長崎市民にオススメのちゃんぽん屋を聞いたら「リンガーハット」と答える……という都市伝説があるが、アレはあながち間違っていないような気がする。
リンガーハットは本当にソウルフードだし、長崎出身の私もオススメのちゃんぽん屋を聞かれても答えられないのだ。魚の店とか、美味しいカステラ屋は答えられてもちゃんぽんは難しい。
観光の街、長崎を走り回っているタクシードライバーならば、その答えを知っているはず……! というわけで、聞いてみた!
・タクシーの運転手さんにオススメを聞く
長崎の中心地でタクシーを停めるのはかんたんだ。観光地ってこともあって、その辺をばんばんタクシーが走っている。
さっそく1台のタクシーを停めて「一番おいしいちゃんぽん屋さんに連れて行ってください」と言ってみた。
年配のタクシードライバー・吉田さんはその質問を聞いたとたん、困惑の顔を浮かべた。
「えっ、一番おいしいちゃんぽん屋さん!? うーん……一番とかは分からんねえ」
やはり、この質問は長崎市民にとって地雷らしい。観光のプロ、タクシードライバーが困惑するのだ。
「運転手さんの行きつけのお店とかでもいいんですけど」と食い下がると……
「あのね、私もそうだけど、長崎の人は家の近所でちゃんぽんば食べるとよ。別に美味しくはなかねえ……」
と歯切れの悪い答え。吉田さんはしばし考え込んだあと
「うーん、じゃあ、四海樓(しかいろう)に行こうかね。ちゃんぽん発祥の店で、ここからワンメーターで行けるしね」
と車を走らせた。遠くの店に連れ回したっていいのに、ワンメーターで済む店にまっすぐ連れて行ってくれる……やさしいなあ。
そこで吉田さんがちゃんぽんについて語ってくれた。
「仕事柄、ガイドブックとかに載っとる中華街の店にお客さんを連れて行くことは多いけどね、並んでるし、中に入ってわざわざちゃんぽんを食べたりはしないね。灯台下暗しっていうかね。東京の人だからって、しょっちゅうスカイツリーに行ったり、もんじゃ焼き食べたりしないでしょう? 」
たしかにそのとおり……。もんじゃ焼きなんて何年も食べてないし、うまい店とか知らないなあ。ちなみに、タクシーでよくリクエストされるのが、福山雅治の実家らしい。長崎のタクシードライバーなら福山雅治の実家を知らない人はいないとか。個人情報とは……。
・いざ四海樓へ
そんなことを話しているうちに、あっという間に四海樓に到着。タクシーの中では東京から来た人間のふりをしたが、四海樓はバリバリの有名店である。地元でじゃんじゃんCMが流れている。
だが、私は一度も行ったことはないし、四海樓がちゃんぽん発祥の店という事も知らなかった。
観光名所のグラバー園や大浦天主堂からほど近い、5階建てのお城のようなビルである。ラストエンペラーでも出てきそうな長い階段をのぼると……月曜にも関わらずレストランは満席の表示。
ものすごい人気だったが、回転率がよく5分ほどで席につけた。
そして、店内を見て、人気の理由が分かった。
眺めがめちゃくちゃいい!
夜景で有名な稲佐山、長崎港、水辺の森公園や居留地時代の洋館が見える絶景レストランだったのだ!
長崎市内でここまで眺めの良いレストランも珍しいのではないだろうか。
ちなみに、料理の種類は厳選されている。名物はちゃんぽんと皿うどん。
サイドメニューはかなり数が絞られていて、メニュー表は裏表1枚で完結している。
・ちゃんぽん (1210円)
・ハトシ (1本 300円)
・杏仁豆腐(660円)
を注文した。最初にやってきたのは「ハトシ」という、長崎の卓袱(しっぽく)料理。
薄い食パンにすり身を挟んで揚げたもの。全く油っぽくなくて、サックサクの揚げたてで美味しい……!
そしてお待ちかねのちゃんぽんが到着。
ほー、四海樓のちゃんぽんは上に錦糸卵がのってるんだね。
あとの具材は、かまぼこ、キャベツ、もやし、タコ、小エビ、豚肉、ネギ、……など、ベーシックなちゃんぽんという感じ。スープは鶏ガラと豚骨がベースになっているみたい。ちゃんぽん麺は太くて柔らかめ。
ひとくち食べると……優しい。いろんな具材が入ってるけど、ガツンと濃い感じじゃなくて、スープがまろやかなのだ。麺が柔らかめなところも優しい。元祖だからといって、何か豪華な具材が入ってるというわけじゃなくて、あくまでもベーシック。
ちゃんぽんは、1899年に四海樓の創業者がお腹をすかせていた中国人留学生のために作ったのが始まりだったという。野菜や魚介類がたっぷりはいって栄養価のあるちゃんぽんはまたたく間に人気になったとか。そのせいか、量が多いけど、胃がもたれることもなく、完食できた。
そしてデザートの杏仁豆腐がまた美味しかった!
660円とお高めだなと思っていたのだけど、固いプリンならぬ、生クリームがたっぷり入った濃厚な固い杏仁豆腐で、これを食べるためだけにまた四海樓に来たい……と思ってしまった。ブリンブリンの杏仁豆腐、めっちゃオススメです。
・長崎市民にとってちゃんぽんとは
さて、なぜタクシーの運転手も市民も「オススメのちゃんぽん」という質問に苦戦するのか……。ちょっと説明したい。
運転手の吉田さんが言っていたように、長崎市民にとってちゃんぽんや皿うどんは、土曜の昼とか夕飯を作るのが面倒なときに近所で出前を取るものなのだ。行きつけは近所の中華料理屋か、みんな大好きなリンガーハット。
別に特別な料理ではないので、ちゃんぽん目当てに中華街の有名店まで並んで食べに行くってことはほとんどない。
また、有名店に行ってもメインで頼むのはエビチリとか春巻きとかの別の中華料理で、ちゃんぽんはついでに頼むぐらいである。
だから「A店のちゃんぽんは〇〇で、B店のちゃんぽんは△△で〜」みたいな比較をするってことはあんまりないと思う。オススメの店を他県の人に聞かれると「中華街の江山楼とか京華園はよく人が並んでるよ」みたいな答え方しかできない。「そういう有名店じゃなくて、知る人ぞ知る名店みたいなのはないの!?」とか言われても困ってしまうのだ。
だって、ちゃんぽんは基本的にどこで食べてもそこそこ美味しいから。高いところで安定しているかわりに、ずば抜けて美味しい店もないというか……。
今まではオススメのちゃんぽん屋を聞かれても困っていたが、長崎の夜景や海を眺めながら、元祖ちゃんぽんを食べられる……。「四海樓」は長崎観光に来る人にオススメかもしれない。
参考リンク:四海樓
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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