はー、死ぬまでに京都観光してぇなぁ……と、都内の駅で「そうだ 京都、行こう。」のポスターを見るたびにもう何年も思い続けていた筆者。

行きてぇ行きてぇと思っていたら、コロナが落ち着いていたころにJR東海から京都への招待状が。2022年1月7日から3月13日まで実施予定の「禅と湯 ととのう京都」というキャンペーンを、PRのため体験させてくれるらしい。

これは渡りに船ということで、京都にて色々と体験した筆者。「禅と湯」のうち、「湯」に関する部分はPart.1の記事をご覧いただきたい。本記事では、「禅」に関する部分をレポートしていくぞ!

・禅とは

今回筆者が拝観させて頂いたのは、京都市観光協会が2022年1月1日から3月21日の期間で開催中の「第56回 京の冬の旅」にて、特別に公開(1月17日から3月18日までの公開で2月15日~18日は拝観休止)されている「大徳寺 大光院」

そして「禅と湯 ととのう京都」キャンペーンに際し、JR東海が販売している「ととのうセット」に同封のマップにも掲載されている京阪沿線の「萬福寺」にて坐禅を体験し、最後は宇治の「興聖寺」にてお香を作るというプランだ。

観光協会の方に聞いたところ、お寺が独自に開催したものに関しては不明だが、一般の観光客が「大徳寺 大光院」を拝観できるキャンペーンは、今回が恐らく初めてではないかとのこと。超レアな非公開文化財というヤツだ。テンション上がるぜ!

「第56回 京の冬の旅」では、他にも限定で公開される非公開文化財がピックアップされている。寺院によっては拝観可能な期間が限られているため、詳しくは公式HPを見て頂きたい。

これ等の寺院の拝観や坐禅、お香づくりを通じて「禅」を体験しようというものだが……正直、「禅」という概念自体がピンときていない筆者。

いちおう日本人の端くれだが、UNITEDなステイツにかぶれすぎたのか、禅というよりもZEN的な? なんかCOOL JAPANな感じでイイんじゃない? みたいなイメージしかない。しかも堕落に満ちた日々を送っている。

・大徳寺 大光院

そんな駄目なおっさんでも大丈夫なのかと、一抹の不安を抱えながらもやってきた「大徳寺 大光院」。


門をくぐると、そこにはめちゃくちゃ雰囲気のある苔に覆われた道が。ヤバい、あまりにも「和」すぎる。なんだか緊張してきたぞ。


その先にはこれまた風情が半端ない庭園。


中に入ると、狩野探幽による屏風を襖に直したものと伝えられる絵を見ることができる。二条城 二の丸御殿の壁画などを手掛けた、江戸時代のガチ神絵師だ。これは入って右手。ちなみに左側にも襖絵がある。


そして正面。ポンと載せたが、恐らく超貴重な光景。


両サイドの襖絵に関する詳細が書かれた板。伊達家伝来のものらしい。


ここでは茶室も見せてもらうことができた。入り口が1つしかないタイプだ。(茶室について、今回は特別に撮影させて頂いた。一般の方は静止画・動画共に撮影禁止かつ、当日ご覧いただけない可能性もある点に留意を)


奥はこう。今あるのは移築されたものだが、元は黒田長政、加藤清正、福島正則に縁のある茶室とのこと。すげぇビッグネームが出てきたぜ。


天上には天窓が。どういう構造なのだろう。障子の向こうに突き上げ窓でもあるのだろうか。


御朱印。


来た瞬間はテンション高めだったが、雰囲気に圧倒されてしみじみとした状態になってしまったぜ。内部はどこを見ても完成度が高すぎる

別の意味で “ととのっている” 感がある。こういう場所で過ごしたら精神も真っすぐになりそう。


・萬福寺で坐禅

次にやってきたのは萬福寺。坐禅修行で知られる禅宗が一派、黄檗宗(おうばくしゅう)の本山だ。中国由来ということで、内部も中国スタイル。他の日本式の寺院とは違うとのこと。


ここはとにかく中が広く、さすがは本山という感じ。坐禅の前に色々とご説明頂き、例えばなぜ布袋の裏に韋駄天がいるのかや、その視線の先についての話。羅漢像の顔の造形についての話など、興味深い話のラッシュだった


