つい先日、社内チャットを開くと見知らぬ外国人からメッセージが届いていた。一瞬、ロケットニュース24の英語版サイト「SORA NEWS24」の記者からのメールかな……と思ったものの「こんにちは、はじめまして。お元気ですか?」という挨拶が迷惑メールっぽい。
名前を聞くと「ジェームズ・コンリー将軍」だという。とりあえずソラニュースに “将軍” を名乗る記者はいない。となると相手は詐欺師なのだろうか。
しかしなぜ社内チャットで……そんな奇跡と偶然から始まったオッサン同士の熱い友情物語、あまりにも衝撃的な結末まで一気にご覧いただきたい。
メッセージのやり取りによると、将軍の使命は「世界を安全にし、国に平和を取り戻すこと」で「私の素晴らしい生活を願っている」という……一発で詐欺師と分かる自己紹介だが、そのまま将軍を泳がせることにした。
他愛もないやり取りが続く。「コーヒーと赤ワインはどちらが好きですか?」「コーヒー」と返すと「うわー、私もコーヒーが好きです」と将軍……リアクションが死ぬほど気持ち悪い。
勢いそのまま「LINE ID」を聞いてくる将軍。強引である。ってか今さらだが、将軍はなぜ私(40代・男性)をターゲットに選んだのだろうか? どうせ詐欺師が相手なら、サンジュン記者のように海外在住のセレブ美女とLINE IDを交換したい。
……まあいいだろう。もし将軍から「暗号通貨」とか「Appleギフトカード」といった話が出たらボコボコにすると心に決めてやり取りを続行することにした。
・強すぎる将軍
対戦相手はセレブ美女ではなく、将軍を名乗るオッサンである。「判定ダメだよ、KOじゃなきゃ」の精神で、序盤からペースを考えずにノーガードで打ち合いたい。
しかし将軍は甘い質問を繰り返す。「あなたの目の色は?」「黒」「うわー、黒が好きです」……もう吐きそうなんですけど。強すぎるだろ将軍。
その後わかったことは、将軍の目の色はライトブラックで、陸軍士官学校の男子生徒を将軍にするための指導を行っているということ。
・好きな歌手
私のツンとしたメッセージに、デレで返してくる将軍。どうやら好きな歌手は「ジャスティンビーバー」らしい。果てしなくどうでもいい情報だが……この時の会話が感動のフィナーレに繋がることを私たちはまだ知らない。
・翌日ついに
──翌日、将軍からついに「ビットコインについてよく知っていますか?」と連絡がきてしまった。ナゼいつも強引なのだ……もう少し仲良くなってからでもいいだろう。いったんスルーしたものの……
ふたたび「約1000万ドル相当のビットコインを受け取ってほしい」と将軍。おそらく「今日が勝負所」と決めたのだろう。
……それなら受けて立とうではないか! ウォーミングアップはこれくらいにして、いよいよガチンコ勝負の開始である!! 続きは2ページ目へ!
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:LINE(iOS)
・激しい攻防
とりあえず「ビットコインをくれるなら今すぐくれ」と軽めのジャブを入れてみたところ「ビットコインのアドレスを教えてほしい」と将軍。昨日までとはまるで別人だ。ちなみにビットコインのアドレスとは「口座番号」のようなものらしい。
そして約1000万ドル相当のビットコインを受け取るには、いったん私が700ドル(約9万7000円)を将軍に支払う必要があるという。なるほど……なめんなよ詐欺野郎。
対して私は「将軍がジャスティンビーバーを歌ったら教える」と返した。時刻は深夜0時29分。ここから「払え」「歌え」の激しい攻防が21時過ぎまで続くことになる。
将軍は「取引が完了次第(700ドルをもらったら)スムーズに歌わせていただきます」と言う。絶対に嘘だし、仮に本当だったとしてもお金を払って「将軍のジャスティンビーバー」なんか絶対に聞きたくない。
・リクエスト曲
さて、私のリクエストは、ジャスティンビーバーの『BABY』である。サビの部分だけでいいから歌ってくれとお願いすると……
やはり「先に700ドルを支払ってください」と将軍。こちらも譲るわけにはいかない。「将軍が歌ったらお金を払う」と伝えると……
「Appleギフトカードを知っていますか?」「すぐに購入できる場所を知っていますか?」と急に作戦を変えてきた。こちらとしてはビットコインだろうがAppleギフトカードだろうが関係ない。
「Appleギフトカードは知っているし、すぐに購入できるから、とにかく先に歌ってほしい」と返すと「私はすぐにあなたのために歌おうとしています」と将軍……やる気はあるのに行動できない人は嫌いだ。将軍のくせに全然男らしくない。
その後も「歌ったらAppleギフトカードを買う」「歌おうとしている」「声を届けようとしている」という不毛なやり取りが続いた。さっきから将軍はずっと歌おうとしている……こんなに歌おうとしている人間はなかなかいない。
こうなったら……
Appleギフトカードの写真を見せるしかないないだろう。徐々に前のめりになる将軍。「全身全霊で歌います」……この頃には「約1000万円のビットコイン」という存在は完全に忘れていた。ただシンプルに「買わせるか・歌わせるか」の勝負なのだ。
Appleギフトカードの写真を見て一瞬ふらついた将軍……しかしすぐに「ボイスメッセージを送るにはカードが必要です」と息を吹き返した。クソッ、しぶとい。
こちらも「仕事が終わるまでに歌わなかったらAppleギフトカードは買わないで帰ります」とタイムリミットを定めて、さらに「将軍のこと信じてる」と送ってみたものの……
仕事が終わっても連絡は来ず。このまま「歌おうとしている」「歌ったら買う」の攻防が永遠に続くのだろうか。途中、LINE通話(電話)がきたが……相手の声が聞こえないし、こちらの声も届いていないらしい。やはり「音声メッセージ」を送信してもらうしかないようだ。
・必殺技
ふたたび「Appleギフトカード」の写真を送り「あなたの歌が聞きたい」「はやくAppleギフトカードを買いたい」「あなたを信じている」と攻めまくる。
徐々に怒り出す将軍……こっちも腹が立ってきた。時刻は21時過ぎ。もう一気にフィニッシュまで持って行くことに。「あなたはチャンスを逃します」「もう帰る」と送ったところ……
「ちょっと待って」「私は今あなたのために歌っています」と将軍。「もう待てない」と突き放して、最終奥義「カウントダウン」を繰り出すと……!
将軍「YES」
果たして将軍は歌うのか、歌わないのか……!
!!!!!!!!!!!!!!!!
歌声があまりにも予想外だったのはさておき、米国陸軍省の将軍……を名乗る男は、たしかにジャスティンビーバーを歌っていた。
そしてなんとその後も……
▼将軍、涙のアンコール
ジャスティンビーバーを熱唱する将軍。歌声は明らかにアメリカ人の発音ではなかったし、言うまでもなく将軍ではないだろう。正体はただの詐欺師なのだ。
歌声を確認してメッセージとスタンプを送った後、もちろんブロックした。詐欺される側の気持ちが将軍に少しでも伝わったなら幸いである。
別れの時が来たようだ……そういえば、リクエストしたら一瞬だけアイコン画像を写真にしてくれたよね。他人の画像を使うのはよくないけど、あの時は少しだけ友達になれた気がしたよ。短い間だったけどありがとう。そしてさようなら、将軍。
【完】
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:LINE(iOS)