「フランスで回転寿司屋が繁盛している」という噂をききつけて、やってきたのはパリ7区『リュー・デュ・バック(Rue du Bac)』というエリア。 “いかにもパリ” といった街並みがエンエン続いており、とても回転寿司屋があるようには見えない。
実際に何度か同じ道を行ったり来たりしたのち、ようやく問題の回転寿司店『Matsuri(まつり)』を発見した。日本で回転寿司といえばド派手な看板や明るい店内が一般的だが、パリのソレは高級レストランかブティックを思わせるオシャレな佇まい。
気になるのはお値段だが……もしもの場合は謝って店を出るしかなかろう。
・本当に回転寿司だった
『matsuri』の外観をよ〜く見ると、言われてみれば寿司屋であることは分かる。
が、 “回転” であることは……分かるか、コレで?? フランス人にとっては一目瞭然なのだろうか? ちょっと緊張するけど、思い切ってトビラを開けてみよう。
お、おおぉぉぉ……確かに回転寿司!!!!!!
正体不明な皿も混ざっているものの、回る皿の数は日本の回転寿司より多いかもしれないレベル。カウンターの他にテーブル席もあり、時おり行列ができるほどの大繁盛ぶりだ。テキパキと客をさばくのはアジア系の男性。日本人ではなく中国の方らしい。
外国の寿司屋にありがちな “間違った和風演出” は今のところゼロ。
配られたボトル入りのソイソース(醤油)は『甘口』と『濃口』の2種類、しかもタップリ大容量である。サービスなのか、はたまた醤油代が別途加算されているのだろうか? 気になって開栓できないんですけど……(余った醤油は持ち帰らせていただきました)。
・出せない額ではない、が……
しばらくすると、日本と同様に「皿の色によって金額が違うシステム」であることが分かってきた。落ち着いてメニュー表で確認してみよう。
おおっ! 一番高いグレーの皿が6ユーロ(約757円)、一番安いイエローの皿は2ユーロ(約252円)なのか〜。日本の回転寿司より少し高めだけど、252円なら全然許容範囲内である。ウニとかイクラとか贅沢を言うつもりはサラサラない。今日は黄色い皿だけ食べよ〜っと!
が…………! 5分ほどレーンを眺めた結果、回ってきたイエローの皿は『キャベツの千切り』のみ!!! もちろん「この日たまたま品切れだった」という可能性もあるが、キャベツの千切りと同等のメニューであるとすれば、あまり期待できるとは言い難い。
改めてライナップを確認したところ、少なくとも日本人が「寿司だ」と認識できるモノは “3.5ユーロ(約442円)以上の皿から登場する” という実態が浮き彫りとなった。仕方がないので4ユーロ(約505円)のマグロをいただくとするか……。
見た目は……普通。
サビ抜き。
味も、普通。日本でいう『コンビニの寿司』くらいのレベルだろうか。繰り返すが、ここはパリ。普通の寿司が食べられること自体、十分にスゴイことではある。
しかし……最近の欧州では、このレベルの寿司であれば割と安価で入手できることも確か。よって「寿司自体に505円の価値はない」ということになるのだが、雰囲気が良いことや立地、パリにおける回転レーンの希少性などを考えると、一概に「高い」とも言えないような。
う〜〜〜む……。
・苦悩する日本人
……アカン。スシローのクオリティに慣れ親しんでいる身として、この寿司の価値をジャッジすることは不可能。あまり深く考えず、気になる皿を取っちゃうことにしよう。
『Matsuri』で提供される巻き物の多くは、なぜか海苔ではなくピンク色のシートに包まれているぞ。味は懐かしの駄菓子『タラタラしてんじゃね〜よ』にどことなく似ている。
きゅうりとサーモンの巻きが3.5ユーロ(約442円)。
エビの握りも3.5ユーロ。なお、このエビに1さじのタレが乗っかると値段は5ユーロ(約631円)に跳ね上がる。あのタレはフォアグラ入りなのだろうか? 怖くて確認できやしない。
幸いにも『Tempura(天ぷら)』は4ユーロ(約505円)の価値があった気がする。大きめのエビがプリプリ! ただし添えられた『天つゆ』は激マズなので、醤油かお塩でいただこう。
5ユーロ(約631円)の『Yakitori(焼き鳥)』もウマかった。正確には「焼き鳥」ではなく「唐揚げ串」だが、細かいことは言いっこナシだ。タレが甘じょっぱくて日本人の口に合う。余裕のある方は焼き鳥屋として利用するのもアリかもしれない。
・5皿でフィニッシュ
ここまで5皿。私は普段スシローで15皿前後を平らげるタイプなので、あと10皿はいける計算だ。
しかし……私はこれ以上注文するのをやめた。5皿の合計は20ユーロ(約2523円)。なお私は取材経費で寿司を食っており、仮にあと10皿食べたとしても、私個人の財布が薄くなるわけではない、という状況である。
しかし、だがしかし……! いくら会社の金といえど「このクオリティで1皿500円」という現実を、私はどうしても受け入れることができなかった。繰り返すがここはパリ。スシローと比べるのは間違いだと重々理解している。でも……この寿司に500円はキツイよぉぉおおお!
周りのテーブルを見渡せば、みな「皿の色など見ていない」といったふうにジャンジャン皿を積み上げている。回転寿司のアトラクション性がウケているのかと思いきや、デリバリーの配達員もひっきりなく出入りしている様子。よく分かんないけど、やっぱパリってお金持ちが多いのかな。
パリでは最高においしいバゲットが1ユーロ前後(100円ほど)で手軽に買える。せっかくパリへ来たのなら、なにも回転寿司へ行かずとも、バゲットを食べるほうが圧倒的にお得であるように思えてならないのだが……それは日本人の勝手な言い分ってヤツなのだろうな。
何はともあれパリの皆さん、寿司を愛してくれて本当にありがとう! 現場からは以上です!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.