目に入るあらゆるものに語られるべきストーリーがあるようで、伺ったものだけでも全部書くと大変なことになる。是非ともご自分で行って、詳しく見て頂きたい。

だが、個人的に特に面白かったものを一つ挙げるとすれば……このデカい魚だ


開梛(かいぱん)というらしく、日々の行事や儀式のときに叩いて鳴らすのだという。真ん中あたりだけ色が変わっているのは、そこを叩かれているから。

口の玉は、叩かれて吐き出した煩悩ということだった。そして、このデカい魚が木魚のオリジンなのだとか。どこで作ってて何キロくらいあるんだろう。聞けばよかった。開梛の壁掛け時計とかあれば欲しい。

そしていよいよ坐禅タイムへ。密にならぬよう、隣との間を十分にとって行われた。


テレビなどで見たことはあったが、実際にやるのは初めてだ。最初から最後まで意外なことだらけで非常に興味深い。

まず、座布団が2枚重ねになっており、上の1枚を二つ折りにして、そこに尻を乗せる感じで座るスタイルだとは知らなんだ。てっきり平らなところに座ってやるのだと思っていたぜ。

また、胡坐(あぐら)じゃないというのも知らなかった。両脚の裏を上に向けるのが正しいスタイルらしい。できない人は胡坐でもOKとのことだった。筆者には無理だったので、胡坐でやらせて頂いた。


そして色々と作法の説明があるのだが、最も意外だったのは、動きたい時にとるべき作法が存在したことだ。てっきり何が何でも動くのはNGで、微動だにすれば即座に警策で叩かれるのだと思っていた。


が、そんなスパルタな感じではなく、どうしても動きたくなったら、手を特定の作法で動かして一礼するのだという。まあ、その手順を踏んだのちに叩かれるまでがセットなのだが。


ちなみに今回最大の心残りは、叩かれなかったことだ。こんなこと書くと怒られそうだが、わざと「動きたい時の作法」を実行して叩かれておけば良かった。だって、痛いのかどうか気になるじゃないですか。

今回は通常より短い時間での体験だったため、やろうか迷っているうちに終わってしまった。惜しいことをした。もう3分あれば覚悟を決めて決行していたと思う。

ちなみにJR東海「ととのう京都」のツアーを申し込めば、萬福寺にてガチな坐禅を味わえる。プランにはリズムが独特な梵唄(ぼんばい)というお経を聴き、中国式の精進料理を食べ、そして御朱印を貰うまでがセットになっているぞ!


・興聖寺で宇治抹茶お香づくり

最後にやってきたのは興聖寺。表門から山門までの琴坂という参道が紅葉で有名なお寺だ。内部を案内していただいた後に、宇治抹茶お香づくりを体験できるという。


なお、ここでも内部に開梛(例の叩かれて煩悩を吐くデカい魚)があった。ってオイ、叩かれすぎて腹がブチ破れてるじゃねぇか! 大変だな。開梛にだけはなりたくない。


裏側もかなり追い込まれている。これでまだ煩悩を吐けるなら、もうそれは許してやってもいいんじゃないかと思わなくもない。


ここではお寺の炊事場という、あまり目にすることのないエリアも見ることができた。


聖観音菩薩立像。通称、手習観音。源氏物語に出てくる手習の杜にあったものだという話だった。


こんな感じで色々見せて頂いた後に、一室でお香づくりへ。そもそもお香が何で出来ているのか知らなかった筆者。燃焼を抑えた火薬の類だろうかと思っていたレベル。

製作に入る前にお香の種類について説明があったが、お香には火をつけるタイプの他に、温めるタイプと、常温で使うタイプがあるらしい。


火をつけるタイプしか知らなかったぜ! 今回作るのは、温めて使うタイプらしい。なるほど、その存在すら今知ったばかりの筆者には、全てが未知で興味深い。

がぜん作り方が気になってくるが、驚くべきことに、抹茶の粉と木の粉と水しか使わないらしい。つまり、匂いがついていないお香は木と水だけで作れるということか。面白いな!


この木の粉とは、タブノキの粉末だという。その名もタブ粉。えっ、マジかよ! タブノキはその辺に街路樹として植えられまくっているヤツだ。アレを削って粉にしたらお香になるのかよ! 

