少し前、Twitterで京都の有名な縁切り神社・安井金比羅宮に関するツイートが話題になっていた。投稿者の女性は具体的にどんなことがあったかは書いていなかったが

「凄い勢いで悪縁が切れます。え…? 本当に? って普通ではない予期できぬ理由で切れます」

と語っていた。実は私も数年前にこの神社を訪れて、悪縁が断ち切れたうちのひとりだ。そして、それはなかなか予期できない、ちょっと予想外の展開だった。

当時の体験談を記すので、悪縁に苦しみ、縁切りの願いをしようかと思っている人の参考になれば幸いである。


・ブラック編プロで地獄の日々

私が安井金比羅宮を訪れたのは今から約6年前。編集者になる夢を叶えるべく小さな編集プロダクションに入ったものの、とんでもなくブラックな労働環境で人生どん底だった時期である。

・社長のパワハラと暴言
・募集要項は正社員なのになぜか業務委託
・社保なし
・有給なし
・残業代なしの低賃金
・毎日終電まで残業
・業務外の用事で休日出勤
・取引先の飲み代をなぜか払わされる

などなど、もし「ブラック企業ビンゴ」があったら最速で1列穴が開くレベルだった。激務に加えて、社長がいつキレるか分からないストレスで自律神経がおかしくなり、『キャプテン翼』の三杉くんのように急に心臓が痛くなる、顔の皮がボロボロ剥けるなど体調も最悪に。

本格的に「無理だ」と思ったのは父が亡くなり、手続きなどのために1週間の忌引を申請したところ「おめえ、そんなに休む必要あるのかよ」と言われたことである。

一刻も早く辞めたいが、給料が安いので貯金はない、忙しすぎて転職活動をする時間もない。業務委託だから失業保険も出ない。それに、あの社長がすんなり辞めさせてくれるかも分からない……。シブがき隊もビックリのないないだらけ。わらにもすがる思いで「縁切り神社 効果」などを夜な夜な調べていた。


・突然の関西出張

そんなある日、滅多にない関西への日帰り出張が入った。仕事の場所は大阪だが、終わって京阪電車に飛び乗れば、日が暮れる前に京都の縁切り神社に行ける……。これは天からの思し召しではないか?

時は極寒の2月。その日は冷たい雨が降っていた。

悪天候にも関わらず、安井金比羅宮はそれなりに人で賑わっており、禍々(まがまが)しい雰囲気は意外なほどなかった。とはいえ、境内の絵馬をチラッと見ると

「〇〇さんがあの女と別れて私の元に帰ってきますように」
「〇〇さんと▲▲くんが別れますように」

といった、なかなか物騒な文字が並んでいるのだが……。


・大雨のなか、縁切り縁結び碑をくぐる

境内の真ん中に有名な「縁切り縁結び碑(いし)」がある。高さ1.5メートル、幅3メートルの絵馬の形をした大きな石で、中央に穴が空いており、大量の白い御札が貼ってある。

願い事を書いた「形代」(身代わりのおふだ)を持って、表から裏、裏から表へと願い事を念じながら穴をくぐり、最後に御札を貼るのが縁切り祈願の作法だ。

震える手で御札に「会社を円満に辞めて、自分に合った職場で働けますように」と書いて、穴をくぐろうとするが、想像以上に小さい。

雨でずぶ濡れになりながら、匍匐前進してどうにか穴をくぐる。冷たい雨に打たれながら「お願いします! 会社辞めさせてください! 会社辞めさせてください!」と心の中で必死に祈った。人の目など気にしていられない。

願い事がおわると空が暗くなってきていたので、真っ白な「心機一転守」を買って、安井金比羅宮を後にした。


・それから1ヶ月後…


効果が現れたのは、安井金比羅宮を訪れてから1ヶ月後。同僚の男子が辞めた直後だった。

それまで大量に仕事を振られていたのだが、突然社長が「御花畑は信用できん! もう仕事を振るな!」と猛烈に怒り出したのである。仕事はちゃんとやっていたので、身に覚えはまったくない。

普通なら絶望的な気持ちになるところだが、実は「ついに来たか」と思っていた。この職場には常にスケープゴートが必要で、ある日突然いじめが始まる……というのが何度も繰り返されていたからだ。辞めた男子もお気に入りから社長のいじめの対象になったひとりだった。

その日から嫌がらせで、簡単な仕事以外は一切任されなくなり、私の仕事はすべて入社直後の新人に振られるように。聞こえよがしに新人を褒めて、私は重箱の隅をつくように罵倒された。

「やることがないならお前はもう帰れ! 目障りだ!」

と言われたので、なんと定時で帰れるようになった。転職活動の時間ができる! 心の中でガッツポーズである。

社長からはいつも「お前なんか他で通用しないんだから、雇ってもらってるだけでもありがたいと思え」と言われていたが、転職エージェントに会うといろんな求人を紹介された。どこに行ってもこの職場より環境はよさそうだ。

先の目処が立ったところで、神妙な面持ちで社長に「もう……私はこの会社に貢献できないと思うので……2ヶ月後に辞めさせていただきたいです……」と伝えたところ、あっさり了承。

退社まではほぼ無視されていたが定時上がりは続き、おかげで2ヶ月間じっくり転職活動ができた。そして、無事に第1希望の会社から内定をもらい、いまこうしてロケットニュース24で記事を書いている。

まさか社長からの無視が引き金で転職活動に成功するとは。「悪縁を切って、良縁を結ぶ」とはよくいったもので、かなり強引な形だったが、願いは叶えられた。


・お礼参りに速攻行った

ちなみに、あまりの効果の凄まじさに恐ろしくなり、内定が出たあとすぐに安井金比羅宮にお礼参りに行った。

その日はよく晴れたいい天気で、境内は清々しい空気に満ちていたことを今でも覚えている。中の茶屋に招かれて、お茶を飲みながら他のお礼参りの人たちの話を聞いたが、みんなとても幸せそうだった。共通していたのは他人の不幸を願うようなことを祈った人はいなかったことだろうか。

こうした縁切りを何度も神頼みするのも良くないような気がして、それから私は安井金比羅宮には訪れていない。

参考リンク:安井金比羅宮 
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.