきれるかどうか不安だったキャベツもなくなっていた。特攻んでくるとんかつとご飯を優しく見守り、影で力を尽くすキャベツ。お前、さては三ツ谷だな。だが、何よりもビビるのは……
これほどの弁当が1100円という事実。
え? それやって大丈夫なの? こちらが不安になるくらい詰められている。店主、稀咲鉄太かよ。椎名町恐ろしいな。この町の底知れなさを垣間見た気がした。
色んなとんかつを食べてきたが、並ぶ者はあってもこれ以上となるとパッと思い浮かばない。豚汁を飲んでいると、走馬灯のように頭の中に店の人の顔が巡った。午後の光がベンチに降り注ぎ、召されるかのように満足感に満たされる。周りを囲む鳩の中で私はこう思わずにはいられなかった。「確かにとんかつ界のキングかもしれない」と。
・今回紹介した店舗の情報
店名 とんかつ おさむ
住所 東京都豊島区南長崎1-3-11
営業時間 火曜・木曜・土曜 受付時間 7:00~、受け取り時間 11:00~13:00
定休日 月、水、金、日
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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