
俗に “世界三3大ウザい国” と呼ばれるのがインド・モロッコ・エジプトの3カ国。私が3カ国全てを旅した結果、ひとつだけ自信を持って言えるのは「最もウザいのはエジプトだった」ということである。
この見解については反論をお持ちの読者もおられると思う。もちろん私とてエジプト人全員がウザいなどとは言っていない。エジプト人にも控えめな方、思いやりに溢れた方が大勢おられるだろう。中には我が友人となりうる人物も混ざっていることだろう。
しかしながら日本人がエジプトを旅する場合、基本的に「エジプト人は全員ウザい」と決めつけたうえで街を歩くのが賢明……否、そうすることでしか街を歩けないと言っても過言ではないのである。どういうことか説明しよう。
・友達の定義が違う
『すれ違う人々がありえない高確率で話しかけてくる』というのは、エジプトで全旅行者が直面する問題だ。このこと自体は他の中東・アジア諸国でもよく見られる現象なのだが……
エジプト人のスゴイのは『拒絶しても勝手について来る』ところ。キッパリ断れば引き下がってくれるインドやモロッコ人とは気合いの入り方が違う。とにかくしつこ〜いのだ、エジプト人は。
そこで基本的に旅行者は “無視” を決め込むのだが、信号機がほぼ無いエジプトには「道路を横断するのに熟練の技術を要する」といった問題もある。要するに、轢かれる覚悟で車の前に身を投げ出すことでしか、道路を横断できないのだ。
そして横断をためらったが最後、すかさず「一緒に渡ってあげるよ、マイフレンド」と、道ゆくエジプト人に話しかけられてしまう。こうなると彼らはまるで10年来の友人のように、どこまでもどこまでもついて来る……それがエジプトの “ウザい” と言われるカラクリである。
そんなわけだから、エジプト最大の観光地・ピラミッド周辺の歩きづらさたるやハンパではない。事前情報によるとピラミッドは有料エリアにも関わらず、しつこい物売りや詐欺師がウロウロしているのだそうな。ナメられないよう「近づく奴は殺す」という険しい表情をつくって、いざ入場ゲートへ。
・念願のピラミッド
ピラミッドには2カ所の入場ゲートがあり、私は比較的空いているとされる東側から入場。かなりの人だかりができている様子だが、みな順番を待っているのだろうか? 近づいてみると……
「売り場はこっちだ」「◯◯ポンドだ」と叫ぶ人々が、イノシシのごとく押し寄せてきた。言われるがまま200EGP(約1469円)を支払いチケットをもらう。すると1人が目にも止まらぬ速さでチケットを奪う。
果たしてコイツは泥棒なのかピラミッドの職員なのか? 展開が速すぎて判断がつかないが、ともかく「ついてこい」と言うので後を追う。すると……
ごく自然な流れでラクダ(有料 / 時価)に乗せられそうになってしまった!!!
あっぶねぇ!!!! “勝手にガイドしておいて料金を要求する詐欺師” が出没するという話は聞いていたが、まさかゲートの外で待ち伏せていたとは……ってか、部外者がゲートを顔パス通過って、一体どういう運営なんだろう?
その後、写真撮影をしていると、すぐさま「シャッターを押してやる」と別のエジプト人が近寄ってきた。ピラミッド周辺には “勝手に撮影して金を要求する詐欺師” も多く出没すると聞く。「いらん!」と男を一喝しその場から逃げる。なかなか落ち着いて見学できない。
少し歩くと、かの有名なスフィンクスが見えてきた。どうやら同じ向きに並んで撮影するのがお決まりの様子だ。
こちらもセルフでパシャリ。
ピラミッドはまだまだ遠い…………。
・怪しいエジプト人登場
入場ゲートから『ギザの大ピラミッド』までは、徒歩で15分ほどの道のりと聞いていた。
しかし実際に入場してみると、エリア内は地面が舗装されておらず、どう歩けばピラミッドにたどり着けるのかが皆目分からない。真っすぐ進もうにも大きな段差に行く手を阻まれ、何度も同じ場所を行ったり来たりするありさまである。
しかし道に迷ったそぶりを見せれば、即座に「ラクダに乗らないか」とお声がかかってしまう。ピラミッドのラクダといえば、法外な料金を請求されることで有名だ。ラクダ乗りから逃げ回るうち、照りつける太陽に体力を奪われ、冗談抜きで倒れそうになってきた。
……と、そこへ現れたのは首からIDカードのようなものを下げた1人の男。彼は追い払おうとする私を制し、「ノー、キャメル。ノー、マイフレンド」と微笑んだ。これは「私はラクダの勧誘および詐欺師ではありませんよ」といった意味である。
この言葉を信じたわけではないのだが、「俺はお金を一切取らない」と断言してみせた彼の瞳が心なしか輝いて見え、私は少しだけ話を聞いてみる気になった。彼は自らを「ピラミッドの公式ガイド」と名乗った。
私は「自分は疲れ切ってあまり動けない。しかし大ピラミッドだけは見たい。大ピラミッドまでの最短ルートを教えてくれ、プリーズ」と依頼。「OK、まかせとけ!」と歩き出す自称・公式ガイド氏。そして……
公式ガイド氏「さっそくだが、まずはこれを見てくれ。紀元前2500年ごろ、クフ王の父スネフェルによって開かれた古代エジプト第4王朝は……」
・もう1度だけ言おう
……おや? なぜかペラペラと遺跡の解説を始めた自称・公式ガイド氏。「ピラミッドまでの最短ルートを教えてくれ」と頼んだつもりだが、英語がうまく伝わらなかったのだろうか?