よもやよもやである。まさかよく見る街路樹がお香の材料だったなんて。作り方は至って簡単で、まずタブ粉と抹茶をしっかり混ぜる。


次に水を混ぜて、手で粘土みたいになるまでこねまくる。


最後は木の型にはめて、イイ感じに型から抜いて完成だ! 


型は複数あるため、好みのものを選ぼう。筆者が作ったのはこんな感じ。我ながら上手くできた気がする。選ぶ形状次第で4個から5個作れるそうだ。


コツは、作りたい型から作っていくことだと感じた。形状の組み合わせ次第では、量が足りなくなることもあるので。筆者は逆に少し余ったので、浅草の金のアレ的なものを作ってみた。


やってみるとこれが実に楽しく、全行程で最も無心になったのはこのお香づくりかもしれない。気付いたら30分経過していた。子供の頃に粘土や練り消しが好きだったタイプなら、きっと楽しめることだろう。こちらもJR東海ツアーズのHPから申し込めるぞ!

という感じですっかり楽しんでしまったが、この興聖寺は最後の最後に最も印象深い体験をさせてくれた。それは我々が拝観を終え、山門から出て帰路についた時。

最後に1枚、門の写真を撮っておこうと思いたった筆者。琴坂を120メートルほど下ったところで歩きながら超望遠レンズを装着し、素早く振り返ってファインダーを覗くと……


他の人々は振り返ること無く石門から外に出つつあり、一般の参拝客も皆無。ほぼ、琴坂に筆者以外は無人


その筆者が振り返ることは予測不可能だったはずなのに!!


まだ微動だにせず合掌して下さっている……!!! 肉眼だともうかなり小さくなっているような距離だ。そこまでしなくとも、誰も文句は言わないだろう。ただの見送り的ムーヴであれば、普通はもっと早くきりあげているとも思う。

今回は偶然その瞬間が明らかになったわけだが、誰も見ていなくとも、きっと毎回こうしているのではなかろうか。ずっと見送っているのが嬉しかったとか、そこに「おもてなし精神」的なものを見出して関心したとかではない。

個人的には「見送り」など、あろうとなかろうと一切どうでもよく、何も感じないタイプ。そういう話ではなく、この、多くの場合誰にも気づかれず、何の利も評価も得られないままに終わることが多いであろう行為を真摯に行っているところに、芯の通ったブレない主義や思想、あるいは信念のようなものを感じたのだ。

ここが寺院であることを考えれば、もしかしたら教義や信仰なのかもしれない。何にせよ、この時ファインダー越しに合掌して微動だにせずにいるお坊さんの姿を見た瞬間が、今回の旅で最も印象に残っている瞬間だ。「生の本物に触れた感」とでも言おうか。興聖寺はまた別の季節に来ようと思う。


・京都にやられた

ということで、駄目なおっさんの筆者が「禅」を理解できたかどうかはさておき、終始大いに学びと感動に満ちていたことは確かだった。

なるほど、これが京都の持つ魅力……! いや、恐らくまだ京都の良さのごく一部しか体験していないのだとは思うが、それでも京都が世界的にビッグな観光地として人々を魅了し続けられる道理は理解できた気がする。

まあ実際、今回の「禅と湯 ととのう京都」および「第56回 京の冬の旅」の体験を経て京都を気に行ったあまり、衝動的に延泊を決定。帰りの新幹線をぶっちぎったレベルだ。完全に京都の魅力にやられてしまった。

残念ながらこの記事を書いている今は急速にコロナの状況が悪化しつつあり、おいそれと観光をお勧めできる状態ではない。

しかしPart.1でも書いた通り、感染状況が落ち着いたタイミングで、是非とも京都でととのってみてくれ! 特に非公開文化財の特別公開はガチだ!

参考リンク:JR東海第56回 京の冬の旅 
執筆&撮影:江川資具
提供写真:JR東海
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▼萬福寺。お坊さんたちが歩いていた。


▼雪のお寺っていいですよね。


▼興聖寺の庭園。こういうのは誰がデザインしてるのか気になる。


▼お香を温める台的なやつも買える。


▼興聖寺の石門(表門)。この先が200メートルほどの上り坂(琴坂)で、突き当りに山門がある。


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