私事で恐縮だが、筆者は生まれてこの方、ケンタッキーフライドチキンのバーガーを食べたことがない。理由は明白で、同店のチキンを愛する筆者は、「バンズで腹を埋めるより、その分チキンを食べたい」という偏った思想に基づき、常にチキンばかり選び続けてきたからだ。

しかし最近になって、このまま一生を終えるのは惜しい気がしてきた。葬式の際に「故人はケンタッキーのバーガーを全く食べずに旅立ちました」とスピーチされるのも無念だし、墓標に「ケンタッキーのバーガーを全く食べずにここに眠る」と刻まれるのも不名誉だ。とにかく勿体ない気がしてきた。

そういうわけでバーガーの初実食に乗り出した筆者は、公式サイトのメニューページを訪れた。再三再四ケンタッキーを利用してきたにもかかわらず、まじまじとバーガーのラインナップを眺めることすら初めてだった。

チキンフィレバーガーを基本として、辛口のものやチーズ入りのものが並んでいる。何だか妙な高揚感があった。例えるなら毎号欠かさず購入している雑誌の、毎回読み飛ばしていたコーナーを初めて読んで、「こんなに面白かったのか」と思う感覚に似ている。

さておき、初体験となる今回は、最もオーソドックスなチキンフィレバーガーを選んで注文した。入手した実物は赤色が鮮烈な包み紙をまとっており、「どこかで見たことのある色使いだな」と思っていたら、ケンタッキーカラーだった。当たり前である。

しかし「バーガーを知らぬ者は包み紙も知らぬ」のである。「重い腰を上げて初体験してみると、ささいなことも新鮮に感じられて楽しい」という意味のことわざのような文言を書いてしまったが、ともあれ更なる感動を体験すべく、包み紙を開ける。

そして登場した姿は、想像よりもボリューミーだった。ダブルチキンフィレバーガーなるものもメニューには載っていたが、シングルサイズであっても十分大きい。大口を開けねば口の中には収まりきらない。

ゆえに、目の前のそれを迎え撃つようにかぶりつく。まず感じたのは、バンズに劣らないチキンの柔らかさであった。胸肉のあっさりとした味わいを持ちつつも、どこかジューシーで、何より歯に力を入れずとも驚くほど優しく崩れていく。

正直、大手バーガーチェーンのチキンは少し硬かったりすることもあるが、このチキンにはそういった「違和感」が全くない。バンズとチキンが溶け合うようにデザインされていると言うべきか。ケンタッキーのチキン屋としての威信を、バーガーから確かに受け取れる。

また、豪快な外見に反する食感に加え、特徴的なのはマヨネーズソースだ。このソースもしつこそうな見た目を華麗に裏切り、爽やかな酸味で舌をくすぐってくる。オリーブオイル入りとのことで、それも功を奏しているのだろう。チキンとソース、二者の相乗具合がたまらない。

これが、これがケンタッキーのバーガーか。いやはや、よもや手を抜いているだなんて思っていなかったが、それにしてもオリジナルチキンの派生商品でありながら、抜かりなく計算され尽くしたクオリティには舌を巻く。食べやすく、美味しい。見事である。

出会えて良かった。これできっとまともな葬式と墓標になるはずだ。葬式と墓標のことを考えながらケンタッキーを食べる人間が許されていいのかはわからないが、幸福なのでいいだろう。無事に一生を終えられるのだから、思い残すことはない。

……いや、ある。ものすごくある。よくよく考えたら、この1回で終わっていいわけがない。何度でも食べたい。これからは普通のチキンもバーガーも、両方とも腹に詰め込まねば満足できない。

いずれ我が胃がパンクしないか心配である。ああ、そうか。自分がなぜ葬式を迎えるのか、わかってしまった気がする。まあ、幸福なのでいいか。

参考リンク:ケンタッキー 公式HP
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.