2023年3月13日からマスクの着用が個人の判断に委ねられることになった。いよいよコロナ以前の状況に戻ると思うと、ホッとする。外出自粛・営業自粛で影響を受けた飲食業界は、これから本格的に活気を取り戻すことになるだろう。……となると気になるのがアノお店、東京・歌舞伎町の「立喰い焼肉 治郎丸 新宿本店」である。
昨年秋にリニューアルしたはずなので久しぶりに訪ねてみると、3月22日の営業を最後に閉店することになったそうだ……。
・立ち食い焼肉の先駆け
私(佐藤)がこのお店を初めて訪ねたのは、2014年7月末だったと思う。7月22日にオープン、その直後に利用した時に店の仕組みに衝撃を受けた。焼肉なのに立ち食い! カウンターのショーケースに肉が並び、1枚から肉を頼むことができる! 食べたいものを少しずつ頼めるっていいね!
大興奮で記事を書いたことをよく覚えている。その甲斐あってか、お店は繁盛店となり、それ以降はいつ訪ねても行列が絶えなかった。おかげで手軽に利用できなくなってしまったが……。
記憶が確かなら、治郎丸についてもっとも早くウェブニュースで取り上げたのは私だったと思う。それが繁盛にひと役買ったとしたら、これほど嬉しいことはない。店前に行列ができているところを見るたびに、私は誇らしく思っていた。
一時は15店を展開するに至ったが、現在は関東に5店舗を残すのみ。そのうちの1つ、治郎丸はじまりの新宿本店も営業を終えることになってしまった。
・次のデカい夢
2021年1月、2度目の緊急事態宣言が発令された時にもお店の状況をお尋ねしている。その時、売上はコロナ前の3分の1になっていた。都内はその後に「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」を繰り返し、結局2022年3月まで1年2カ月もの間、行動制限が続く。
飲食店は「時短営業」と「アルコール提供自粛」が呼びかけられ、やむなく休業したり閉店する店も少なくなかった。治郎丸は同年7月、約1カ月のリニューアル工事に入り、8月に再スタートを切るはずだった。しかし夏に再び感染者数が増加して、営業再開を1カ月遅らせることとなった。
装いもあらたに再スタートしたはずが、リニューアルから半年で閉店。とても残念だ。きっと店長の中村さんも寂しい思いをしているに違いない。ところがお話をうかがいに行ってみると、前向きな決断と捉えているようだった。
佐藤「正直、残念です。中村さんにとってもショックは大きいと思いますが」
中村「いや、ホッとしてます」
佐藤「え? そうなんですか?」
中村「年齢的にも現場(店)に立つのが、しんどくなってきていたので。良いタイミングで会社が決断してくれたと思ってますよ」
佐藤「やっぱり売上はコロナ前に戻らずですか?」
中村「戻んないですね。人は街に出てますけど、もうコロナ前みたいにはならないでしょう」
佐藤「ここの営業を終えたら、どうされるんですか?」
中村「少し休みを頂けると思います。そのあとは、しんぱち食堂の新規開店事業をしばらくやることになるかな」
佐藤「そういえば、同じ会社でしたもんね。今、しんぱちは勢いに乗ってますしね」
中村「九州方面の出店を手伝うことになると思います」
佐藤「では、しんぱちで飲食業界に新しい風を起こすことが、これからの夢ですかね?」
中村「まあ、それもありますけど、もう少し大きい夢があるんですよ」
佐藤「なんですか?」
中村「お話してませんでしたっけ? 僕とうちの社長は野球が縁で出会ったんですよ。ご存じの通り、僕はプロ経験者で社長は実業団出身なんですよね。それで、いずれは高校野球の監督になって、甲子園を目指したいと話しているんです」
佐藤「え? 中村さんが監督!?」
中村「そうですね。監督として甲子園に行きたいと思っています。それは昔からの夢というか、目標のひとつですね」
佐藤「では、これからはその目標に向かっていくと」
中村「易々とはいかないと思うんですけどね」
・良かったんですよ
佐藤「「今となっては」って話になってしまいますけど、やっぱりコロナを腹立たしく思いますか?」
中村「いや、良かったと思ってます」
佐藤「コロナの影響で売上は削られて、お店を閉めることになったと思うんですけど、「良かった」というのは……」
中村「子どもとずっと一緒にいれましたからね。小学校に上がるまでの時間、ずっと一緒にいて、ここに連れてきてたこともありました。外国人のお客さんに英語を教えてもらったりしてね。そういうことって、学校じゃ学べないでしょ?
コロナがなかったら自分は昼夜逆転生活ですから、子どもと向き合う時間はもっともっと限られていたはずです。だから、良かったんですよ」
佐藤「いつも前向きですよね。その調子でこれから甲子園に向かっていくんですよね?」
中村「ここ終わったらしばらく休みですから遊びますよ、遊ばせてくださいよ(笑)」
・ベンチに座る彼の姿を
中村さんは不思議な魅力のある人だ。この人と会って話をしていると、どんな些細なことも楽しくなる。今でさえ、お店を閉めることについて話をしているはずなのに、会話は暗くならない。ただ互いに笑って話をしている。
まるで旧知の友人と話しているような、心の近さがある。閉店の話なのに、なぜか晴れやかな気持ちで店を後にした。
治郎丸新宿本店は終わりだけど、中村隼人の次が始まる。いずれテレビの高校野球中継で、ベンチに座る彼の姿を見る日が来るかも。その日を待っている。
8年間、お疲れ様でした。
・今回訪問した店舗の情報
店名 立喰い焼肉 治郎丸 新宿本店
住所 東京都新宿区歌舞伎町1-26-3 かぶきビル1F
時間 11:30~22:00
※ 2023年3月22日最終営業日
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
▼この日の品書き。8年前と比べると、30~40円値上がりしている。最近の経済状況を考えると妥当ではないだろうか
▼1人1台のロースター。立って食べるのがこのお店のスタイル
▼注文はお任せで。まずはササミ・サーロイン・肩芯の3枚
▼片面15秒でサッとひっくり返す
▼1枚ずつの肉をじっくり味わう。美味い!
▼次はブリスケ・マクラ・スネの3枚
▼網の中央に縦に置いて焼くとキレイに焼けるそうだ。知らなかった……
▼今さら言うけど、焼肉って最高だな!
▼この日の裏メニュー、レバーとハツでした
▼しっかり焼いてごま油と塩で頂く
▼肉はどれも新鮮で美味い。1枚ずつ頼めるこの仕組み、改めていいなと思うんだよなあ
▼高校野球の監督になったらちゃんと連絡くださいね、中村さん