
ドイツの伝統菓子バウムクーヘン。日本でも超メジャーな洋菓子だと思うが、その作り方をご存じだろうか。
木の年輪のように見えるのは、生地についた焼き目。薄~く生地をつけては焼き、つけては焼きという工程を延々と繰り返して作られる。
ドイツでは伝統のレシピを厳守しなければならず、かつ高度な技術が必要なため、家庭ではもちろん洋菓子店でもそうそう食べられない特殊な菓子だという。
だがしかし、あらゆる料理が独自の進化を遂げてしまう日本。「いつでもどこでもバウムクーヘンを焼きたい」と考えた人がいるらしい。
・家庭用バウムクーヘンメーカー「木輪ちゃん」
長野県のアウトドア用品メーカー、合同会社Fielder’sが開発したバウムクーヘンメーカー。その名も「木輪(きりん)ちゃん」。
バウムクーヘンを作るためには、ちょうど「豚の丸焼き」を焼くときのように対象物をグルグル回せる機構と、生地を少しずつ足していく仕組みが必要になる。それらすべてを兼ね備えたのがこの製品だ。特許出願中だそう。
さらに同社には「おでかけ木輪ちゃん」というプランがあり、機材一式をレンタルできる。熱源としてカセットコンロも付属している親切ぶりだ。
縁あって実機に触れる機会があったので、自宅ベランダでバウムクーヘンを焼いてみたい! ちなみにキャンプなど、アウトドアでも調理できるぞ。
本体はコンパクトに分解されているが、簡単に組み立てられる。必要なパーツがワンタッチでかみ合うようになっており、ものの5分もあれば完成。
ネーミングの由来は、バウムクーヘンを焼くのに最適な形状がキリンぽいから……だと思うが、お茶目な顔がある。
生地はレシピをもとに自作してもいいし、同社の「木輪ちゃんのご褒美」(税込1199円)という冷凍生地を購入してもいい。少し前に解凍しておけば準備万端だ。
浅すぎず深すぎず、ちょうどいい位置に配置された専用トレイに生地を流し入れる。
そして下準備としてローラーにアルミホイルを巻く。
キリンの首の部分……つまりローラー部分がクレーンのように前後に動く。トレイ側に倒せばちょうどいい量の生地がつくし、熱源側に倒せば炎で焼けるという仕組み。
トレイの上でくるりと回して生地を巻きつけ
反対側にぱたんと倒すと、カセットコンロであっという間に焼き目がついた!
あとは生地をつけて焼く、生地をつけて焼く、の繰り返しだ。
ローラーにはハンドルがついており、手で簡単に回転できる。気を抜くと一瞬で焦げてしまうが、軽い力でクルクルと回せるので負担は感じない。
少しずつ円が大きくなっていく。まんべんなく生地をつけるのが難しかったり、重力で凸凹になったりしてしまうが、「バウムクーヘンを育てている」という感覚がおもしろい!
周囲には、ほんのり甘い香りが漂う。火にかけたローラーは熱くなり、その熱で生地のバターを溶かしながら密着させていくのだそう。
あまり大きくなるとバランスが悪くなったり、作業が難しくなったりするようなので、10層くらいで完成。
初めてにしては、なかなかいい出来じゃないだろうか? 熱々のバウムクーヘンである! 焼き上がったらローラーを抜き取ることで、中央にドーナツ状の穴ができるというわけだ。
が、ここでまさかのアクシデント発生! なぜかローラーが……ぴったりと密着していて……抜けないっ……!
仕方がないのでローラーにつけたままカットを試みるが、ボロボロと生地が崩れてしまう。口に入れると、ちょっとベタついた「半生」のような感触がするし、どうも焼きが足りなかったようだ。
認めたくはないが……これは失敗だぁぁぁぁぁぁ!
・雪辱の第2ラウンド
このままでは終われない。もう1本作ろう。要領がわかったので、初回よりもはるかに手際がよくなる。
生地をつけて、クルクル回して、生地をつけて、クルクル回して……初回よりも各層をしっかり焼くようにしてみる。
サイズにもよるが、1本およそ15分ほどで完成。今度はしっかり焼けていると思う。
が、やはりローラーは抜けない! なぜだ! 生地と仲良く一体化しており、無理に抜くとバウムクーヘンごと崩れそうだ。
ううむ……こうなったら致し方ない。『はじめ人間ギャートルズ』のように、そのまま食らいつく!
美味い!! まるで直火であぶった骨付き肉をかじるように、野生の本能が呼び覚まされる。焼きたてホカホカのバウムクーヘンからは、芳醇かつ濃厚なバターの風味が炸裂する。外側はさくさく、中はしっとりの理想的なバウムクーヘンだ。
……しかし、なにかが違う。ミュンヘンの老舗専門店「クロイツカム」に行ったこともあるのだが、併設のカフェでイートインしたそれは、もっと上品で優雅な食べ物だった。なにしろ限られた菓子職人しか作れない高級菓子なのだ。
──────三度目の正直、リベンジである。
※アルミホイル越しでも金属製のローラーはかなり熱くなっているので、もしギャートルズをやってみようと思われた方も直接口をつけないよう注意。唇が焼けるぞ。
・執念の第3ラウンド
ただただ無心にローラーだけを見つめ、雑念を払う。ここに存在するのは己とバウム生地のみ。地球のリズムを感じながらハンドルを回す。
ふつふつと表面が泡立つ音に、静かに耳を傾ける。それは生地のささやきだ。
端の方は生地を重ねにくく、何度も炎にさらされて炭化していく。諸行無常だ。しかし決して動揺せず、心を落ち着けて機を待つ。
……渾身の1本である……
焦げていることなど気にしない。大事なのは、ローラーが外れるかどうかだ。私はマンガ肉ではなくバウムクーヘンを食べたいのだ。
三度目にして
ついに……ついに……
ローラーがスッポ抜けた! これまでのことがウソのようにスムーズに別れを告げる金属棒……
続いて、アルミホイルをねじって取り出すという難しい工程も……
できたー!!!!
見事、レンコンのように先が見通せるバウムクーヘンができた!
おそるおそる包丁を入れると
層ができてるー!!! これが年輪である!!
市販のもののように大きな輪にはできなかったが、ホクホクと温かく、少しだけ焦げて香ばしい。最高に美味である。
本場ドイツのバウムクーヘンはどっしり重い。フワフワと軽快で、きらびやかな味わいの日本のバウムとはまったく違う。現地で初めて食べたときには筆者も正直「え……地味……!」と思った。
同社の「木輪ちゃんのご褒美」は本場の味を再現しており、「昔懐かし系」の固めの生地が特徴だという。
車の排気ガスが容赦なく入り込んでくるベランダにドイツの風が吹く。まさかドイツの人も、遠く日本のご家庭で伝統菓子が焼かれているとは思わないだろう。
・公式サイトをチェック
合同会社Fielder’sでは、「木輪ちゃん」本体販売(税込14850円)のほか、本体レンタル(税込6600円)、冷凍生地の販売(税込1199円)など関連商品を展開している。
公式サイトの端々からは「こんな製品あったらいいな」を実現する熱い空気を感じる。肉を回せるようになるユニークなオプション品などもあるので、スイーツ好きだけに留まらず、アウトドア好きな方もぜひチェックしてみて欲しい。
参考リンク:合同会社Fielder’s、Fielder’sオンラインショップ
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
冨樫さや






























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