私は再び「自分はとても疲れている」と説明。解説を聞きたいのはヤマヤマだが、早く帰らないと倒れる危険があるのだ……と、身振りも交えて主張した。「OK、お安いご用」と歩き出す公式ガイド氏。話せば分かるヤツのようだ。
公式ガイド氏「ピラミッドはなぜ作られたか? 答えはこの穴に隠されている。さぁ、君自身の目で確かめてみてほしい!」
・湧きあがる疑念
ちょ、待てって!!!! てか詐欺とか以前に、体調が悪い人間を無理に歩かせるって……人としてどうなん? 自称・公式ガイド氏に金品を要求するそぶりは見られないものの、次第に彼の人格に疑いを持ち始めた私。
だんだん言葉を発するのもツラくなってきた私は「自分で道を探すから、もう結構」と彼に告げた。「OK、わかったよ。こっちのほうが近いぜ」と公式ガイド氏。そして……
公式ガイド氏「ここだけの話、この下にガチのお宝が眠っている。冒険の旅にカモン・ナウ!」
・ブチギレ in エジプト
ここで私はついに、周囲のラクダ乗りたちがドン引きするほど盛大にブチギレた。私は本来あまり流暢に英語を話せる人物ではないが、憎しみの言葉がマーライオンのごとく口からあふれた。怒りでサイヤ人並みのパワーが出た、ということだろうか。
「待ってくれ、マダ〜ム!」と叫ぶ自称・公式ガイド氏を振り返りもせず、ズンズンとピラミッド方面へ突き進む私。もはやピラミッドなどどうでもよかったが、来た道を引き返すのもバツが悪いから仕方ない。
イライラが頂点に達していた私は、近寄ってきたコーラ売りのオヤジを反射的に「いらん!」と一蹴。すぐに「そういえば脱水症状なんだった」と気づいたものの、いちど払った手にすがることもできない。フラフラで歩き続け……
ようやく念願のピラミッドへ到着。数枚の写真を撮影し、足早に元来た道を引き返した。本当は5万円払ってでもラクダに乗って帰りたかったが……先ほどのブチギレが功を奏し、今さら私に声をかけてくるラクダ乗りなど1人としていようはずもないのだった。
・ちなみに……
その後、水を恵んでくれた欧米人から「ピラミッド観光はガイドを雇うのが普通」というショッキングな情報を聞かされた。
欧米人いわく、確かにピラミッド周辺にたむろする “野良のガイド” は法外な料金を請求してくるケースも多い。しかしキチンとしたところで手配すれば、5000円ほどで周辺エリアを全て案内してくれるうえ、用心棒の役割も果たしてくれるのだそうな。
なるほど……私はわずかな金をケチったばかりに、ピラミッドの思い出そのものを台無しにしてしまったというワケか。また冷静に周囲を見渡すと、先ほどの自称・公式ガイド氏と同じネックストラップを下げたエジプト人が、エリア内にチラホラいることにも気づく。
ひょっとして、彼は “本物の公式ガイド” だったのではないか?
この疑念はきっと生涯、私の心に残り続けるだろう。それからゲートで声をかけてきたヤツ、写真を撮ってくれようとしたヤツ、コーラ売りにラクダ乗りたち……彼らの中にもあるいは、親切心から声をかけてくれた “いいエジプト人” が混ざっていたのかもしれない。
が……悲しいことに確かめる術を持たない我々外国人は、今後も全てのエジプト人を「ウザい」とひとくくりにし続けるしかないのだろう。それがエジプトの運命なのだから……。
なお体調のいいタイミングであれば、ウザいエジプト人とコミュニケーションを取ることも旅の醍醐味である。ピラミッドに関しては以前の記事でもお伝えした通り、少し離れた場所からゆっくり眺めることをオススメしたい所存だが……
とにかくなんだかんだあったけど、好きです、エジプト。また必ず行くぜ!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
亀沢郁奈






















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