今はなき店の味、というのは懐かしくも切ない。もう食べられないからこそ、むしょうに食べたくなってしまう。先日、池袋・東武百貨店前を通ったら、ある名店の名前が飛び込んできて我が目を疑った。

――神楽坂・亀井堂

2021年夏に惜しまれつつ閉店した名店のクリームパンが販売されていたのだ! これは買うしかない! と即買いしてみたけど……。


・神楽坂の名物だった亀井堂のクリームパン

亀井堂は神楽坂の裏通りにあった老舗のパン店。テレビや雑誌の「神楽坂特集」などでは必ずといっていいほど紹介されている有名店だった。

昔の小学校を思わせる白い壁にレトロなグリーンの扉のお店が目印だったが、2021年に建物の老朽化によって惜しまれつつも閉店してしまう。

名物はなんといっても「クリームパン」。昔ながらのグローブ型のパンの中に、ずっしりとあふれんばかりにカスタードクリームが入っていて、早く行かないと売り切れてしまうことも多かった。2階にあるレストランも美味しかったんだよなあ……。


・あのクリームパンが復活?

閉店の報せがショックだったので、ポップアップショップを見たときは嬉しかった。ああ、やっぱり名店の味は失われることはないんだな……と。

聞けば、池袋駅地下・東武百貨店前での出店は2022年3月2日まで。次の催事のスケジュールなどは分からないという。

「神楽坂 龜井堂」と字が旧字体になっているのが少し気になったが、あの亀井堂のお店の写真も飾ってある。さっそく懐かしいあのクリームパン(328円)と、粒あんぱん(298円)、キャラメルのクリームパン(298円)を買ってみた。


・クリームパン買って食べた こんな味だったっけな

ワクワクしながら、クリームパンを手にする。

やわらかいクリームがこぼれそうになるのを思い出しながら割ってみると……

あれ、思っていたよりもクリームが少なめかも? 

カスタードクリームも記憶していたより固めだ。まあ、記憶は美化されるものだからなあと思いつつ、ひとくち、ふたくち。うん、とっても美味しいクリームパンだ。美味しいなあ〜とあっという間に完食したものの……。

どうしても「亀井堂のクリームパンってこんな感じだったけなあ」と気になってしまい、ネットで画像を検索してみる。やっぱり私の記憶していた通り、クリームが端から端までみっちり詰まっていて、私が先ほど食べたものとは微妙に違う。


・亀井堂のパンだけど亀井堂じゃない?

ふと、手元のクリームパンの袋を見ると……


販売者 MIGホールディングス株式会社
製造所 伊藤製パン(株)岩槻工場 


と書いてあった。調べたところ、伊藤製パンは「頭脳パン」などを作るパンメーカーだった。う〜〜〜〜む、製造は亀井堂ではない……? さらに、催事の看板に書いてあった文章を読むと

「現在は神楽坂亀井堂監修により一部のパンを復刻販売しています」

と書いてあるではないか。

なるほど、どうりで記憶のクリームパンの味と微妙に違ったわけだ。つまり、閉店後は別の会社が亀井堂監修のパンを作って販売しているということのようだ。店名が「神楽坂 龜井堂」と、亀の字が旧字体になっていたのもこういった事情が関係しているのかもしれない。

美味しいクリームパンから亀井堂のDNAをたしかに感じたものの、職人の手による「亀井堂のクリームパン」の完全再現は難しいのかもしれない。

今後、もっとクリームがみちみちになって、さらに亀井堂のクリームパンっぽくなることを願う!

執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.