「シンガポールでチキンライスがピンチ」というニュースが日本で報じられたのは今年6月のこと。報道によると現地では「鶏肉の主な仕入れ先であるマレーシアが輸出を停止し、原材料不足が深刻化している」と、いうことらしかった。

チキンライスは言わずと知れたシンガポールの国民食。国民食が品薄とは、なんと気の毒な話だろうか。ちょうどそのころ旅行でシンガポールを訪れた私は、さっそく現地の人に「チキンライス、品薄らしいじゃん」と声をかけた。

ところが! 予想に反してシンガポール人たちは、みな口を揃えて「ハ? 何の話?」と首をかしげるではないか。は、話が違う!

・見ると聞くとは

「マレーシア産の鶏肉は代用がきかない」「品薄の影響でチキンライス屋に大行列ができている」といった報道も目にしていたのだが、シンガポール人たちは「チキンの仕入れ先などいくらでもある。何も問題はない」とクールなそぶりだ。

もちろんお店の方々には苦労もあるだろう。しかし少なくとも一般庶民にとって、現状は「チキンライス、別にピンチじゃない」といった雰囲気のようだ。見ると聞くとは大違い……シンガポール旅行を計画しているみんな、チキンライスの件は安心していいぞ。

さて。せっかく現地の人とチキンライス話に花が咲いたので、私は「どの店のチキンライスが一番おいしいのか」と尋ねてみた。すると……なんと驚くべきことに、その場にいた全員が同じ店の名を口にしたのだ。

まぁ “全員” と言っても4人なのだが……。しかしシンガポールには星の数ほどチキンライスの店があるワケで。現地人から「ナンバーワン」と即答されただけでも、相当な実力派と見ていいのではないだろうか。さっそく教えられた住所へ向かうとしよう。

着いたのはチャイナタウンエリアにあるホーカーセンター(屋台の複合施設)。国内いたるところに点在するホーカーセンターの中でも、ここ『マクスウェル・フードセンター』はかなりの人気を誇るのだそう。中途半端な時間(17時)に来たけど、賑わってんなぁ〜!


・楽しいホーカーセンター

細長い体育館のような屋根の中に、100軒以上の屋台が並ぶマクスウェル・フードセンター。

中華料理、韓国料理、タイ料理などなど、多種多様な料理をお手頃価格で買うことができる。

客は好きなものを買い込み、そこらへんのテーブルで食べる。 “大きなフードコート” をイメージすればかなり近いと言えるだろう。

ちなみに私はかなり少ない予算でシンガポールを旅していたのだが、たとえば水を買う場合など “コンビニよりホーカーセンターのほうが安い” といった事態が頻発したのには驚いた。ホーカーセンターは貧乏旅行者の強い味方! これだけは確実に覚えておきたい。


んで……


こちらが問題のチキンライス屋『天天海南鶏飯(ティエン・ティエン・ハイナニーズ・チキン・ライス)』である!


・シンプルかつ優しい

天天海南鶏飯のチキンライスはかなり有名らしいので、読者の中には「あ〜ハイハイ。ガイドブックでよく見るヤツね」などと思われた方もいるかもしれない。

だがしかし……これは日本でも言えることだが、ガイドブックやSNS上から “本当に現地人が行く店” を判別することはかなり困難を極める。何度も言うけどココは私が出会ったシンガポール人の100%が「一番うまい」と断言した店だ。おまけにミシュラン掲載店。

少なくとも私が今からシンガポールでトップクラスのチキンライスにありつけることは、この時点で確定していると言えるだろう。さて、前置きが長くなってしまった。お待ちかねのチキンライスはMサイズ6SGD(約610円)。

一見しただけで「この量じゃお腹いっぱいにならない」ことが分かるのだが、他にもいろいろ買い込んで食べられるのがホーカーセンターのいいところ。日が暮れるにつれて館内はますます混み合い、現地の人と相席になったことも新鮮で楽しい。いただきま〜す!

……おっ? 甘くて濃い味付けが多いシンガポールにあって、意外なほどシンプル! ショウガ強めの優しい味で、外国の料理が苦手な人でも確実に「おいしい」と感じるだろう。赤い調味料はむせ返るほど辛いので、最初はつけずに食べるのがオススメだ。

チキンは鶏ハムみたいにしっとりジューシー。醤油ベースのタレは甘辛く、こちらも想像したほどクセはない。どこ産の鶏肉なのかは不明だが、別にどこ産でもいいじゃないか……そんな気持ちにさせるウマさであった。

これほどシンプルな料理でも、やはり店ごとに特色があるのだという。それぞれ好みはあるにせよ、とりあえず『天天海南鶏飯』へ来ておけば、現地の人から「こやつ……できる」と思われることは間違いない。

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼ホーカーセンターでよく見るこの料理が好き。名前はよく分かりません。