旅先でのある日、筆者は朝8時過ぎのバスに乗ろうとしていた。身支度をととのえ、いつものようにApple Watchを装着しようとしたとき、異変に気づいた。

いつもならロック解除の指示が出るはずなのに、画面は暗いままでウンともスンともいわない。しまった、充電してなかった……! このままではバスに乗れない!

なお「今まさに困っている」という方のために先に申しあげると、「日頃から複数の端末に交通系ICカードを用意しておくべし」というミもフタもない結論になることをご了承いただきたい。


・ことの顛末(てんまつ)

通勤などで規則正しい生活をしている人は、スマートウォッチの充電も習慣化していると思う。しかし1日に10分ほどのコンビニ外出でしか装着しなかった、という日がざらにある筆者のような非社会人は、「今日はいいか」と充電を省略する日がある。

今回のApple Watchも昨夜までは普通に使えていたのだが、一晩が経過するうちに徐々に放電し息絶えていたという次第だ。

バス時間が刻々と迫る。Apple WatchにはモバイルSuicaを入れており、電車&バスの運賃から自動販売機の利用、飲食店やコンビニの支払いまで生活全般に使用している。ひとつのSuicaに統一しているのは、家計の管理をシンプルにするためだ。

ご存じの方も多いと思うが、1枚のSuica(物理カードではないが便宜的に1枚と呼ぶ)を複数の端末に入れることはできない。Apple WatchならApple Watch、iPhoneならiPhoneだ。

しかし筆者は知っていた。Apple Watch ↔ iPhone間のSuicaの移動は簡単にできる。iPhoneからウォッチアプリを起動して「ウォレットとApple Pay」……

って電力が死んでいるためにペアリングしない! なんてこったー!! 充電器にセットしたApple Watchは、時刻こそ表示するものの操作をまったく受けつけない状態(おそらく省電力モード)だ。バスが来ちゃうよ!

1時間に1本しか電車が来ない地方に暮らしている筆者には信じられない事実だが、都市部ではJR・私鉄・地下鉄をみんな魔法のように乗り継いで移動している。その1回1回で切符を買うなんて手間がかかりすぎる!!!

出発を1時間遅らせてApple Watchを充電するか、あるいはコンビニでモバイルバッテリーを買って移動しながら充電するか……

と思っていたら、Apple Watchの画面にアップルマークが浮かび上がった。ほんの数分の充電で、なんとか通信できる状態になったようだ。よくわからないが、たぶん筆者のような うっかりさん への救済措置なんだな。

改めてiPhoneからウォッチアプリを起動して「ウォレットとApple Pay>Suica>iPhoneにカードを追加」。

よしよし上手くいった。出発だ。


筆者の読み通り、バスは時刻表よりも遅れてきたため難なく間に合った。このときほど筆者は「自分……できるな」と思ったことはない。しかしバスの乗り口で筆者が見たものは……


無反応のiPhoneだった。


なんと「アクティベート中」のまま画面が進行していない。Suicaアプリを起動してみるも「このSuicaはご利用になれません」の表示。

何年かぶりにバスで整理券を取った。


サポートページによると「通常は通信環境の良い場所でお待ちいただければ、処理が完了します」とある。しかし待てど暮らせどアクティベートは終わらない。

なになに、15分以上経っても解決しない場合はSuicaの削除と再設定をやってみろ、と。そうすると即時または翌日5時以降に使えるようになる、と。



翌日5時ぃぃぃぃぃぃ!?


怒濤(どとう)の勢いでググってみると、このエラーは頻繁にあるらしく同じような怒りの事例がたくさん報告されていた。とくにメンテナンス時間にあたる深夜2時~4時はいろいろなサービスが停止するという。


まぁ、私がSuicaを移したのは朝の8時過ぎなんですけどね。


そうこうしているうちに乗換駅につく。そうか、バスで移動中という「通信環境の悪い場所」だったから進まなかったんだな。わかったよ、お前の気の済むまで駅に留まろうじゃないか。


…………


…………


…………変化なし。


やむを得ない。最悪、明日の5時まで使えないことを覚悟にSuicaの削除 → 再設定をやってみよう。削除に関してはすんなり終了。アクティベート中であっても関係ないらしい。

続いて再設定。マニュアルによるとカード情報はサーバ退避されており、「以前ご利用のカード」から簡単に復元できるというのだが……


そんなボタンはどこにも存在しない……


改めて登録すればいいのかと思ったが、もとのSuica番号がわからないうえに、物理カードを読み込むような画面まで出てきたりする。


万策尽きた……


もういいわ。今日は切符買うわ。少し前までみんなそうしてきたんだから。あぁ、リュックから財布を出し入れするのがめんどくさ。切符を大事に管理しておくのがめんどくさ。財布の残金を気にするのがめんどくさ。


ところが、移動したり観光したりしているうちに、先ほどまではなかった「以前ご利用のカード」という項目が出現していることに気づく。押してみるとあっさりアクティベートが終了し、何事もなかったかのようにiPhoneでSuicaが使えるようになった。


な、な、な、な、なんだったんだー!!!!


・解決の理由はわからなかった

後日試したところ、通常時ならばApple Watch ↔ iPhone間のSuicaの移動は簡単に行える。アクティベートも1分ほどで終了し、すぐに残額が反映された。今回の教訓は以下だ。


(1)Apple Watchが充電切れを起こした場合、短時間の充電でも通信さえできれば、iPhoneにSuicaを退避できる。

(2)しかしアクティベートで詰むことがあるので、交通系ICカードには予備があった方が安心。


なおiPhoneの場合、充電切れでも予備電力機能でSuicaを利用できるのは過去記事のあひるねこ記者のレポートのとおり。電車内や改札内でApple Watchが充電切れになった場合は、駅員さんに申し出るのも同じだ。

実に大変な1日だった。ちなみに1番イライラしたことは、マスク姿でFace IDを使えないのに「Apple Watchでロック解除」もできず、毎回パスコード入力を求められることだった。

筆者は誓った。もう2度と充電を忘れない。


参考リンク:JR東日本「よくあるご質問」
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.